第44話 小学五年生になりました! え? 女の子の日? ナニソレ?
あれから二年が経った。
酒呑童子以降、半年に一回ぐらいのペースで一度浄化された強い妖怪たちが日本中に現れているが、特には関わっていない。
「由紀、行くよ」
「うん、わかった」
白菜とみこも小学五年生になり、身長も俺のことを置き去りにしてだいぶ大きくなってしまった。今では簡単に抱き上げられてしまう。
……それにしても小学五年生ってエッチな響きだよな。
「いってきまーすッ!!」
「行ってらっしゃい」
変わったことと言えば、愛さんが退魔士の免許資格獲得試験を合格して都会に帰ったことぐらいだ。
愛さんが都会に帰ったこともあり、みこは一度家に帰るかを悩んだのだが、なんやかんやあって今も双葉神社に居候している。
そういえば、小学校はもう廃校になるらしい。少子高齢化の進んだこの田舎には白菜たちよりも年下の子供が居ない。
前世でも同じような話があったので、わかってはいたが、前世を含めれば八年近く訪れていた小屋だ。取り壊されるのは少しばかり寂しい。
「……みこちゃん具合悪そうだけど、大丈夫?」
「うん……これぐらい平気……」
視線を向ければ、真っ青に染まった顔でお腹を抑えるみこの姿があった。
……全然平気そうに見えないんだが、大丈夫か?
「辛かったら言ってね。由紀が何とかしてくれるだろうから」
……別に良いけどさ、自分もやれよ。何を他人任せにしてるんだ。俺が何だかわかるか? 妖怪だぞ? 普通の人間には存在すら疑わしいとか言われているあの妖怪だぞ? 本来なら存在してないも同義なんだから、白菜が助けるべきだろ。まあ、助けるけどさ!
授業が始まり、いつものように教室の後方にある医療用ベッドに腰を掛ける。
いつもここでゴロゴロしながら寝てるか、氷を作っているかのどちらかだ。これは三年経っても変わっていない。
「みこちゃん具合悪くない?」
「うん……」
「そう、辛かったら先生に言ってね」
みこは朝からそんなに体調不良で一体どうしたのだろうか?
不思議に思って首を傾げつつも、俺はみこの方に歩み寄る。今日は近くに居てあげよう。
◆
授業も中盤に入れば、みこはいつものように深い眠りへと落ちる。
どうやら杞憂だったかと思い、ベッドに戻ろうと足を動かしたときに何か水溜まりのようなモノを踏んだ感触があった。
「……うわっ!?」
違和感を覚えて下を見ると、机の足に血溜まりがあった。俺が驚いた声をあげると、真っ先に白菜が振り向き、みこの足元に気付いた。
「ち、血ッ!? みこちゃん大丈夫!?」
「んぅ……ぃ? どうしたの……?」
みこを揺さぶって起こすも、当の本人は全く気付いている様子が見られない。
先生は落ち着いてみこに下を見るように言う。
「うわっ!? なにこれ!? あたし死ぬの!?」
「大丈夫だから落ち着いて。……これは生理よ」
「整理?」
「そう」
ん? なんか今、みこの言葉に違和感を覚えたような……まあ、気のせいか。
「きちんと成長した証拠みたいなものよ。ほら、服脱いで。血塗れで気持ち悪いでしょ?」
「う、うん……」
身体を拭き、先生のレクチャーのもとで処置を済ませたみこは、体操着へと着替えた。
「二人とも悪いけど、午後の時間割りは保健に変更ね」
「はーい……」
これが田舎の利点だな。
授業変更をその日のうちにすることができる。特に教材を使わない授業ならば困ることもない。……ところで、小学生の保健の授業ってどこまで教えるんだ?
◆
授業も終わり、三人でお話をしながら下校する。今日は先ほどまでの保健授業が話題になっていた。
「ゆきちゃんは生理って来るの?」
「うーん……どうだろう?」
お母さんは生理が来ているように見えない。毎日平然としているし、家訓のこともあって下着は付けない派だ。血塗れになったタオルも見かけたことはない。帰ったら聞いてみるか。
◆
「ないの?」
「ないわよ」
「ないって」
「いいなぁ……」
「そんなに辛いの?」
「うん……」
どうやら生理というのは非常に辛いものらしい。もし普通の逆行TS転生だったら、俺も経験することになっていたのだろう。みこがあそこまで辛そうにしているのだ。
そんなものが月一で来るとか冗談じゃない。転生先が人間じゃなくて良かった……。
「じゃあ、今日はお赤飯にしましょ。白菜、手伝って」
「はーい」
「あっ、あたしも……」
「みこちゃんは休んでて。辛いんでしょ?」
「う、うん……ありがとう……」
白菜が台所へと向かうと、俺は戸棚の下からカイロを取り出してみこに渡す。先ほど授業で温めると軽くなると先生が言っていたのだ。
「ありがとう、ゆきちゃん……」
次に俺は膝掛けと温かいお茶、上着などをみこに渡してみこが温かくなるように配慮する。
極めつけに俺は妖術を使って、みこのお腹を直接温める。
俺はお母さんに影響を受けているだけで、実際は温度を操る妖術なのだ。少しばかり冷やす方に傾いているが、お風呂ぐらいまでなら温めることができる。
「ゆきちゃん、ありがとう。だいぶ楽になったよ。でもちょっと暑いかも……」
でもさっきより苦しそうに見えるんだけど……本当に大丈夫なのか?
やっぱりもうちょっと温めた方が……
「由紀、やり過ぎよ。過保護が過ぎるんじゃない?」
「えっ? お前が言う……?」
師匠のボソッと呟いたその言葉は、誰の耳にも届かない。
「心配なのはわかるけど、やり過ぎるのは毒よ」
「う、うん……」
「もう由紀はテレビでも見てなさい」
お母さんはそう言ってテレビをつけ、予めセットされていた劇場版妖魔乙女だっきちゃんー無限妖女篇ーを再生する。
俺はみこを心配しながらも、テレビの方に注意を向ける。というか、テレビが気になって仕方がないのだ。これもオタクの本能というヤツだ。
それからしばらくして夕食を食べると、俺は白菜とお風呂に入り、お母さんと一緒に寝た。
みこはお風呂も寝るのも優菜さんと共に過ごしていた。熟練者は慣れているだろうから、あとは任せておいても大丈夫だろう。
「…………」
「お前は嫁の出産を待つ男か」
…………心は男だ!! それにみこは嫁じゃない!
俺の嫁になれるのはただ一人! だっきちゃんだ!
「ほら、お子さまはもう寝る時間だ。みこちゃんももう寝てるだろ。早く寝ないと明日起きれないぞ」
「…………はーい」
俺はみこが気になったが、渋々布団に戻ることにした。
「…………なんでいるの?」
俺の布団に白菜が居た。
「由紀がみこちゃんばっかり構ってるから……」
「嫉妬か、そんな感情になるやつの気が知れないな」
「二年前から嫉妬ばかりしている癖に、よく言うわよねぇ」
「お母さんにだけは言われたくないね!」
お母さんとか、お父さんのことになればどんなことでも嫉妬するじゃん。名前呼びすらも赦さないとか、どんだけ嫉妬深いんだよ。
「ほら、由紀。一緒に寝よ?」
「……白菜寝相悪いじゃん」
「さすがにもう治ってるから!!」
「はぁ、仕方ないなぁ……」
俺は溜息を吐きつつも、白菜と同じ布団に入ったのだった。
――白菜の寝相の悪さは治ってませんでした。
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