アクアパッツァ

「ちょっと、キスでもしてみようか。」

「結構です。」

 また雫の悪戯だ。たまに思い出したかのように誘って来る。僕は彼女に試されているのだ。

「そんな事よりアクアパッツァを作りますよ。さあ、準備して。」

「またまたまた。って、ちょっとそのエプロンかわいい。カメラとって良い?映える。」

 僕は子供向けアニメのアップリケの着いたエプロンを着けていた。というか、雫に無理やり着せられたのだが。自作自演か?いや、意味が違うか。

「おっさかなさん、お魚さん♪鱗を綺麗にとりましょう♪」

「よし、取れた。内臓の処理はお願い。」

「はいよ!」

 僕は魚に包丁を入れて内臓を掻き出しエラも取る。

「バトンタッチ。キッチンペーパーで体を拭きましょうね。ふきふきふき。」

「ちゃんと中も拭いて!」

「もうわかってるよ。はい、終わり。」

「それじゃ焼きますか。」

 僕はフライパンを温める。

「お、ここで登場ですか。オリーブオイル。」

「ここで出さずにいつ出すんだよ。」

「塩ぱさー。」

 雫は魚に塩を振りかけ、それを僕は弱火で焼く。こんがりど皮に焼き目がつくまで確りと。

「さあ、お水を投入。行くよー。」

「跳ねるから気を付けて。」

 僕の隣に雫が立ち肩がふれ合う。彼女の匂いが魚の匂いに紛れ込む。

 僕は強火にして水を煮たたせた。沸騰した水をお玉で魚にかけ続けた。

「あさりをとって。」

「はい、どうぞ。」

 あさりの口が開くまで煮詰める。

「次はドライトマト。」

「はいよ。」

 アクアパッツァの匂いが鼻をくすぐる。

「追いオリーブオイル!!もこみちかよ。ちょっと入れすぎ。やめてもう限界。えっまだまだ入れるの?」

「 ちょっとは黙れないのかな、雫さん。」

 オリーブオイルが乳化したのを確認しパセリを振りかけた。


「楠って料理だけは上手いよね。それだけは認めるよ。」

「はいはい、ありがとう。パンとって。」

 雫は輪切りにしたフランスパンを僕に渡す。雫と手が触れた。彼女の手には油が付いていた。

「ちょっと 拭きなって。」

「気にすんな。私は気にしないよ。」

「自分で言うなよ。」

 今日のアクアパッツァは美味しかった。

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