第23話 この新たなオタクに祝福を!



 神楽ちゃんにフォローを入れながら、話を楽しむ俺たち。

 その頃お母さんは、神楽ちゃんのお願いで『妖魔乙女だっきちゃん』に出てくる、だっきちゃんの師匠であるかぐや様のコスプレ衣装を作っていた。



「こんな感じでいいかしら?」

「うむ! ありがとう、凄く助かった。早速着てみる!」

「わたし、着付け手伝うよ」



 というわけで、俺は神楽ちゃんと部屋を移動して襖を閉じる。

 神楽ちゃんは着替え始めると同時に、俺に話し掛けてきた。



「正直助かったぞ」

「どういたしまして」

「……しかし、よくもまあ、あそこまで清々しく嘘を突き通せるものだな。私が言うのもおかしいが、嘘をついてることに少しは罪悪感を持たないのか?」



 これでも前世は、一流の指揮官であり、一流のプロデューサーでもあり、一流の提督でもあったからな。

 (好感度を上げるためなら)この程度の嘘ぐらいいくらでも言ったことある。

 それに……



「わたし関係ないし」



 ただ神楽ちゃんの設定が増えるだけだ。

 そこまで細かく掘っていなければ、俺からボロが出ることはまずない。どちらかと言うと、苦労するのは神楽ちゃんの方だろう。



「お前は人間じゃねぇー!」

「妖怪ですー」

「そうだった!」



 定番な妖怪ジョークを繰り広げると、俺は神楽ちゃんの着付けを終える。

 コスプレ衣装は神楽ちゃんサイズで作られているけど、大丈夫なのだろうか?

 ――疑問に思ったので訊いてみた。



「コスプレというのは衣装が我々を着飾るものではない。我々が衣装の魅力を引き立たせるのだ。衣装を調節するのではなく、我々がその衣装に合うサイズになるのだ」



 おお、なるほど。

 俺は身体を伸縮できるビックリ妖怪じゃないからよくわからないけど、なんか凄い。

 もう少し経つと九歳だというのに、俺は他の妖怪とはここまで交流を持ったことがなかった。なので神楽ちゃんと話していると、知らないことを沢山教えてくれる。


 毎年初雪が降ると、妖怪たちをボコボコにして食べ物を奪っているのだ。そこまで仲良くなれるわけがない。

 みんな俺やお母さんのことを見るなり、一目散に逃げて行く。


 だが、そんな妖怪の中にも戦闘狂なヤツもいるもので、攻撃を仕掛けてくるヤツだっている。

 もちろん、そんな奴らは全員もれなく返り討ちにしてやった。



「由紀、着付けできたー?」

「うん、できたよ」



 襖が開くと、お母さんが着付けのチェックをする。

 お母さんは、物差しで着物のサイズを測り、神楽ちゃんに苦しい所があるかを訊いたりした。

 その間、する事がなくなった俺は、炬燵に戻ってお茶を飲む。



「学校でも言ってたんだけど、妖魔乙女だっきちゃんって、そんなに流行ってるの?」



 みこが俺に訊いてきた。

 今年はまだそこまでではないが、来年には世間的に妖魔乙女ブームが訪れ、大流行する。現状はその基盤となる子供たちの心を掴みかけている段階と呼べるだろう。

 前世ではそのブームがあったおかげか、十年経った未来でも、新作映画を公開している。



「結構面白いよ。一話から録画してあるし、見ようよ」

「うんっ!」

「私も見るぞ!」

「じゃあ一緒に見ようっ」



 お母さんの調整が終わったのか、炬燵に入ってきた神楽ちゃん。

 俺はリモコンを操作して、第一話を再生する。

 残念ながら円盤はまだ発売していない。円盤が発売する頃には大流行して、初盤は手に入らなくなる。

 というかそもそも、貧乏な我が家に円盤なんて買う余裕はないのだ。


 ――春になったらお父さん帰ってくるし、流行する前に街まで行って予約しに行くか。




 ◆




 俺たちは三時間程掛けて、妖魔乙女だっきちゃんを現在放送されている第十話まで観賞した。



「なんで大天狗様死んじゃったの!?」

「みこ、どれだけ嘆いても大天狗様は帰って来ない。我々はだっきちゃんが無事にお母さんを取り戻すことができることを祈るだけだ」

「神楽ちゃ~んッ!!」



 先程までは俺が間に入ってコミュニケーションを取っていたため、少しぎこちなかった。

 だが、妖魔乙女だっきちゃんのおかげで、二人ともすっかり打ち解けたようだ。



「さて、わたしは漫画でも読んでよ」

「なんでだっきちゃんの漫画持ってるの!?」

「普通持ってるであろう?」

「当たり前だよなぁ」



 オタクとして当然だろ?

 みこは一体何を言っているんだ?



「でもこれで話題に置いて行かれることもないね」

「そうだな」

「うん、二人ともありがとう!」



 今度みこが学校行けるのは、間違えなく年明けになりそうなんだが……まあ、黙っておくか。



「……おっと、もうこんな時間か。そろそろ帰らねば」

「じゃあ送るよ」

「あたしも!」

「みこちゃんは難しいんじゃないかしら? 私と由紀で送っていくから、みこちゃんは玄関までね」



 お母さんの過保護モードが発動したようで、俺と一緒に送ると言い始めた。

 まあ、別に良いんだけど……。

 

 ――帰り際、玄関にて。

 神楽ちゃんがポケットから明らかに質量保存の法則を無視したサイズの紙袋を取り出して、こちらへと差し出してきた。



「これは今日のお礼だ。仲間も見つけられた上、コスプレ衣装まで作ってくれたしな。受け取ってくれ」

「ありがとう神楽ちゃん」



 俺は紙袋を受け取ると、軽く中身を確認する。

 さて、何が入ってるかな? だっきちゃんのフィギュアか? それともポスター?

 オタク心全開で紙袋の中に手を入れる。



「!!?」



 紙袋に入っていたのは、妖怪なら誰でも喜ぶ妖魔樹の果実だった。俺は非常に嬉しかったので、笑顔でお礼を言った。

 俺が妖魔樹の果実を手にしてるのを見たお母さんは、握り拳を作ってとても嬉しそうにしていた。



「どういうのが好みなのか、わからなかったから不安だったが、気に入って貰えて良かった。ではそろそろ行くとするか」

「また来てね!」

「うむ、また来る」



 神楽ちゃんは、俺とお母さんと一緒に玄関を出た。

 玄関の扉を閉めると、お母さんが口を開いた。



「山神様、何か気づいたのですか?」

「……なんだ、バレていたのか」

「由紀の嘘ぐらい簡単に見抜けますよ。これでも母親ですからね」



 お母さんは嘘をついたお仕置きだと言って、俺の額を指で弾いた。



「あうっ」



 結構痛かった……。

 赤くなった額を抑えていると、今度は神楽ちゃんが口を開く。



「母親だからではなく、その勝手に動くアホ毛で判断したのでは……?」

「アホ毛じゃないし! 寝癖だし!」

「…………そうか」



 今の間はなんだよ!

 何か言いたいことがあるならハッキリ言え!

 山神様だろうとボコボコにしてやっからな!


 ……それにしても、この寝癖が嘘をついてることを口走っていたのか。

 許せん寝癖だ。

 今度こそ退治してやる。

 そこで神楽ちゃんが二、三回咳払いをする。



「少し話が逸れてしまったな。……どうやら、私の妖気に紛れて悪さをしている真犯人がいるようだな」

「真、犯人……?」




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