第56話 雪娘のサンタさん大作戦!
12月24日。
さて、今日はお楽しみのクリスマスイブだ。双葉神社ではすっかりパーティーモード。
俺は昨日整理し忘れたリュックサックからコミケで貰った二次創作漫画や試写会で販売していた限定グッズなどを取り出して本棚に飾る。
「…………」
リュックサックに入れている梱包された三つの時計。これは押入れに隠して白菜たちに見つからないようにする。
何故ならこれは――――
「ねぇ、みこちゃん。サンタさんにメッセージ書こうよ!」
「いいね! 書こう! ゆきちゃんは?」
「わたしは字が書けないからいいや」
「そっか……じゃあ代わりに書いてあげる!」
書けなくはないのだが、書く必要もないしな。それに、書けば仕事量が増えるだけだ。
――この家にサンタさんは三人いる。
一人は言わずもがなの優菜さん。白菜とみこと師匠にプレゼントをあげている。なんで師匠にまであげているのかは不明だ。
二人目はお母さん。俺に自作のコスプレ衣装をプレゼントしてくれる。正直要らない。一度だけ着てあげて、お母さんが満足したらお蔵入りだ。
そして、三人目は俺だ。雪娘っていうのは、ロシアでサンタさんの孫娘として伝承されている。
決して本人がサンタさんという訳ではないが、これは反面、俺の趣味みたいなものだ。深夜にひっそりと現れて、バレないように帰るというスリルを味わう遊び。
みこは兎も角、白菜はサンタさんを見たいと言って全然寝てくれないので、面白味があるのだ。
……まあ、そんなこともあるから、優菜さんと白菜の部屋の前でバッタリと会ってしまったこともあるんだけど。
「去年は寝ちゃったからね、今年は罠を設置することにしたんだ!」
「わな?」
「そう! サンタさんが来たらネットで捕まえるの!」
やめてあげなさい、優菜さんが可哀想だ。
……俺か?
俺はそんな人間ごときが設置した罠なんて、余裕ですり抜けられる。何なら壁から侵入してそのままプレゼントを置いて出ていくことも可能だ。
……深夜のトラップにそういうのはあまり良くないし、少し注意しておこう。
「白菜、そんなことやって優菜さんに怒られても知らないよ」
「大丈夫だって! こんなことじゃお母さんも怒らないよ!」
「……まあ、夜中にトイレ行きたくなったときに困るのは白菜だから別に良いけど」
「…………」
作戦を断念した白菜をそっちのけに、俺は優菜さんと目を合わせると軽くウインクをしてやってやったぜ感を出した。
優菜さんは有り難そうにしながらも、何故か苦笑いをしていた。
◆
――深夜。
クリスマスパーティーを明日に控えた良い子ちゃんこと、みこが眠りに就いた。
なので俺は布団から起き上がって押入れに歩み寄る。
「たしかこの辺に……あった!」
三色の梱包がされている三つの箱を手に取る。
とりあえず、一つはみこの枕元に、もう一つを自分の枕元に置く。
最後の一つは白菜だ。
「……あれ?」
襖の隙間から光が漏れていた。こんな時間まで起きている人なんていたのか?
それとも消し忘れか?
ゆっくりと襖を開くと、台所で何やら探し物をしている優菜さんの姿があった。
……なんだ? 秘蔵のお菓子でも摘まみ食いするのか?
