第60話 開かれし花園への扉 Side由紀


 前半は由紀視点

 後半は白菜視点になってます。

――――――――――――――――――――



 最近、白菜のことが頭から離れない。

 白菜のことを見るたびにあの夜のことを思い出して、鼓動が早くなり、身体が熱くなる。


 俺はいったいどうしたのだろうか……?



「優菜さん……」

「どうしたの?」



 よくわからない感情に振り回されるのはイヤなので、俺は協力を扇ぐことにした。

 俺が相談相手に選んだのはもちろん優菜さん。

 お母さんは論外だし、白菜に相談するのは恥ずかしい。みこに相談するのも頼りないし、師匠に相談するぐらいなら死んだ方がマシだ。

 よって、相談できるのは優菜さんしか居ない。



「最近身体がおかしいの」

「……どんな風に?」

「白菜のこと見てると、胸がギュッて締め付けられてるみたいで身体が熱くて……」



 うまく言葉に表せないけど、必死に伝えようとした。そんな俺の言葉を聞いた優菜さんは終始ニッコリ笑顔で微動だにしなかった。



「由紀ちゃん、それが『恋』なのよ」

「恋……これが?」



 胸を抑えながら優菜さんに訊くと、優菜さんはハッキリと頷いた。

 昔はあんなにリア充滅ぶべしとか思って白菜のことを心の底で毛嫌いしてたのに、今はそんな白菜に恋を……。



「でも白菜は女の子……白菜、わたしのこと気持ち悪いとか思わない?」

「私は全然アリ寄りのアリだと思うし、むしろそんな光景が見られるとかご褒美すぎて神に感謝を捧げるぐらいだから、白菜だって女の子同士の恋愛ぐらい受け入れてくれるわよ」



 ……なんか聞いちゃいけないことを聞いてしまったような気がする。でも、何故だか情報源がしっかりとしていて、とても心強い意見だった。



「でもそうね……白菜だって女の子だから、男の子に恋しちゃうことだってあるかもしれない」

「えっ……」

「もしそうなったら由紀ちゃん、どうする?」



 白菜が得体の知れない男を連れてきたら?



「爆殺」

「なかなかアグレッシブな回答ね……」



 リア充は滅びるべきだ。そんな男、この世から消し去ってしまえ!



「じゃあ、白菜に男を近付けさせないにはどうしたら良いかわかる?」

「…………どうするの?」

「マーキングよ」

「まーきんぐ?」



 なんだっけ? カタカナ言葉が理解出来なくなっているせいで、全くわからない……。



「白菜に引っ付いていれば良いのよ。ご飯のときも寝るときも……あっ、お風呂の時間はダメよ? お風呂は白菜の大切な日課をする時間なんだから。白菜の嫌がることはやっちゃダメよ?」

「う、うん……」



 プライベートな時間は大事だもんな!

 別に白菜がお風呂でやましいことをしているだとか、俺はそんなこと知らないし!



「兎に角、白菜に張りついて周囲にそういう関係だって思わせれば良いの。そしたらあとは毎夜のように二人で楽しむといいわ」

「――――!」



 まるで全てを知っているかのような口振りで言われたその言葉にビクリと肩が震えた。



「由紀ちゃん、あんな声出しちゃって気持ち良さそうだったわよ? でも、一方的にしてもらうのもちょっと違うと思わない?」

「…………がんばる」



 優菜さんに一部始終を見られていたみたいで、恥ずかしさから顔が紅くなる。



「そう、その意気よ」



 優菜さんに頭を撫でられて元気付けて貰うと、俺は早速白菜の元へと向かった。



「白菜……」

「由紀?」



 白菜を見てるだけで顔が熱い……!

 お、俺は一体どうしたら良いんだ……!?

