第42話 滅びよ転売ヤー!!




 双葉神社まで戻ってきた俺は、白菜やみこ、お母さんたちといつも通りの日常を送っていた。



「《クリスタル・スター》!!」

「《竹筒の壁》だ!」



 最近覚えた遊びは、神楽ちゃんと妖魔乙女だっきちゃんで出てくる技を使って戦うというものだ。

 威力や行動パターンなどにも縛られてしまうために決着がつきにくい。そのため、神様として崇められている神楽ちゃんが一方的に勝利することがなくなった。

 ……妖力の量が根本的に違い過ぎるために、一度として勝てたことはないがな。



 結局、今日も妖力切れで惨敗した。

 俺は隣で木刀を振るっていたみこに回収され、居間へと運び込まれた。



「お主もまだまだだな、避けたところで攻撃が遠距離しかできないようじゃ意味がないぞ」

「でも近距離攻撃なんて……」



 方法がわからない。

 雪娘の妖術で近距離攻撃なんて思い付かない。

 氷でできた剣は脆く、盾で防がれるだけで折れてしまう。槍も簡単に砕け、斧は扱いにくい。



「何も妖術だけが妖怪の全てではない。近距離攻撃できる妖術がないのなら、道具に頼るのもアリだ」

「つまり妖刀ー村雨を使っても良いと……」

「……謝るからそれだけは勘弁してくれ。一撃必殺はさすがに浄化される」



 妖刀ー村雨はダメか。

 まあ、みこが主要武器として扱ってるから、それを使うわけにもいかないか。

 しかしそうなると心当たりにあるのは――――



「……妖刀ー夕立?」



 俺がぽつりと呟いた言葉を聞いて、神楽ちゃんがピクリと眉を動かした。



「ゆきちゃん! 妖刀って他にもあるの!?」



 だがそれ以上に食いついてきたのは他でもない一撃必殺の持ち主、みこだった。

 妖刀って名前が付いてるからな。気になるのもわからなくはない。



「……現実にあるかは知らない」

「なーんだ……」



 みこは分かりやすく落ち込むと、お茶を啜る。

 するとここで、神楽ちゃんが思いも寄らない爆弾を投下してきた。



「由紀、そんなお主にこれを授けよう」

「……これは?」

「夕立……かつて私が旅をしていた頃に使っていた妖刀だ」



 …………はい?



「夕立っ!? これがっ!?」

「うむっ、この私に感謝するがいい!」

「ありがたやー!」

「苦しゅうないぞ。だっきちゃんの限定フィギュアを献上してくれたら私は最高潮だ!」

「それは図々しい」



 ちっ、と軽く舌打ちをする神楽ちゃん。

 流石にだっきちゃんフィギュアは献上できない。勿論、売ることもだ!

 そんなことをするのは、オタクとしての権威を捨てるも同然だ。

 ……そしてそのオタクどもからお金を巻き上げようとか考える奴らは、絶対に許さないッ!!!



「滅びよ転売ヤーッ!!!」

「転売ヤーは滅ぼすべきだッ!!!」



 アイツらは邪魔しかしない!

 本当に欲しいという人に高値で売りつけるクソったれどもめッ!

 俺は絶対に許さない! そう、絶対にだ!!



「由紀って今持ってるの転売したらいくらになるの?」

「あ゛あ゛?」

「うっ、売らないよッ!? 売らないからどれぐらい持ってるのか教えてよ!」



 ……まあ、オタク界の幻とされている妖魔乙女だっきちゃんの初回限定版の円盤が新品未開封で全巻セットあるからな。

 それだけでも軽く100万近くあるのではないだろうか?

 フィギュアとかを全部合わせれば200万ぐらいか?



