第53話 季節はずれのじんぐるべーる
ヤマタノオロチとの一戦も終わった翌日、白菜たちが双葉神社に帰ってきた。
そして俺は今、二人の女性を前に正座させられていた。
「由紀? お母さん言ったよね? きちんとお姉ちゃんとお留守番してなさいって?」
「はい……」
「由紀ちゃんはどうして私を置いて、一人で行っちゃったの! 何かあったら危ないでしょ!」
「はい……ごめんなさい……」
お母さんと皐月お姉ちゃんの連続攻撃は、俺の頭を浮かせることすら赦して戴けなかった。
結果として畳に頭を擦り付けるような状態になっている俺だが、二人はそんなこともお構い無しに追い打ちを続ける。
「ハァ……もういいわ。これを着たら終わりにしてあげる」
お母さんが差し出してきたのは聖夜に近くなると見かける赤い血塗られた色の怪しげな衣装だった。
「まだ九月なんだけど……」
しかもスカート短い……こんなの着たくないんですが……
「――――着るのよ?」
「アッハイ」
有無を言わせない圧力に屈伏し、俺はお衣装を受け取った。
◆
ふむ……服を見るとコスプレしてる感が半端ないが、見なければいつもの改造された着物と変わらないな。スカート短いとか思ってたけど、単純に子供用だからサイズが小さかっただけか。
「……いや、これは短いな」
いかん、いつもの丈が短かったから麻痺してた。これは普通のミニスカートだ。
鏡を見ながら紅い手袋を装着すると、襖の向こう側からお母さんが呼び掛けてきた。
「由紀、着替え終わった?」
「うん、終わったよ」
お母さんが襖を開けると、俺の手を引いてお父さんたちに見せびらかすことになった。
「由紀ちゃん、かわいい!」
「由紀、こっち向いてー!」
季節外れのミニスカサンタに目掛けてカメラを構え、パシャパシャと撮ってくる白菜と皐月お姉ちゃん。
お父さんは、娘の可愛らしい姿を見て微笑ましい顔をしている。
そして、師匠はまるでロリコンのようにニヤニヤしてて気持ち悪い。
――お父さんと同じような顔の筈なのに、なんだこの圧倒的落差は……。
「お父さん? ちょっとこっちに良いかしら?」
「か、母さん……これは違うんだ……」
「ナニガチガウノ? チョットコッチニキナサイ?」
「アァァアアアアアアッ!!!?」
師匠が優菜さんに拉致られた……よしっ! これでロリコンは滅んだッ!!
「ゆきちゃん、かわいい…………いいなぁ」
みこの呟きを聞いたその瞬間に凄まじい発光をした皐月お姉ちゃんの瞳。
次の瞬間にはみこのサイズにピッタリなミニスカサンタコスが取り出されていた。
「えっ? いいのッ!? ありがとうッ!!」
「…………白菜ちゃんの分もあるよ?」
「しろなちゃんも一緒に着ようよッ!!」
「え゛っ」
白菜の返答など待ちもせず、みこは白菜の手を引いて襖の向こう側へと立ち去って行った。
……白菜、どんまい! でもお前はメイド服を着て遊園地に行ったという伝説を持った女だ。これぐらい造作もないに決まっている。(確信)
「由紀、こっちおいで」
「うん!」
お父さんが膝をポンポン叩いて座るように言ったので、俺はお父さんの膝上に座り、背中を預ける。
お母さんがスゴい羨ましそうに見てたけど、どうでも良かったから無視した。
「由紀は軽いな。皐月とは大違いだ」
「お父さんッ!! 私を由紀ちゃんと比べたら重いに決まってるでしょ!! っていうか重くないし! 重いって言うなッ!!」
お父さんにキレる皐月お姉ちゃん。俺はそんな二人を横に、テーブルの上に置いてあったベルを手に持った。
大人が片手で持つのにちょうど良い大きさだ。俺は両手でないと掴むことができない。
「意外と重たい……」
「だから私は重くないって!」
「いや、こっちだから」
「――あっ、ベルの方ね……」
ベルを両手で振ってカランカランと音を立てていると、サンタコスに着替え終わったみこがベルに興味を持ったみたいで俺の手から奪って行った。
白菜はなんでかわからないけど、恥ずかしがっていた。
「メイド服で遊園地行ったのに、なんで恥ずかしがってるの?」
「メイド服で行かされたからだけど!? もうコスプレとかやりたくない!!」
――などと供述している白菜だが、この村で毎年行われる小、中、高、合同演劇では喜んで魔法少女の衣装を着て「マジカルシロナちゃん参上ッ!!」とか言ってる。見ているこっちが恥ずかしいと思ってしまうレベルだ。もちろんそれはSDカードに保存してある。
これは数年後の白菜に効果が抜群だ。何か頼み事をするときに使わせて貰うつもりだ。
「…………フフッ」
「なにその怖い笑い声!」
思わず笑い声が漏れてしまったところで、皐月お姉ちゃんが俺にサンタ帽子を被せた。
「三人とも、写真撮るよ」
「はーい!」
ノリノリのみこ、仕方ないと溜息をつきながら立ち上がる俺、摩訶不思議なことにコスプレを恥ずかしがっている白菜が横一列に並ぶ。
「…………由紀ちゃん、もう少し高くならない?」
カメラを構えた皐月お姉ちゃんが言う。
実際、俺と白菜たちの間にはそれなりの身長差が生まれている。三人が並列した写真を撮るには少し難しかった。
「じゃあ白菜ちゃんたちが膝立ちになって貰って……由紀ちゃんはこれ持ってて」
「ん?」
皐月お姉ちゃんから渡されたのは、俺の両手のひらにちょうど乗っかるような小さなプレゼントボックス。
大きさは婚約指輪が入っているケースに近いと思う。……婚約指輪のケースなんて見たこともないから知らないけど。
「じゃあ撮るよ……はい、チーズ」
――パシャリとシャッターが切られた。
◆
写真を撮るだけ撮って満足した皐月お姉ちゃんは、明日から学校が始まるらしく、お父さんと一緒に都会へと帰って行った。
さっさとコスプレを脱いで私服に着替えた白菜。
衣装が気に入ったためにそのまま過ごすみこ。
着替えるのが面倒でそのまま昼寝に入った俺。
反応は三者三様だったが、時間が経つのは早いもの。
――既に日は暮れ入浴後。
師匠がさっさと部屋に戻った後のことだ。
この日も例に漏れず、俺たちは他愛もない雑談をしていた。
「最近さ、胸の辺りが痛いんだけど……これって何か変なのかな?」
「病気じゃない?」
「病院行ったら?」
つるぺたで膨らみの欠片もないような絶壁を持つ俺とみこは、白菜の痛みに共感することは出来なかった。
それどころか、そんな現象があることすら理解出来ていない俺とみこは平然と病気を疑った。
白菜は不安そうにしながら優菜さんに訊ねた。
「明日は四人で買い物に行きましょうか」
「どこに?」
白菜の純粋な疑問に優菜さんは答えた。
「ファッションセンターよ!」
こうして俺たちは優菜さんの指示の元、街まで出掛けることになったのだった。
「え"っ、私は……?」
部屋の角でお茶を飲んでいたお母さん。
軽自動車に乗れる人数は四人のため、普通ならお母さんはお留守番になるのだが……まあ、バイクを走らせて無駄に足掻くだろうな。
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