「優菜さん、なにしてるの?」
「由紀ちゃん、まだ起きてたの? そんな悪い子にはサンタさんが来ないわよ」
「ああ、お母さんならもうとっくに寝ちゃったから壺に隠してあったプレゼントは枕元に置いておいたよ」
優菜さんに、身も蓋もないことを言うんじゃありませんっていう顔で見られた。
いや、でも一言だけ言わせて欲しい。
――親の役割を放棄して、先に寝たお母さんが悪いと思う。
「由紀ちゃん、サンタさんの正体を教えちゃダメだからね」
「うん、わかってるよ……ところでその三つのプレゼントボックスは何かな?」
「白菜とみこちゃんとお父さんの分よ」
「……師匠、あの歳なのにまだあげてるの? 優菜さんは師匠のお母さんですか?」
そんなんだから四十過ぎてもサンタさんを信じる奇怪なオッサンが産まれるんだよ。……まあ、わざわざ口に出しては言うほどのことでもないから黙ってるんだけど。
「由紀ちゃんだって、白菜たちにプレゼントあげて喜んでる顔見るの好きでしょ?」
「まあ、うん……そうだけど」
「それと同じよ」
全然違うと思います。
オッサンが早朝にプレゼントボックスを片手にウハウハ喜んでるのを見ても「誰得ですか?」ってなるだろ。ああいうのは子供にやるから意味があるんだよ。
「師匠は直接優菜さんの手から貰った方が喜ぶと思うんだけど……」
「そんなことは知ってるわよ。だから明日のプレゼントだってここに用意してるわけだし」
戸棚を覗くとそこには酒瓶が一本、包装に包まれて置いてあった。
「……優菜さんはダメ人間が大好きなんだね」
「由紀ちゃんもダメ人間が好きな性格してるから、あまり人のこと言えないわよ?」
「わたしが? そんなことあるわけないじゃん」
どちらかというと、俺のことをお世話してくれる優しい女の子が良い。ダメ人間なんて要らない。
……男? なんだそれは?
股間に棒切れが生えた人間なんて俺は知らんな。
「まあ、そういう素質があるから気をつけなさいってことよ。用心するに越したことはないでしょ?」
「それはそうだけど……」
なんか納得いかない。
「ほら、早くそれを白菜に届けて寝なさい。子供は寝る時間よ」
「はーい……でもちょっと待って」
「え?」
「書かないといけないモノがあるから」
俺がみこの枕元に置いてあった紙切れを見せると、優菜さんは「……文字書けたのね」って呟いた。
……流石に漢字を使ったら怪しまれるか。仕方ない、ひらがなだけで書くか。
「みこにはちゃんと書くとして、白菜はこれでいっか」
子供騙し程度にパパッと返事を書いて、みこの枕元に置くと、階段を上って白菜の部屋へと向かった。
「さぁて、失礼しますよー」
まずは壁を上半身だけすり抜けて、白菜が寝ているかどうかを確認する。部屋は真っ暗だが、目はバッチリと開いている。
そして、枕元には懐中電灯。暗闇で手を掴んだら明かりをつけて正体を暴くという作戦なのだろう。
……優菜さんのためにも一応回収しておくか。
俺は壁をすり抜けて白菜の部屋に侵入して、ベッドの下から懐中電灯を回収する。
そしたら一枚の紙切れを貼り付けたプレゼントを空中に投げて、落下する前に床を透過。
白菜の部屋からご退場。
ちょうど真下にあるのは俺の布団。
俺は着地と同時に布団の中へと入り、深い眠りへと落ちて行った。
◆
「うわぁ……! ゆきちゃんゆきちゃん! サンタさんが来てるよ!」
「ホントだ。良かったね」
「うん! あっ、書いた手紙も返事が来てる!」
「なんて書いてあるの?」
「てがみをかいてくれてありがとう。らいねんもぷれぜんとをたのしみにまってて……だって!」
ひらがなで書いてある手紙を読み上げると、みこは首を傾げた。
「……なんでひらがな?」
まあ、言うとは思ってたよ。でも対策ぐらいきちんと考えてある。
「サンタさんは子供にあげるんだから、ひらがななのは当たり前じゃない? 漢字が読めない子がいたら困るでしょ?」
「たしかに。もしあたしがゆきちゃんみたいな子だったら大変だもんね」
あ? ディスってんのか?
その喧嘩、買ってやるぞ? お前ちょっと外に出ろや。
「由紀ぃー! サンタさんが! サンタさんがひどいの!」
二階から勢いよく降りてきた白菜は、襖を開けて俺の元へと駆けつけてきた。
「どうしたの?」
「プレゼント貰えなかった?」
「違うの! サンタさんからの手紙が酷いの!」
白菜が見せた手紙は、昨日俺が乱雑に書いたたった二文字の言葉だった――。
『寝ろ』
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