第62話 がーるずとーく!
白菜とみこが修学旅行もとい、キャンプの準備をしている頃。
俺は優菜さんの部屋で相談に乗って貰っていた。
「つまり、白菜と肌を重ねる度に今までの自分が消えちゃうんじゃないかってこと?」
優菜さんの質問にコクリと頷く。
前世という名のこことは違う未来。その記憶を受け継いでいる俺は、その自分の精神が徐々に変化し始めていることに気が付いた。
それが堪らなく怖いのだ。
「うーん……恋は猛毒って言うからね。由紀ちゃんには難しいかもしれないけど、人間っていうのは日々変わっているのよ」
「?」
「妖怪もそうね。うまく伝わるかわからないけど……例えば由紀ちゃんに嫌がらせばっかりしてくる子が居たらどう思う?」
嫌がらせばかりしてくる奴が居たら?
まあ、間違えなく……
「人間なら殺。妖怪なら言うことを聞くよう物理的に仕付ける」
「相変わらず過激な意見ね……でも、まずはその人のことは嫌いだって思うでしょ?」
「うん」
そうだね。そう思わなかったら殺そうとは思わないし、攻撃しようとも思わない。
「でもその子が不器用で、いつも一人ボッチで帰り道にお婆さんを助けるような優しい子だってわかったら気持ち的にはどう思う?」
なんだ、ソイツは前世の俺だったか。
「その人へのイメージが『嫌い』っていう印象だけじゃなくなるでしょ?」
「うん」
「そしたら由紀ちゃんは丸々変わっちゃうの?」
「ううん、同じ……」
――――あっ。
「そう。それが変化よ。例えどれだけ変化が大きくても、由紀ちゃんは由紀ちゃんなの。例え白菜を好きになろうと、白菜とキスしようと、白菜とエッチしようと……何も変わらないのよ」
なんか最後の方が可笑しかったような気がする。
徐々に過激な表現になって行ったような……。
でも――――
「ありがとう、優菜さん。なんかわかった気がする」
わたしはわたし。俺は俺。
本来ならその二つは決して交わらない平行線なのかもしれない。
でも、それが交差しても何も変わらない。
それならそろそろ前世だけに縛られるのはここまでにしよう。
だって、わたしは俺なんだから――――
◆
「白菜! 今日は一緒にお風呂入ろ!」
「えー……」
「そんな嫌そうな顔しないでよ。別に白菜が一人で楽しんでようとわたしは構わないから」
「ブッ!?」
わたしの言葉を聞いて、白菜が盛大に息を噴き出した。
「ちょっと由紀何を言って!?」
「一人が恥ずかしいならわたしもするから」
「由紀は一人じゃできないでしょ!? そもそも私、そんな恥ずかしいことなんてしてないからッ!!」
ほほーう?
「じゃあ、一緒に入っても大丈夫だよね?」
「うぐっ、わかったよ……今日だけだよ?」
「二人とも、長湯も良いけど、程々にね」
「お母さん!?」
白菜は何を裏切られたみたいな顔をしているんだ?
優菜さんは白菜が毎日お風呂でお楽しみしてることを教えてくれた張本人だぞ?
すべての元凶と言っても過言ではない。
「それと由紀ちゃん。満足したら白菜にゆっくり浸からせてあげなさい」
「はーい」
「えっ、あたしもゆきちゃんたちと一緒に――」
「何を言ってるのみこちゃん? 今日は私と一緒に入るって……ヤクソクシタデショ?」
「ひぅっ!? は、はい、約束しました……」
あの空気を読めないみこが怯えてるだと!?
優菜さん、恐ろしい子!
でも今のはわたしでもゾクッとした。
「じゃあ白菜、由紀ちゃん。お風呂入ってらっしゃい」
優菜さんにニッコリ笑顔で見送られ、俺は白菜と入浴を済ませた。
お風呂では色々あったな。身体洗いあったりして、色々とまあ……楽しかった。
「報告は以上です」
「ええ、壁越しで聞いてた通りね。正直者でよろしい。じゃあ、白菜の部屋で続きを見せてね?」
「は、はい……」
どうして優菜さんにわたしの変態的行動を公開しながら白菜と営まなければならないのか?
