第65話 勾玉? まあ、そんなのどうでも良いじゃん
なんやかんやあって白菜と相思相愛の仲になったわたしだが、生活自体は今までとあまり変わっていなかったりする。
変化することがあったとすれば、それはわたしが白菜に抱きつく回数が増えたことぐらいだろう。
「由紀、学校行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
季節は初夏。わたしは外に出ることが叶わなくなり始めた頃だ。
そんな猛暑の中を無理矢理にでも学校へと行こうとする度胸はわたしにはない。
今日は今日とて、わたしは居間で冷房に当たりながら研究に明け暮れていた。
わたしは研究妖怪雪娘……ドクター由紀へとランクアップしたのだ!!
……え? 何の研究かって?
酒呑童子やこっくりさんが置いて逝った勾玉についてだけど何か?
「なあ、ドクターって医者じゃなかったか?」
「しっ!」
妖気を込めると発光する勾玉。その正体は未だにわからない。
だがこれは起きるであろう何らかの布石であるとお父さんが睨んでいた。こっくりさんの勾玉はお父さんに預けてあるため、ここにはないが、酒呑童子のは所持しているため研究することができる。
「さっきから光ったり消えたりしてるだけなんだがな……」
「意味はなくても、本人が研究って言ってるんだから研究ってことにしておきなさい。子供なんだからそういうのに憧れる歳なのよ」
――――パキッ
「……おい、なんか嫌な音が聞こえたぞ」
「…………由紀ちゃん? 何をしてるの?」
「ん? お煎餅食べてる」
「おい」
研究? そんなものはもう飽きた。これからはお煎餅を食べながらゴロゴロする時代だ。
僅か数分でわたしはドクター由紀から、白菜のお嫁さん由紀へと舞い戻っていた。
「結局いつも通りに戻ったな。由紀ちゃん、あんまりダラダラしてると太るぞ」
「…………」
いつも通り居間で寛いでいる師匠を畳に寝転がっている優菜さんとお母さんが冷たい目で見る。
全員揃いも揃ってグータラしているため、師匠の言葉がその場に居た全員に刺さったのだ。
「この男はこのまま外に捨ててしまいましょう」
「そうね。由紀、そこの窓開けて」
はーい。
「ちょっ!? やめろ! お前らにヒトの心はないのか!?」
「愚問ね、妖怪にそんなものがあるわけないでしょ」
「おまっ!? ちょっと母さん! やめるんだ!」
「お父さん、私思うの。セクハラはしっかり反省するべきだって…………せーのッ!!」
「うぎゃああああっ!!!」
猛暑の空間である外へと放り出された師匠。憐れだと思うが、仕方ないのことだ。セクハラ発言をした時点で運命は決まっていたのだから。
わたしは元の定位置に戻ろうと、後ろを振り返った。
すると、寝室に置いてある鏡が発光した。
「まぶしっ!?」
光は一瞬だけで、ゆっくりと瞳を開ける。
そこには、お父さんと皐月お姉ちゃんの姿があった。
「由紀ちゃん、久しぶり!」
「柊くん! 急にどうしたの? 鏡を使ってくるなんてよっぽどなことでもあったの?」
わたしの元へと駆け寄って抱きしめる皐月お姉ちゃんと、お父さんに集りに行くお母さん。
「クンクン……ハッ!? 由紀ちゃんから白菜ちゃんの臭いがする……! お父さん、これは間違えなく肌を重ねてやっせ! しかも月単位やで!」
なんじゃその語尾は……というかどんな嗅覚してんだよ。普通にキモいわ。
「ああ、由紀なら白菜ちゃんのお嫁さんになるらしいわよ」
「そうか、あの由紀がもう嫁に行くのか……こっちはまだ行きそうにもないのに……」
「お父さん!? ヒトが婚期逃したみたいに言わないで! 私まだピチピチのJKなんだけど!」
わたしと白菜が結婚することを告げると、お父さんは少し悲しそうにしていた。
――ところで、妖怪で女の子でもあるわたしが白菜と結婚とかできるのか?