 ……いや、落ち着け。

 優菜さんの意見を参考に、張りついていれば良いんだ。



「白菜、由紀ちゃん。お昼ご飯よー」

「はーい!」



 優菜さんに呼ばれて白菜がテーブルの前に座る。俺は白菜との距離を縮めるべく、白菜の膝上に座る。



「……どうしたの?」

「ここがいい」

「えぇーっ……」



 白菜は嫌そうな声を出していたが、その表情は困っているようには見えず、むしろ嬉しそうにしていた。

 すると、俺の様子を見たお母さんが頬を膨らませて文句を垂れてきた。



「むぅ……由紀ってば白菜ちゃんばっかり構って! お母さんにも構ってくれないと泣いちゃうわよ!」

「やだっ」



 お母さんなんてどうでもいい。今は白菜が男に取られないよう、まーきんぐをするのだ。



「由紀、食べにくいから退いてくれない? ほら、隣になら座ってて良いから」

「…………」



 白菜に邪魔だって言われた……。

 優菜さんも嫌がることはするなって言われたし……仕方ない、ここは引き下がることにしよう。



「今日のゆきちゃん、なんか変だね」

「あはは……そうだね」

「なあ母さん」

「なに?」

「何をメモしてるんだ?」

「……乙女の花園ってやつかしらね。私の本能が疼くのよ」

「なんだそりゃ?」



 優菜さんの性癖の話は置いておこう。アレは触れるだけ無駄だし。

 折角だから恋人らしいことでもして、ちょっとアピールしてみよう。

 そうだな、手始めにあーんとかどうだろうか?



「なに?」

「…………」


 箸を持って白菜にあーんさせようと、威勢を持って指先で白菜をつついた。

 だけど、いざそれを前にすると恥ずかしくなってきた。



「な、なに……?」



 勇気を振り絞れ……その先に希望はある!



「?」

「――――!」



 俺は白菜からプイッと視線を逸らしてしまった。

 やっぱり無理だ!!

 男としての理性が、自分から女の子にあーんをするという行為を許してくれない!

 どうすれば良いんだ……!



「ヘタレだな」



 うっせぇー!!

 師匠にだけは言われたくないやい!




 ◆




 そんなヘタレと言われた俺だが、雰囲気になれば案外何とかなった。

 いつものように白菜に散々慰められていた俺は、今こうしてベッドの上で白菜を押し倒していた。


 ……まあ、偶然なんだけどなッ!!



「由紀……?」

「白菜、これはわたしのことをお世話してくれたお礼だよ」

「ひゃうっ!?」



 俺は白菜の穴という穴に指を突っ込んで、白菜を満足させてあげた。

 白菜に頭を撫でられると、俺は白菜が満足したものだと勘違いして、そのまま眠りに就いてしまった。








 ◆



 私が少し頭を撫でてあげると、一人で勝手に満足した由紀が寝オチした。

 由紀が押し倒してきたときは少しドキドキしたんだけど、そこから先に待ち構えていたのは華やかな展開でも何でもなかった。



 ――ただの地獄。



 由紀の身体は昔からとても小さくて人間らしかった。

 それこそ幼稚園児と同じぐらいの女の子と言えば、妖怪だとさえ疑わないレベルで人間っぽい。ちょっとだけ好戦的だけど、基本的には理性に従った行動をする。


 そんな由紀だからだろうか?

 自分だけ気持ち良くして貰うのは、どうも納得行かなかったらしい。由紀はお礼だと言って私の身体を弄って慰め始めたのだ。


 けれど、由紀の手は非常に小さかった。指が入って来ても気持ち良くなかった。

 いや、気持ち良かったんだけど、刺激が足りなかった。


 でも、由紀は一生懸命頑張ってる。そんな由紀の想いを無下には出来なかった。


 焦れったくなった私は、由紀を寝かし付けることに専念した。


 ――するとどうだろうか?


 由紀は頭を撫でただけで寝ちゃった……。



「由紀は恋人というより、子供みたいだよね」



 でも、そんな由紀が私は大好きだ。


 由紀は私のことをどう思ってるんだろう?


 女の子が女の子を好きになっちゃうのなんて、変かな……?



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