「…………知らない」

「なんで!」

「わたし、中古屋さんに行かないもん」



 全てにおいて新品未開封品が欲しい俺にとって、中古屋さんなど意味がない。

 白菜やみこは師匠たちとたまに行っているが、俺はお母さんとお茶を飲んで、家で待っているのだ。

 バイクの燃料だって無料じゃない。そういうところでも節約というのは大事なのだ。

 ――っと、ここでお母さんが呼びかけてきた。



「みんな、かき氷できたわよ」

「はーい!」



 白菜とみこは駆け出して台所までかき氷を取りに行く。

 俺は妖力切れで動けないので、座布団の上でかき氷が運ばれて来るのを神楽ちゃんと一緒に待つ。



「やっぱりかき氷は良いね」

「……季節的には早くないか? まだ六月だろ?」



 神楽ちゃんはわかってない。かき氷はお母さんが無料で大量生産できる。シロップを買うだけで数ヵ月分のおやつ代が浮くのだ。

 つまり、その浮いたお金でだっきちゃんのフィギュアを買うことができるのだ!!



「由紀、食べさせてあげる。ほら、あーん」

「あーん」



 ボリボリと氷を噛み砕いて食べると、白菜が次の一口を掬って食べさせてくる。

 ……急にどうしたんだ?

 いつもなら一口食べさせれば満足して、今度は自分が貰おうとしてくる。

 それなのになんだ? 終わる気配が全くない。白菜は一体何をしてようとしているんだ……?



「由紀ちゃんがかき氷を食べると頭がキーンとするのか調べたいんだってさ」

「……ふーん」



 師匠の言葉を聞いて納得が行った。

 完全に焼け石に水でしかないが、折角だからこのまま食べさせて貰おう。どうせ一人じゃ食べられないんだしな。



「雪娘が氷で苦しむ姿って見てみたくない?」

「……白菜、歪んでるね。親の顔が見てみたいよ」

「まったく、誰が白菜をこんな風に育てたんだ! けしからんな!」



 おい、コラ。ウチのお父さんに責任転嫁しようとするんじゃない。前世では白菜もマトモな人間だったんだぞ。

 どう考えても白菜に悪影響を与えてるのは、このだらしない父親だ。



「師匠が悪いに決まっている!!」



 白菜と師匠を除いた全員が頷いた。




 ◆




 神楽ちゃんも帰り、夕食を食べ終えると、俺は珍しく白菜の部屋に立ち寄っていた。



「由紀? どうしたの?」

「みこが宿題やってて暇だったから遊びに来た」

「……私も宿題やってるんだけど?」

「白菜ならすぐ終わるでしょ」



 記憶チートだし。



「適当に暇潰して待ってるから」

「……まあ、いいけど」



 俺は本棚から適当に少女マンガを引き抜き、ベッドの上にゴロンと寝っ転がる。白菜の部屋にある少女マンガは、どれもこれも恋愛系のマンガで共通点としては目がデカい。あと肩にバナナが付いてる。



「『肩にバナナ付いてるよ?』って、そんなことあるの?」

「ちょっと由紀、静かにしてて」

「…………」



 白菜ごときが勉強の邪魔をしてくる鬱陶しい妹を相手にしている姉みたいな対応してきやがった。

 ……別にそんなに子供っぽくないだろ。中身は俺の方が年上なんだし!

 俺は軽く頬っぺたを膨らませる。



「…………もう帰る」

「えっ……?」



 俺はベッドから起き上がって、そのまま白菜の部屋を出た。白菜の「なんだったの?」という声が聞こえてきたけど、俺は構うこともなく居間に戻った。



「……姉らしくなりたい?」



 優菜さんの言葉にこくりと頷く。

 白菜なんかに妹扱いされるとか屈辱的すぎる。誕生日だって俺の方が早いんだ。……三日間だけだけど。



「由紀ちゃんならお姉さんっぽい面も沢山あるんだけどね、妖力切れになると途端に介護が必要になるからそこを直せば良いんじゃないかな?」

「…………」



 なるほど、妖力切れが原因だったか。それなら今後は少しだけ妖力を抑えるようにしよう。



「よしっ! これなら行ける!」



 俺は自信満々にそう言ったのだった――。



「…………本人には言えないけど、あの身長でお姉さんとか、ムリがあるわよね?」

「ふふっ、そうね。由紀も大人びたい年頃なのよ」



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