第49話 秋といえば?




 季節は秋。秋といえば何か?

 そんなの答えは一つしかない。



「お前ら、修行だ。落ち葉を掃除してこい」



 そう、落ち葉拾いである!!



「……自分でやれよ」



 呆れたように俺が呟くと、二人とも小さく頷いて苦笑いする。

 ……二人とも成長したな。今までなら俺に便乗して師匠に反論してたのに、今では黙って頷くこの有り様である。もう少し成長すると頷くことすら無くなるだろう。

 社畜というのはこうして世の中に増えていくのだろうな。俺には関係ないけど。



「巫女の仕事と言えば境内の掃除だ! 特に白菜、お前はきちんとやれよ!」

「…………お父さんも巫女じゃん」

「お父さんは良いんだ! これはお前たちの仕事なんだ!」



 みこは退魔士で俺は妖怪。白菜は兎も角として、少なくとも俺とみこはちがう。

 ――っていうか師匠、アンタしれっと自分だけえこひいきしてなかったか?



「そうとわかれば行った行った! 終わるまで家には入れないぞ!」



 師匠は俺たちを追い出して玄関をピシャリと閉めた。

 追い出された俺たちは互いに見つめ合うと、こくりと頷いた。三人の思惑が一致した瞬間だった。


 俺はいつものように玄関をすり抜けると、内側から鍵を開けて白菜たちを入れる。

 居間の様子をこっそり覗いて見れば、そこにはグータラしながら昼寝をしている師匠とお煎餅を貪るお母さんの姿があった。



「よくもまあ、昼間っからあんなに堂々と寝られるもんだね」

「まったく、子供の顔が見てみたいものだ」

「……由紀もよく昼寝してるよね?」



 子供だからな。子供は寝ることが仕事だってアニメで教わらなかったのか?

 つまり俺はブラック企業に就職した社畜と同じぐらい働いているのでは……?



「じゃあさっさと追い出しちゃお?」

「そうだね。由紀、窓開けて」

「はいよー」



 窓を開けて通路を確保すると、白菜とみこがせーので師匠を持ち上げて外へと放り出した。

 ……日頃から重たい木刀を振るって身体を鍛えているみこは兎も角、白菜に関しては子供とは到底思えない筋力だな。これも日頃の雑用のせいか?



「なにして遊ぼうか?」

「麻雀?」

「それだ!」



 二階にある優菜さんの部屋。そこには師匠が使わなくなった麻雀のテーブルが置いてある。二年前の酒呑童子戦以来、俺は二人を誘って麻雀を始めたのだ。

 オッサン臭い趣味ではあるものの、田舎では数少ない遊び道具。二人とも嵌まるまでにそこまで時間は掛からなかった。


 お外で寝ている師匠は放置して、俺たちは優菜さんの部屋で麻雀を始めた。



「それロン!」

「ぐっ……」



 白菜が踏み込んでみこにロンされる。白菜の点数が減ると同時に、白菜はコップ一杯分のお水を口にする。これは普通の麻雀をやっているわけではない。

 ――そう、これはおしっこ我慢麻雀であるッ!!


 ルールは簡単。ロンされるかツモされる度にコップ一杯分のお水を飲み、決壊または点数が無くなったら敗退だ。

 実に汚ならしいルールだが、考案者は師匠だ。文句があるなら師匠に言ってくれ。



「まだ一本目だからね、まだまだ余裕だよ」

「じゃあ二回戦目行くよ」




 ◆




 二人で白菜にロンしまくったら、白菜の点数が消し飛んでしまった。白菜のおもらしが見られないのは師匠ロリコン的には残念かもしれないが、俺から見れば全然良かった。もしそんなことされたら後処理の方が大変なのだ。



「いやぁ、間に合って良かったね」

「さも他人事かのように……」

「他人事でしょ?」

「三人とも、焼きイモできたけど食べる?」



 居間に戻ってくると焼きイモを片手に持つ優菜さんの姿があった。

 秋といえば焼きイモだよな。あとは秋刀魚もそうか……秋刀魚が食べたいな。



「そう言うと思って、秋刀魚も買ってあるわよ。今日は七輪で焼きましょう」

「わーい!」



 七輪で焼く秋刀魚はまた一段と美味しい。ただ焼くよりも香ばしい匂いがして食欲をそそるのだ。夕食が楽しみだな。

 ……とりあえず秋刀魚は置いておいて、俺たちは優菜さんからおやつに焼きイモを貰った。



「いっただっきまーす!」



 三人でパクりと一口頬張る。焼きイモが熱くて口の中でハフハフしている。思っていたよりも熱い。流石に溶けることはないが、このままだと火傷はしそうだ。


 俺はお水を手にとって口に含んで焼きイモによる火傷を回避する。



「……今、焼きイモ食べたわね?」



 優菜さんの突然の声に俺は焼きイモを飲み込んだ。



「この世で無料で貰えるものなんてないのよ?」

「…………」



 そう来たか。……っていうか師匠まだ外で寝てる。あそこまで来ればもはや尊敬に値するわ。



「仕方ない、仕事するか」



 俺は布団を敷いて横になる。



「へ?」

「スヤァ……」



 これが子供の仕事というヤツだ。


 俺が深い眠りに就こうとすると、優菜さんに抱き上げられた。



「お外の掃除をしてきなさい」

「はい……」



 優菜さんからは有無を言わせないようなただならぬエネルギー反応を感じた。俺は仕方なく白菜たちを連れて外へと赴き、境内の掃除を始めた。



「ハァ……つらい」



 この身体では竹箒が大きくて扱いにくい。それに加えてこの重量感。これ程にもなると、動かすにも一苦労だ。まだ夕立を振るっていた方が楽だ。



「大変そうだね。こっち使う?」



 白菜が出してきたのは塵取りと片手サイズのホウキ。これなら作業効率はともかく、楽々作業ができる。



「ゆきちゃん、妖術使ってー」

「どんな妖術?」

「氷の壁でそこにスッーってかき集めてよ」

「おー」



 そんな手があったか。みこってば地味に天才だな。俺にはそんな発想なかったぞ。

 よしっ、やってみるか!


 俺は氷壁を生成して押し通す。移動する氷壁に落ち葉が引っ掛かり、あっという間に更地へと変貌を遂げた。



「ゆきちゃんスゴいッ!!」

「はぁはぁ……」



 かなり大雑把な妖術を使った反動なのか、思った以上に疲弊した。

 これ結構疲れるな……もう少し効率的な使い方を考えてみるか。



「それなら網目にしてみたら?」

「網目?」

「こう……ネットみたいな?」



 なるほど……それなら妖力の消費を最低限にまで抑えつつ、回収効率も下がらないようにできる。……完璧な案じゃないか。



「みこって天才だったんだね」

「天才でしょー!」



 折角褒めてやったのに、このバカっぽい発言……なるほど、バカと天才は紙一重ってことか。


 それから落ち葉拾いを終えた俺たちは裏庭で秋刀魚を焼き、美味しく食べたのだった。



「なんだもうこんな時間か……何で俺は外で寝てんだ?」

「お父さん、退魔統括協会から電話よ」

「わかった、今行く」



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