黄色い水仙「もう一度愛して」

「もう、無理だと思うんだ」


 あまり悲しそうな顔をしないで君がそういったのは去年の冬だった。今にも雪が降り出しそうな灰色の雲の下、白い息とともに私の口から出てきたのは思っていることとは正反対の言葉だった。


「そうね、終わりにしましょう」


 いい彼女でいたつもりだった。君の言うことは何でも聞いた。わがままはなるべく言わないように気をつけた。記念日を君が忘れていても、デートに遅れてきても、寂しい気持ちを笑ってごまかしていた。別れ際も君を困らせたくないという一心だった。

 だって、君が好きだったから。

 灰色の街に君の影が溶けて、春が来た。桜の花が楽しそうに咲いても、私の心は枯れ木のままだった。欠けてしまったピースは大きく、出会う前の私に戻ることは、もう、出来なかった。


 ねえ。君は今何をしていますか。

 ねえ。君は今何を考えていますか。

 ねえ。君は今誰と一緒にいますか。


 考えることはいつも君のことばかり。私はまだ君のことしか考えられない。あの頃の君の笑顔、あの頃の君のぬくもり、あの頃の幸せな気持ち。何があっても君が私に向けて笑いかけてくれれば、それだけで世界中の嫌なことが全てどうでも良くなっていた。


 ねえ。私は今何にも手がつかないでいるよ。

 ねえ。私は今君のことを考えているよ。

 ねえ。私は今一人ぼっちだよ。


 薄荷の飴の後味があの日から消えない。口の中に残るこの味はどうやったら消えるのでしょうか。


 ねえ。できればもう一度笑いかけてください。

 ねえ。そして抱きしめてください。

 ねえ。よければもう一度愛してください。

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