そんな疑問は、この家では持つことすら許されない。
優菜さんこそが絶対王者であり、絶対君主なのだ。(洗脳済み)
「それじゃ、おやすみなさい。由紀ちゃん」
「おやすみなさい」
その夜も白菜にお世話になりました。
もちろん、お礼に白菜のお世話もしてあげた。
◆
――翌朝。
今日は修学旅行の日だ。
集合時間が早いため、いつもより少しだけ早く起きた。まあ、早く起きた所でやることは寝癖直しだけなんだけど。
「由紀の髪って不思議だよね。普通そんな風に根強く跳ねないでしょ?」
「まったく理解ができないね」
この寝癖は一体どんな図太さをしているんだ。
主に向かってなんだその態度は。少し図々しいぞ。
「ゆきちゃん、おはよぅ~」
「おはよう、みこ。眠そうだね?」
「うん、修学旅行が楽しみであまり寝られなくて……」
子供か。……子供だな。でも小学六年生だろ?
「由紀、おやつと着替えは白菜ちゃんのリュックに入れておいたから、必要になったら食べるのよ。ご飯は白菜ちゃんのをあーんして貰いなさい」
「はーい」
「え゛っ」
なんだよ、白菜。なんか文句あるのか?
いつも夜にわたしとあんなことやこんなことをする仲だろ?
あーんなんて序の口だろ?
「あっ、白菜ちゃん。由紀は直前になるとヘタレるから、必ず食べさせてね」
ん? 今、聞き捨てならない台詞が聞こえたんだが?
「お母さん? 誰がヘタレだって?」
「由紀よ? いつも夕食のときにあーんすることが出来ないで、もじもじしてる所とか、ヘタレそのものじゃない」
ちょっ!? なんでお母さんそれを知って!?
「え? そうだったの?」
「白菜!? こ、これはその……ち、ちがうんだからっ!!!」
わたしは逃げるように外へと飛び出し、集合場所である小学校に逃げた。
「ううっ……お母さんにバラされた……」
「毎日もじもじしてるなーって思ってたけど、ゆきちゃん、そんなこと考えてたんだね」
「はいはい考えてましたよ! 初恋一つしたことないみこにはわからないだろうけどね!」
「失礼な! あたしだって初恋の一つぐらいしてみたいよ! 文句があるなら先にこの環境に言ってよ!!」
……まあ、この田舎で二十代以下の男比率……というか、若者比率は極端に低いからな。その中からさらに男だけとなると、一人か二人ぐらいしか居ないのではないだろうか?
極端に言えば、この今の田舎で若手の男はモテるだろうな。
例えブスだろうとモテるだろうな。前世のわたしはモテなかったけど。
「ハァ……あたしよりも四歳ぐらい年上のイケメンで、大卒で、優しくて、長男以外で、清潔感があって、常識やマナーがきちんとしていて、正社員で、年収が500万以上の人に一目惚れされたいな……」
「みこ……」
わたしは溜息を吐きながら嘆くみこに対して、肩を掴み、世の中の理というのを告げる。
「そんな理想の人間は、この世に居ない」
「そんなのわからないじゃん! なんでそういうこと言うの!?」
「みこ、ハッキリ言う。中学三年生で正社員なんて、普通居ない」
「……たしかに、そうだね。じゃあ身長が170cm以上で、大卒で、優しくて、長男以外で、清潔感があって、常識やマナーがきちんとしていて、正社員で、年収が五百万以上ある竹内◯真みたいなイケメンの人でいいや」
全国の男性の皆さん。聞きましたか?
これが小学生女児の求める理想の男性像だそうですよ?
しかも、最後の部分。「竹内涼◯みたいなイケメンの人でいいや」と言いましたよ?
――つまりこれ、最低ラインです。
「ハァ……」
「急に溜息なんて吐いてどうしたの?」
「将来、みこと結婚する人を哀れんだだけだよ」
わたしは心の底から、世間の男性に同情した。
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