びり

星ぶどう

第1話

びり。すごく嫌な響きだ。僕はきっと笑い者にされる。

今日は体育祭。僕は障害物競争で走っていた。しかし、全ての障害物を超えて最後の直線で走ろうとした瞬間、僕は転んでしまった。半年前の僕ならすぐに立ち上がって走り出しただろう。でも今の僕は走るのが嫌いだった。だから僕は諦めて座り込んでしまった。そして半年前の自分を思い出していた。

半年前僕は陸上部で、走るのが大好きだった。毎朝家の周りをランニングし、部活もサボらず参加していた。そして夏の県大会の選手に選ばれるために毎日頑張っていた。

僕には親友がいた。その子はとても優しく、足も僕より速かった。

「おーい、お前今日も部活出ないのか。」ある日僕は親友に言った。

「ごめん、今日も塾があって。」

「お前なあ。塾ばっか行ってて最近全然部活出ないじゃないか、もうすぐ県大会なのに大丈夫か。」

「うーん、そうだね。ちょっとまずいかも。でも、来週にやる学校の代表選手を決める記録会には出るよ。」

「そんないきなり走って大丈夫かよ。」

親友は苦笑いをし、申し訳なさそうに帰って行った。

僕らが出場する種目は短距離だ。僕は正直嬉しかった。代表選手は4人まで選ばれる。春の記録会で僕は部員の中で5番目に速く、親友は4番目に速かった。だからずっと親友に勝ちたいと思って頑張ってきた。今の僕はあの頃より速いはずだ。全然練習していない親友にも勝てる、そう思っていた。

しかし、記録会の時に僕は自己ベストを更新したが、親友の方が0.2秒速かった。その後大会の案内の紙が配られ、僕は補欠となり親友が代表選手になった。その時、僕は悟った。努力しても才能には勝てないと。

その次の日僕は陸上部をやめた。そして走るのも嫌いになり、親友とは全然話さなくなった。家に帰ってはゲームをして、たまに勉強をしたりして体育祭の日まで過ごしてきた。

そして今、全然走らなかったためか、僕はあの頃と比べてかなり太ってしまった。あの頃はぴったりだった体操着も今はかなりきつくなっていた。その状態で久しぶりに走ったものだから、バランスがうまくとれずに転んでしまった。周りのみんなは応援してくれている。でも僕は立ち上がって走り出す勇気がなかった。こんな姿を親友に見られるのが恥ずかしかったからだ。

その時誰かが僕の前に手をさしのばしてくれた。見上げるとかつての親友だった。

「大丈夫か。」と親友は優しく言った。僕は嬉しかったが、照れくさくなり

「お前の助けなんかいらないよ。」と強い口調で親友に言った。

「あの時はごめん。でも君はあの時本気で代表選手を目指してたんだろ。俺より何倍も努力して、タイムも上がった。悔しかったかもしれないけど後悔はしてないんだろ。」親友は続けた。

「一回負けたくらいで諦めんなよ。続けることが大事なんだ。ほんとは走るのが好きなんだろ。」

親友の言葉を聞いて僕はあの頃を思い出した。みんなに笑われたっていい。やっぱり僕は走るのが好きなんだ。まだ後ろにはもう1人いる。

僕は立ち上がり、ズボンのお尻を抑えながら走り出した。みんな笑っていた。親友も笑っていた。ビリっという響きがまた聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

びり 星ぶどう @Kazumina01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る