第58話 女子小学生のゆりゆりな百合




 現在、俺は小学生女児にキスを迫られるという何とも素晴らしいご褒ゲフンゲフン……貞操的な危機に晒されていた。



「由紀……行くよ」



 瞳を閉じて待っていると、口唇に柔らかい感触が伝わってきた。

 そして、一秒もしないうちに離されてしまった。



「こ、これで大丈夫なの?」

「そんなわけないじゃない。白菜ちゃんは今の時間だけで夕食を食べきることできるの? これは由紀にとって大切な食事なの。三十分ぐらいかかるに決まってるでしょ?」

「さんじゅっ!?」



 白菜は大きく目を見開いて驚いていた。

 俺も流石にちょっと長過ぎじゃねとか思いつつも、まあご飯食べるならそれぐらい掛かるかと納得した。



「あと、今のうっっっっすいキスじゃ何の意味もないわよ」

「じゃ、じゃあどうするの!?」

「それはね……ゴニョゴニョ」



 お母さんが白菜の耳元で何か囁くと、白菜は顔を真っ赤に染めて「えっ? えっ?」としか言えないロボットのようになってしまった。

 お母さんは子供に向かって一体何を囁いているんだ。



「じゃあ私が見本を見せてあげましょうか? そしたら由紀のファーストキスはお母さんってことになるわね」

「それはダメ!」



 白菜が止めに入る。

 俺だってお母さんはイヤだ。

 前世を含めた俺のファーストキスがお母さんとか、地獄すぎる……。



「由紀、そんな顔してるとお母さん泣いちゃうよ?」



 知らんがな。

 子供のファーストキスを奪おうとした母親なんて勝手に泣いてろ。



「じゃあ由紀はお母さんよりも白菜ちゃんが良いって言うの!?」



 嫉妬した女の子みたいなセリフやめろ。アンタいくつだよ。もう二百超えてるだろ……。

 そうお母さんに直接言おうとするも、喉から声が出なかった。



「由紀、声が!?」

「目も紅くなってる……やっぱり見間違いじゃなかったんだ……」



 みこが小さく呟いた。

 やっぱりってことは……二人が学校から帰ってきたあのときか。よくわからないが、一瞬だけ症状が出てたんだな。

 ――っていうか、目が紅くなるってなんだよ。厨二か?



「ゲホッゲホッ!」



 なんか、からだがきゅうにおもく……うまくしこうできな……

 俺は無意識に白菜へと手を伸ばしていた。



「白菜ちゃん、もう時間がないわ。早くしてあげて」

「……うん。由紀、死なないでよね」



 口唇が触れると同時に白菜の舌が口の中に入り込んできた。



「んっ……んんっ!?」



 白菜の身体がビクリと痙攣した。

 その一方で、白菜の舌からはとても美味しい蜜のような成分を感じられた。あまりの美味しさに身体がそれを無意識に求めてしまっている。



「ゆ、ゆきっ、ちょっとまっ――――」



 身体がもっと欲しいと疼いている。

 俺は舌で白菜から効率的に蜜を搾取しようと、白菜を押し倒し、白菜の口内へと舌を入れて一方的に蹂躙する。



「~~~~~~ッ!!?」



 白菜の身体が強く痙攣した。

 その瞬間にお母さんが俺のことを白菜から無理やり引き離した。



「ちょっと由紀、やり過ぎよ。白菜ちゃん見てみなさい!」



 お母さんに叱られて、白菜の方に目を移す。

 そこには顔は紅潮し、目は光を失い、何度も強く痙攣しながら気絶している白菜の姿があった。



「……すごいエッチだね!」



 あまりの惨状に親指を立てて誤魔化した。

 するとお母さんから呆れたような溜息が聞こえてきた。



「雪女は一部の小説とかだと淫魔サキュバスみたいな扱いされてるからね。由紀にもその辺が受け継がれてても不思議じゃないんだけど……?」



 ヒェッ!?



「わ、わざとじゃないです!」



 お、お母さんが珍しく他人事で怒ってる……!

 これはガチでヤバいやつだ。決してわざとではないけど、あとで白菜に謝っておこ……。



「まあ、これは私も悪かったわ。二人とも初めてだったわけだし、由紀の潜在的な面をきちんと理解してなかったから……」



 おい、その言い方やめろ。まるで俺がエッチな塊みたいじゃないか。



「それと由紀」

「?」

「ときどき口を離してあげないと、白菜ちゃんが窒息するから気をつけるのよ」

「ちっそく?」



 それはなんぞや???

