第26話 長い道のり

 魔物が襲いかかってきた。

 火のような真っ赤な羽。というよりも、翼どころか全身が実際に燃えている。フェニックスだ。

 どうやら、リヴィトが操っているわけではなく、人を襲うのは魔物の本能らしい。

「和解したんじゃなかったのか」

「操られてるわけじゃないみたいね」

 ミナが構える。魔力を右腕に込めた。

 魔物が攻撃を仕掛けてきて、かわす一行。いまのところ、かすり傷ひとつ負っていない。

魔族まぞくの誰かについてきてもらうんだったぜ」

 明らかに、魔族まぞくに対する認識が変化しているケルオ。つい最近までは、魔物とあまり変わらないと思っていたはずだ。

「それは、無理じゃない?」

 アイカが言った。

「けどな」

「まあまあ。いまはケンカしてる場合じゃないよ」

 フェニックスが突っ込んでくる。火炎弾を吐きだしてはこない。爪やくちばしを突き立てることや体当たりが、おもな攻撃方法らしい。

「すみません。ぼうっとしていました。陣で対処します」

 珍しく謝ったあとで、陣を広げるソレ=ガシ。

 突っ込んできたフェニックスのくちばしは、ソレ=ガシの頭を噛めなかった。そのままくちばしを軸にしてぐるりと時計回りに回転し、地面に落ちた。

 陣の中なので物理的な攻撃ができないため、地面に叩きつけられない。ダメージもない。

「頼む」

 ケルオの言葉と同時に、陣が狭くなった。マントの男の狙いをソレ=ガシが察したのだ。

 ハンド魔道砲まどうほうの集中砲火で、フェニックスに致命傷を与えた。

「任せて」

 魔力で強化された一撃が魔物を襲う。キュロットスカートがたなびく。ミナのこぶしによって、フェニックスは粉々に砕け散った。

 ソレ=ガシの活躍で、被害は出なかった。功労者がぽつりとつぶやく。

「陣を使いながら攻撃できることは、言わないほうがいいですかね」


「おかしい」

「そうですね」

 ウーハラタ山に近づこうとしても近づけない一行。

「なんで?」

「さっきから、同じ場所をぐるぐると回ってるような」

 山のふもとには、背の高い植物が茂っている。目印になる岩はすくない。ところが、ソレ=ガシたちは同じような岩を再び目にした。

 ケルオがスコープで覗いて、それらしい仕掛けは見当たらない。

 ソレ=ガシをもってしてもかかる罠。この謎について、魔力のない男は興味深そうに考えている。

「これも魔法の効果ですか」

 陣を広げるソレ=ガシ。どうやら、なんらかの方法を使って無理矢理通ろうとしているらしい。

 とつぜんケルオが慌て始める。

「ちょっと待て」

「なぜです?」

「これが試練だった場合、失格になって会ってくれないぞ」

 昔話によると、妖精には試練がつきもののようだ。あの手この手で試すと伝えられている。

「面倒ですね」

 ミナが手を挙げる。

「作戦会議」

「はーい」

「さて、どうすっかな」

 妖精のことをよく知らないソレ=ガシ抜きで、三人が考えを話し合う。

「――だから、こうだろ?」

「そうだね」

「でも、あの話によると――」

 三人が会議する様子を見るソレ=ガシ。口元がゆるんでいた。


「飛んでみましょうか?」

「ちょっと黙ってて」

「はい」

 ソレ=ガシは魔力を持たない。どこになんの仕掛けがあるのか分からない。

 ナノマシンを持たないソレ=ガシには、いわゆる魔力を使った仕掛けは皆目かいもくわからないのだ。

「むー」

「お手上げだぜ。いったんどこかで情報収集だな」

 皆が声を発する。提案するのが誰でも、同じ結果になったはずだ。

「そうですね」

「ええ」

「はーい」

 ケルオの提案に、全員が賛成した。ソレ=ガシも、素直に同意していた。

 ミナが希望を述べる。

「ライティスに行きましょう」

「なるほど。リヴィトからこれ以上の情報を得るのは難しそうですからね」

 納得するソレ=ガシ。

「ライティスをまだあんまり見てないからなんだけどな」

 ミナがぼそりとつぶやいた。

 ライティスまでは約80ポマセ。走っていくと、時間がかかる。具体的には音速で約2時間。

「戦うのは面倒なので、飛んでいきましょう」

「上空は寒いんじゃないのかよ」

「低空なら大丈夫です。風圧は陣でカットします」

 何か言いたそうなケルオは、何も言わずに黙った。

 ソレ=ガシが陣を球状に広げる。背中にミナ。右腕にケルオ。左腕にアイカが乗り、低空飛行で発進した。

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