できます。何なら子供も余裕です。(即答)
数年後の話にはなってしまうが、とある研究家が女性に男性器が生える伝説の薬を作りあげたのだ。これにより、女性同士でも交配することが世間的に実現された。
ちなみに、男性が服用すると男性器は二つになるらしい。
「まあ、そうだな。結婚式を挙げられるのは白菜ちゃんが中学生になってからだし、楽しみに待ってるぞ」
「うん……!」
「……お前は透花にそっくりだな。その雌堕ちして恋するべくして恋した願いが叶ったみたいな顔が、あの頃の透花そっくりだ」
喜んで良いのか全くわからない例えを出され、わたしは思わず苦笑いをした。
確かにお父さんの言う通り、結婚する切っ掛けはお母さんと同じだったけど、正直お母さんと同列扱いされるのはなんか嫌だった。
「ちょっと柊くん! 由紀に変なこと吹き込まないでよ!」
「まあ、良いじゃないか。こういうことはしっかり子供に教えとく物だ」
いや、教えなくて良いものだと思う。むしろソレを最初に聞いたとき、わたしのなかでお母さんのイメージが破壊されて好感度が急降下したから、墓場まで持っていくものだと思う。
「――って、お父さん目的忘れてるよ」
「ああ、そうだった。勾玉回収しに来たんだ。これ、貰って行くぞ」
お父さんがテーブルの上に置いてあった勾玉を手に取ると、ポケットにしまった。
「何か大変なことでも起きるの? 手伝おうか?」
「大したことじゃない。解析されてわかったんだが、この勾玉は妖怪変化させる代物だった」
「……妖怪変化?」
なにそれと言った感じで首を傾げると、お父さんが説明してくれた。
どうやら勾玉を動物の体内に取り込むと、身体が一度浄化された妖怪に呑み込まれるらしい。再発する妖怪の原因は勾玉にあったようだ。
これらは妖刀ー村雨と一緒に退魔統括協会が作ったもので、何者かによって盗まれてしまったらしい。
「まあ、透花たちには関係ないことだ。……と、言いたいところだが――」
お父さんがわたしのことを見てくる。
いったいどうしたんだろうか?
「由紀、お前は人間になりたいか?」
「え?」
お父さんの唐突な発言にわたしは迷った。
人間になるということは、前世と同じ道のりを辿るということだ。
だが、前世とは違って今のわたしには白菜がいる。白菜と同じ時間を生きて死ぬことができる。人間にならなければ、もしかしたらわたしは白菜が居なくなった後も生きることを強要される。
だから、わたしは決めた――――。
「このままで良い」
「……そうか」
お父さんは特に止めることはしなかった。
これがわたしの選んだ道であると認めてくれたのだ。
「後悔がないなら、それでいい」
「うん、ありがとう。お父さん」
例え白菜と違う時間を生きることになろうと、わたしは構わない。それがどれだけ苦になることだったとしても、わたしはいくらでも白菜を追いかけてみせる。
――というか、白菜が逃げられないように策は既に練ってある。
「魂にすら刻み込んだ契約……由紀、それの意味をわかって――! ……いや、わかってるんだな。わかった上でやってるんだな」
わたしがやったことを視るだけでお父さんにバレてしまった。
でも、わたしが本気だってことも視るだけでわかったみたいで、お父さんは言葉をつぐんだ。
「だってこうすれば白菜と一緒でしょ?」
「お前はよく頭が回るな。流石に透花はやって……ないな。やられてたらどうしようかと思った」
お母さんにそこまで回る脳みそはないだろ。これはわたしが人間として生きた記憶があるからこそ思い付いた秘術なのだ。
この契約で、わたしは白菜の元へといつでも何処でも行けるようになったのだから――――。
「まあ、良いけどな。契約の代償が性感帯の感度3000倍はどうかと思うぞ」
「なッ!?」
なんでそこまでバレてるのぉ!?
そこ! わたしを見てニヤニヤするなぁ!!
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