第41話 良い手段だ、感動的だな、だが無意味だ
こっくりさんとの死闘。いや、正確には死ぬことはないから不死闘と言ったところか?
まあ、そんなことはどうでもいい。俺は今、こっくりさんを相手にスゴく圧されている。
「はぁはぁ……」
こっくりさんと言えば、オカルトでもだいぶ有名な話だ。オカルトの初心者部門と言っても過言ではない。故に禁忌を犯した者の末路は酷く語られ、こっくりさんが脅威であるという認識を人間は持っている。
特に昨今では、妖魔乙女だっきちゃんの宿敵として登場しており、だっきちゃんを圧倒するその力で何度も苦しめてきた四天王の一人だ。
現在放送中のアニメでは倒される気配どころか、傷一つ付いている描写がない。
人間たちの印象ではこっくりさんという妖怪がスゴく強いという印象になっている筈だ。
「まだムリか……」
時計をチラりと見て確認する。
今日放送のだっきちゃんは、雪娘ちゃんの新妖術がこっくりさんに初めてダメージを与えるのだ。その妖術を繰り出せば有効打になるものの、今その情報を知っているのは原作を読んでいる人だけ。効くには効くだろうが、今はまだダメージが少なそうだ。
その妖術を使うのは放送終了後。つまり、夜の七時を回ってからだ。
今は五時ちょっと過ぎ。放送開始時刻まで二時間近くある。どれだけ耐久できるか……。
「わっ!?」
手首を掴まれ、軽々と持ち上げられる。こっくりさんが憑依していることもあって、力も強くなっているのか……!
「こうなったら!」
俺はこっくりさんの身体へ目掛けて吹雪を放つ。
コイツの動きを止めるには、最初に有効だった氷漬けで時間稼ぎをするしかない……!
「ふむっ、良い手段だ。感動的だな。……だが無意味だ。――フンッ!!」
「ぐあっ!?」
二回三回と転がり、地面にうつ伏せになって倒れる。
すると、こっくりさんは倒れた俺を踏みつけて最初に俺が貼り付けた護符を掴み、身体から剥がした。
「低級妖怪の分際でよくぞこの我をここまで足留めできた。誇りに思って消え失せるがいい」
「うぐっ……」
頭を掴まれて頭巾を脱がされる。
こっくりさんがそのまま後頭部に目掛けて護符を貼り付けた。
「…………なに? どういうことだ? なぜ護符が効かない!?」
「ふつう、自分が死ぬかもしれないような護符なんて持つわけないでしょ。それは純粋な妖怪にしか効かない護符、半妖には効かない……!」
「油断したな、記憶にはあったが、そこまでは調べなかった。……そうだな、一度だけチャンスをやろう」
チャンス……?
「お前が知っていて、我が知らないことを訊いてみろ。本当に我が知らなかったことなら……そうだな、浄化されてやる」
「え?」
「だが、間違えたらお前はお持ち帰りだ。この肉体を使って、お前を隅々まで解剖してやる。……さあ、訊いてみろ」
解剖はイヤだ。
でもこっくりさんが知らないことなんてあるのか?
そう考えたとき、俺は思わず口元が弛んだ。
「なぜ笑う!?」
「わたしが勝利を確信したから」
「……面白い、言ってみろ」
俺はこっくりさんは愚か、この世界の人間では未だ知り得ない情報を口にした。
「再来年の春に公開される妖魔乙女だっきちゃんー無限妖女篇ーのラストで雪娘ちゃんが手に握る刀の名前は?」
「なんだそれは……!? 貴様、デタラメを言うんじゃない!」
「えっ? もしかして知らないの?」
ぷぷっ、と軽く笑ってやると、自分の記憶を隅々まで検索して何としてでも答えようとするこっくりさんの意志が見えた。
「……それは我の記憶にはない情報だ。再来年に映画が公開される予定で企画書が作られていることは知っているが、そこまでは知らん」
そこまで知ってる時点でかなりヤバいだろ。どんだけ知ってるんだよ。
「つまりは?」
「わからん……だが、貴様も知らなければ意味がないぞ」
「ふふっ、じゃあわたしの勝ちだね。答えは妖刀ー夕立。これぐらい簡単でしょ?」
「その自信……嘘をついているようには見えない。貴様、何者だ?」
「通りすがりの雪娘だ!」
「おのれDKドォオオオオッ!!!」
こっくりさんさっきからノリ良すぎじゃないのか?
