第63話 雪娘の修学旅行 前編
温度、良し!
天気、良し!
体調、良し!
田舎限定、近場のキャンプ場を目的地とした一泊二日の修学旅行が今始まる――――
「先生おそーい!!」
――はずだった。
先生が遅刻するという何とも言えない状況に、わたしたちは小屋で消しゴムを飛ばして遊びながら、時間を潰すことしかできない。
そして待ち続けること10分が経った今、一度も勝てずに連敗し続けるみこが遂に声をあげた。
「遅れてごめんなさい! レンタカーに荷物積み込んでたら遅くなっちゃって!」
「先生おそいよ!」
「そこまで行事を詰め込んでるわけじゃないから、特に支障はないから安心して」
「ホントにぃ?」
有らぬ疑いをかけるみこに、思わず白菜が溜息を吐いた。
「みこちゃん、日程表見なよ。空白だらけでしょ?」
白菜が開いた日程表。
到着から昼食まではテントの準備などで上手く纏められているが、午後が夕食の準備まで『探検』の二文字が空欄を占めていた。
田舎のキャンプ場じゃ、そこまでする事もないから仕方ないんだろうけど。
「じゃあ車は外に停まってるから、先に乗ってて」
「はーい」
わたしは白菜たちと一緒に外へと赴いた。
◆
わたしたちが学校前に停められていたワゴン車に乗り込むと、すぐに名簿帖を持った先生がやって来た。
「出席取るから返事してね」
二人しか居ないんだから、もう出席取る意味ないじゃんだとか、そんなことは言わない。
教師としての責務だから、そこに子供が何か文句を言うのは間違っている。
「みこちゃん」
「はい!」
「白菜ちゃん」
「はい!」
「由紀ちゃん」
「はい!」
……
…………
………………
「「「えっ?」」」
わたしたちが三人揃って顔を見合わせた。揃いも揃ってどういうわけなのか、理解していなかった。
「先生どうして由紀を……?」
「二人とも隠し事するのが下手なの。見えてないフリをしてても、先生にはとっくにバレバレなのよ」
なんでパンピーの先生がわたしのことを認識できるんだ?
わたしはこれでも妖怪だから、きちんと姿を消してれば見ることはできないはず……。そう、姿を消していれば…………
「あっ……」
「由紀? なにその姿消すの忘れてましたみたいな顔は?」
「あうぅ……ごめんなさい……」
「修学旅行の人数が増えるだけだから、先生は大丈夫よ。でもね、由紀ちゃん。小学校は勉強をする所なの。ベッドでゴロゴロしながらお昼寝をして良い場所じゃないのよ?」
「はいぃ……」
わたしは、先生に頭が上がらなかった。
「ところで由紀ちゃんは今何歳なのかな?」
「12歳」
「そう、12歳なのね。そんなに小さな12歳、先生は見たことないんだけど?」
本当に12歳なのになぁ……。まあ、この小ささじゃ流石に12歳だとは思わないか。
「先生! ゆきちゃんは12歳だよ!」
「…………そうなのね。みこちゃん、寝言は寝てから言うものよ」
「先生、由紀は本当に12歳ですよ」
「……ホントなの?」
「あたし、そんなに信用できないの……?」
ドンマイ、みこ。
わたしはみこの背中を撫でて、凹んでいるみこを慰めてあげた。
◆
まあ、主にわたしに関することで色んなトラブルもあったが、なんやかんやで目的地であるキャンプ場にたどり着いた。
「わぁー! 何もなーいッ!!」
ワゴン車から降りるなり、平原を走り回るみこ。白菜もみこのように走り回らないのかと視線を向けると、白菜もわたしを見てきた。
「……――――ッ!?」
白菜を見てると顔が熱くなってしまい、つい視線を逸らしてしまった。何となくだけど、白菜もわたしから視線を逸らしていたような気がする。
……いや、これはたぶん普通に視線を戻しただけだろう。白菜がわたしに恋をするなんてことはないはずだ。
「……ふ~ん」
声の主に反応して見ると、そこにはニヨニヨとした表情の先生がいた。
もしかして、今の一瞬だけでわたしが白菜のこと好きだってバレた……!?
「みこちゃん、テント張るから戻ってきて!」
「はーい!」
先生がワゴン車からテントを張るのに必要な道具を取り出す。
学校の方で用意されているテントは二つ。サイズはどちらも同じぐらいだ。
「由紀ちゃん、これをこっちと同じように穴に通して」
「はーい」
「白菜ちゃんもそっち、同じようにやって」
「うん!」
テントを無事組み立て終えると、荷物をテントの中に移した。
「さてと……由紀ちゃんはどこで寝る? やっぱり白菜ちゃんと二人っきりがいい?」
「ひゃぅ!? なんで白菜がそこで――!」
「あら? 白菜ちゃんとムフフなことしないの?」
「そりゃぁ、まあ、するけど……」
「え゛っ!?」
あれ? わたし今、何を言って…………
「な、ななんでもないです!! 忘れてください!!」
「そ、そうね!」
「あっ、でもわたし、最近白菜にお世話して貰わないと夜寝られなくて……」
「…………」
わたしがポツリと呟くと、二人の間に無言の時間が流れた。
「……みこちゃんには悪いけど、こっちのテントで貰う?」
「いえ。あっちでお世話して貰います」
「小学生で野外プレイ宣言は流石にませすぎよ……というか、教師という立場上、あまり看過できないんだけど?」
「じゃあ内緒にしときます。ただもしかしたらトイレに行く時間が長くなってしまうかもしれません」
先生が深く溜息を吐く。
そして、わたしに聞いた。
「白菜ちゃんや親御さんは何も言わないの?」
「わたしのお世話は白菜の義務。白菜のお母さんは推奨してる側」
「まあ、合意を得てるなら良いわ。二人がどういう関係なのかは聞かないけど、きちんと責任は持つのよ」
「任せてください。白菜に近付く男は爆殺します!」
「頼もしいけど、それはそれで安心できない」
そんな会話をしながら待っていると、体操着に着替えた白菜たちがテントから出てきた。
いつ見ても、この時代でブルマというのは珍しいと思うな。素足とかエロさ満点だろ。
「先生、由紀と何を話してたの?」
「ん? いやぁ……白菜ちゃんは愛されてるなって話よ」
「先生何を言って!?」
「そうなの? 由紀、私のことそんなに大切に思ってくれてるの?」
白菜が屈んでわたしの顔を覗き込んでくる。
わたしはバラされた恥ずかしさから袖で口元を隠し、視線を逸らしながら小さく頷いた。
「うん……」
「由紀かわいい!」
「ムギュッ!?」
わたしは体操着姿の白菜に強く抱きしめられた。小さいけど、とても柔らかみを感じる胸だった。
「でも私の好きと由紀の好きは違うんだろうな……」
白菜の呟きがわたしの耳を通過して行った。
……えっ? わたしの好きと白菜の好きは違うの?
わたしは白菜のことをこんなにも愛してるのに、白菜はわたしのことを親友か普通の家族程度にしか想ってないってこと……?
ショックを受けたわたしは、黙って白菜のことを突き放し、背を向けてそのまま逃げ去った。
「えっ? 由紀? どこ行くのッ!? ちょっと待ってよ!?」
「……あれま。これはまた見事にすれ違ったわね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます