第二章 この世界の魔王

第三節 大海原

第9話 ウレペウシ号

 乗組員の紹介が始まる。

「ウレペウシ号の船長。ネリアだ」

 豪快そうな女性である。

「航海士。ヨフトです」

 男性のようにも見える。慎重そうな気配がする。

「機関長。サフコ」

 率直さが取り柄だと思われる女性。

「機関士。ペラシンっす」

 女性に見える。純真そうだ。

「通信士。マー」

 明るい少女にしか見えない。

「部員。タラカストスです」

 礼儀正しそうな青年だ。

「部員――」

「覚えきれないので、もういいです」

 ソレ=ガシが言って、自己紹介は終わらなかった。ミナとケルオが続きを聞いた。部員は数が多い。終わるまでしばらくかかった。

「まだ小さいのに、すごいね」

「あんまり歳変わらないと思うけど」

「そうなの?」

 マーとミナはあまり歳が離れていないらしい。

「よろしく頼むぜ、船長」

「ああ。大船に乗ったつもりで任せな」

 ネリアは豪快に笑った。

 そして、ようやくソレ=ガシが反応する話題になる。

「世界の秘密を解き明かす旅なんでしょう? ワクワクしますね」

「話の分かる人がいてよかったです。名前はなんでしたっけ?」

「ヨフトです」

「そうでした」

「聞いてなかっただろ」

「聞いてなかったのね」

 ソレ=ガシは、笑ってごまかしている。

「ここまで分かったことについて話してよ」

 サフコが言った

「じつは、まだほとんど分かっていないんですよ」

「本当っすか?」

 ペラシンがたずねた。

「ハンド魔道砲まどうほうの仕組みすら、まだ分かっていないので」

「魔力で使う、単純なものじゃないのかい?」

「魔力とはなんなのか、というところから、仕組みを――」

 皆で、旅の目的について大いに語った。


「ちょっと、心もとないな」

 タラカストスが調べたところ、物資が足りない。

 ほぼ全員で、手分けして買い出しに向かうことになった。

「必要なものをメモしたから」

「行って来いよ」

 ネリアとヨフトに見送られ、大勢の人たちが船を降りた。

 裏通りを歩くソレ=ガシとミナ。

「いてっ」

 誰かがぶつかってきた。

「ああ? テメェ、どこに目ェつけて歩いてやがる」

「目が見えないのですか?」

「アァ? んだとォ?」

 チンピラから因縁をつけられるソレ=ガシ。ミナはうろたえるばかり。

「明らかにわざとぶつかられましたが、どうしましょうか」

 ソレ=ガシはやる気がない。

「騒ぎは起こさないほうがいいよ」

 ミナの言うとおり、もめ事は起こさないに越したことはない。その言葉に従い、ソレ=ガシは陣を球状に広げた。

「何をしやがった」

「アニキ、ヤバそうですぜ」

「逃げましょうよ」

 三人組のうち子分と思われる二人は、逃げる算段をしている。

「んなこと、できるかっての!」

 殴りかかるチンピラ。ところが、陣の効果で物理攻撃は無効。触れることができない。

「ひいっ」

「やっぱり、おかしいですぜ」

「ここで、引きさがれるか!」

 蹴りを繰り出すチンピラ。だが、結果は変わらない。攻撃は届かず、魔王まおうは涼しい顔をしている。

「くっ。覚えてやがれ」

 捨て台詞をはいて去っていくチンピラたち。ソレ=ガシは無表情で見送った。

「もうちょっと穏便にいきたかったね」

「じゅうぶん穏便では?」

「えー?」

 見解の相違は、簡単には埋まりそうもない大きなものだ。

 買い物が終わり、船に戻ってくる面々。

「よし。あとは」

 ついでに船の整備をおこなう。


「北緯10度」

 目的地の方位の確認。

「373ポマセもあるんだ。時間を浪費するな。無駄口を叩かずに持ち場につけ」

「はーい」

「返事は短く」

「はいっ!」

 船長の言葉に、部員たちは素直に従っていた。

 光と闇が幾度も入れ替わり、冷たい風がじょじょに暖かくなっていく中、船は北上をつづける。

「アジャテラもヴィヘルタも、世界の秘密を知りたがっている?」

 遠くを見ながら、和服姿のソレ=ガシがつぶやいた。

 ソレ=ガシ以外はお腹がすく。補給のため、カトソアの北東にある国、ナハダへと向かうようだ。

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