なんでこんなにネタに走るの?
お前、これから消えるんだぞ?
「じゃあ、約束通り浄化されてくれる?」
「ふんっ、別に構わん。一度は浄化された身だしな。我の知らない情報を持つ者に逢えたのだ、もう十分だ……」
こっくりさんは取り憑いていた人間から離れると、煙々しいその身体を大人しく差し出してきた。
「巫女パンチッ!!!」
拳を一撃入れると、気体なのにも関わらず、こっくりさんは浄化されて逝った。
……まさか俺が白菜の技を使う日が来ようとは思いもしなかったな。
「……ん?」
先ほどまでこっくりさんがフヨフヨと漂っていた場所に翡翠色に輝く宝石を見つけた。俺はその宝石のような物を手に取る。
「勾玉……?」
一般男性の片手にちょうど収まりそうなぐらいの大きさだ。俺が持つにはかなり大きい。
そして、この前の紫色に輝く宝石に似ている。
「由紀ちゃん、大丈夫!?」
「あっ、皐月お姉ちゃん……。うん、案外あっさりと終わったよ……」
皐月お姉ちゃんが安堵の息を吐く。俺は壁にもたれ掛かるように膝から崩れ落ちた。
さすがに少し疲れたな……。
「お疲れさま。ボクが運んであげるから、休んでていいよ」
俺が勾玉を裾の内側に仕舞うと、皐月お姉ちゃんに抱き上げられる。
こっくりさんに取り憑かれていた自称ファントム・レギオスは放置され、俺たちはそのまま帰路に着いたのだった――――。
◆
俺は昨日のこっくりさん襲来の件について報告するため、皐月お姉ちゃんと一緒に退魔統括協会へと赴いていた。
「由紀、これはまた随分とお手柄だな」
「えへへっー」
お父さんに頭を撫でられる。昨日も十分に撫でられたけど、また撫でられる。撫でられるのは落ち着くから別に良いんだけど。
「それで、ソイツは確かに言ったんだな? 一度は浄化されたって?」
「うん」
それは俺も引っ掛かった言葉だ。
普通、過去に浄化された妖怪は現実に戻ってくることはできない。それはどう考えてもおかしいのだ。
「妖怪の再浄化か……」
「あっ、お父さん。これ拾った」
昨日拾った翡翠色に輝く勾玉をお父さんに手渡す。
「この前のヤツに似てるな……」
取り敢えず俺の知り得る限りの情報は提供した。頭の悪い俺ではマトモな発想や思考はできないため、あとはそっちで上手くやってくれとしか言えない。
「まあ、それは追々って感じだな。……由紀、この一週間よく頑張った」
「うん」
「帰りの手配は済んでるから、皐月に挨拶してこい」
「……わかった」
この都会での生活ももう終わりだ。わずか一週間だというのに、随分と長く感じた。
お母さんや白菜たちともだいぶ会ってないし、そろそろ顔ぐらいは合わせたいと思っていた。
帰りの際は退魔統括協会にある特別な鏡を使うことで一瞬で双葉神社まで帰ることができるらしい。
「いつでもおいで。楽しかったよ」
「わたしも」
「またね、由紀ちゃん」
「うん、また来るよ皐月お姉ちゃん!」
そう言って俺は鏡の中へと足を踏み入れ、双葉神社まで帰ったのだった――。
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