 どこぞの探偵アニメで聞いたことがあるような気もするんだが、いまいち思い出せぬ……。



「息ができなくて死ぬってことだよ」

「……知ってた。知ってたよ。うん、そんなこと常識だよね!」

「ゆきちゃん、絶対知らなかったよね……」



 みこの補足で思い出した。いやぁ、そんな簡単な知識すらも忘れさせてしまうとは、田舎暮らしもなかなか侮れないな。

 勉強してないと、ここまで忘れてしまうのか。

 自慢じゃないが、今なら九九も忘れているような気がする。



「白菜ちゃん、気持ち良さそうだね……ゆきちゃん、あたしにもやってみてくれない?」



 ――などと供述し、突然キスを要求してきたみこ。そういうのに興味を持つお年頃なのだろう。



「由紀、やめた方がいいわよ」



 そこで止めに入ったのはお母さん。

 どうしてダメなのか聞こうとしても、お母さんはただ一言「ダメよ」としか言わなかった。

 脅すときに使ういつものような威圧感はなかった。でも、ダメだということだけは悟った。



 ◆



 それから十分ぐらい経った頃。

 白菜に意識が戻った。



「由紀ひどい! 待ってって言ったのに!」

「え? そんなこと言ってた?」

「言ったよ!」

「ごめん、聴こえてなかった……」



 マジでそんなこと言ってたか。俺の記憶には全くないんだが……。



「お風呂入ってくる」

「う、うん……いってらっしゃい」



 白菜がお風呂に向かう姿を見送ると、俺はお母さんに掴まれ、お母さんの膝上に座らされた。



「白菜ちゃんの身体のことも考えて、三週間ぐらいに分けた方が良いわ。由紀の場合、精気を吸収できる量が少ないみたいだから、四時間ぐらい掛かっちゃうと思う」

「……わかった」

「まあ、体調が悪いときはすぐにお母さんか白菜ちゃんに言うのよ」

「はーい」



 白菜は俺と契約している巫女だ。

 契約内容は妖怪と巫女の間で異なるが、俺と白菜の場合は至って簡単だ。


 ――俺は白菜を護り、退魔を手伝う。その代わりに白菜は俺のことを管理、保護する。


 というものだ。


 俺の体調管理などは全て白菜の役割であり、精気が足りない際にそれを補充するのは白菜が行わなければならない義務である。

 だからお母さんは、俺に精気が足りないとわかったときに白菜を呼び、白菜にやらせるよう仕向けたのだ。



「ねぇ、由紀?」

「なに、お母さん」



 俺は後ろを振り向いてお母さんの方を見る。するとお母さんはとんでもない爆弾を落としてきた。



「別にあのとき白菜ちゃんがキスしなくても死ななかったわよ?」

「へ……?」



 いや、だってあのときお母さん時間がないって言って……。



「精気があそこまで少なくなると、気を失うのよ。そしたら由紀のファーストキスが知らない間に奪われることになっちゃうじゃない? それは可哀想だったから白菜ちゃんに押し付けたのよ」

「……なにその無駄な気遣い」

「寝てる間にファーストキス奪われたかった?」



 それはヤダ。いつの間にか童貞ではなくなったみたいで損失したショックが大きい。実際、俺の相棒が失われたときだって相当なショックだった。あの経験はもうしたくない。



「まあ、ファーストキスというよりかは捕食行為にしか見えなかったけどね」



 そんなに酷かったのか……本能に従い過ぎてて何も覚えてないわ。



「白菜遅いわね。いつまでお風呂に入ってるのかしら? ……由紀ちゃん、ちょっと様子見てきてくれる? っというか由紀ちゃんもそのまま入ってきなさい」

「はーい」



 俺は脱衣場に移動して着物を脱ぐと、お風呂に突撃した。



「白菜一緒に入ろォーーーー……おお?」



 扉を開けてお風呂に突撃すると、そこには白菜の背中があった。



「由紀!? こ、これはその! 何でもないの!」

「?」



 顔を真っ赤に染めて言う白菜を前に、俺は何を言っているのだろうかと首を傾げた。

 ――が、俺は白菜の手の位置を見て、何を恥ずかしがっているのか瞬時に理解した。



「…………」



 ガラガラガラガラ……ピシャッ!



「ちょっと扉閉めないで! 誤解だから! 誤解ィイイ!」



 折角一人で盛り上がってるところをお邪魔しちゃったな……これは失敬失敬。

 ――いやぁ、良いものを見たな。


 俺は満足げに脱衣場を出て行き、居間に戻って行った。



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