元祖厳七郎江戸日記No.2

江戸嚴求(ごんぐ)

第1話

「決意の朝」




ここらが潮時だと思った。その日、いつもより一時間早く出勤した。すいません、と一言述べた後本題に入った。


「実は、介護職員初任者研修講座を受講しようと思いまして、九月一杯で退職させていただきたいです」


どんな反応を示すのか。引き止められるかと危惧した。


「わかりました。じゃあ近いうちに退職願を提出してください」


たぶん五分とかからなかっただろう。あまりの呆気なさに拍子抜けした。いつも、


「江戸さん休むと大変よ」


「ウチの施設は、江戸さんで回っているようなものよ」


普段そんなことを言っていた施設長が、あっさり承認してくれたことにちょっとガッカリした。


皮肉なものである。給料が安くてとても食べていけないという理由から転職に踏み切ったのに、慰留されないとそれはそれで寂しい。


まあ、三ヶ月前に自分より仕事のできる人が入所したので、こうなることはある程度予想はしていたが。


後は転職に向けて動くだけだな。夕方、介護職向けの求人サイトから連絡が来た。


近々転職する意思はないかという打診だった。まだ講座が受かるかどうかわからない状況だったが、十月の下旬に受講する予定だと伝えた。


「それでしたら、パートで働きながら受講するというのはどうでしょう。

講座が修了した頃には、正社員として雇っていただけますので」


さすがに仕事柄、勧めるのが上手いと感心した。家内とも相談するので検討させてくださいと返事した。


なんだか話がトントン拍子で進んでいる気がする。仕事が決まる時は、こんな調子で決まるものなのか。まだ相談しないとなんとも言えないが。


次の連絡を確約して電話を切った。退職して、少しはのんびりできるかなと思ったがとんでもない。


取り敢えず家族会議(二人だけだが)を開こう。


このエッセイは、不定期配信です。


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