ニゲラ(クロタネソウ)「夢で逢えたら」

彼に最後に逢ったのはいつだっただろうか。

もう一年以上逢っていないのは確かだ。去年は私の受験、今年は彼の受験。学校へ、塾へ、バイトへ、忙しい日々が続き、逢う暇なんてどこにもないということは、よくわかっている。志望校に合格したいからと言って、夜遅くまで勉強を頑張っていることは、彼がいつも寝る前に送ってくる「おやすみ」のメッセージが毎日日付を超えてから、それも明け方近い時間帯のことが多いことからわかっている。

去年、私のことを応援してもらったんだから、今年は私が応援しなくては、と、思って入るのだが、彼のぬくもりが恋しいと思ってしまうのは、私だけなのだろうか。


ああ、彼に逢いたい。


カーテンをそっと開けると、丸い月の青白い光がまっすぐ部屋の中に入ってきた。静かなその光を、彼も見ているだろうか。いや、きっと今晩も机にかじりついているだろう。だって彼は、誰よりも頑張っているから。だから私がこの月の光に願いを載せるなら、「彼の努力が実りますように」だ。


わかってはいるのだけれど。


自分の中で少しずつ、灰色の雲が膨らんでいく。

私はそれを収めようと、ゆっくり息を吸って、吐いた。そして、布団の中に潜り込んだ。仕方がないことをどうにかしようと思うのはわがままだ。決めたことはひっくり返さないようにしなければ。


でも、せめて夢で逢えたらいいのに。


そう期待して私は目を瞑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る