火の神の祀られる辺境の街、大聖堂に暮らす孤児の少女のお話。
異世界ファンタジーです。特筆すべきはやはり設定面というか、文化や因習に地理歴史宗教などなど、広範に渡りながらも仔細に掘り下げられた世界そのものが大変魅力的でした。安定感というか安心感というか、緻密な設定が物語全体を下支えする感じ。
特に好きなのはその手の広げ方と的の絞り方で、広い世界全体の存在を感じさせるのに、あくまで直接の舞台となる街(および大聖堂)を中心に描かれている点。火の神に対して隣の平原に雷神〝も〟いることや、帝国の存在があくまで平原や入り江の向こうのものであることなど。主客の感覚をしっかり定めた上で、詳細ではあっても饒舌になりすぎない程度に描写される〝モノ〟たち。この辺りの積み重ねかたが非常に自然で、世界のありように想いを馳せること自体に面白味がありました。主人公には手の届かないところにも、世界が地続きで存在している実感。その広さが感じられるからこそ、逆に主人公の住む世界の狭さが読み取れる、というような。
その上で語られる物語の優しさというか、王道にも似た手堅さのようなものが好きです。筋そのものはものすごくシンプルで、お伽話……という語ではちょっと柔らかすぎるのですけれど、でもある種の神話のような趣があります。祈りと祝福のお話、あるいは人と神との間に交わされる約束(契約)の物語。
以下はネタバレを含みます。
ヨキさんが最高でした。すみません急に頭の悪い感想で申し訳ないんですけど、でもヨキさんが最高の男してるのが悪いので知りません。めちゃめちゃ強くて頼りになる美形の男。いやそれ自体はともかく(こうまとめちゃうとただの設定でしかないので)、その姿や振る舞いからひしひし魅力が伝わってくるところ。なんでしょう、読んでて「ああ〜これは良いものだ……」ってじわじわ惹かれていくというか、なんか「この人なら全部任せても大丈夫!」みたいな安心感があるんですよね。
本当になんだろう? ちょっとこの魅力がどこからくるのか説明できそうになくて、おかげで「強くて美形の男は最高だぜ!」みたいな急に知能の下がった感想になっちゃうんですけど、たぶんどこかにあるはずです。コツコツ積み上げてきた設定の溜めが効いているのか、それとも主人公のフィフラさんの描かれ方がうまいのか(彼女に感情移入した立場から見ているからこその火力というのはあるはず)。いずれにせよヨキさんが最高でした。ずるいよこれは……。
個人的に強く惹きつけられたのが、最終話、視点が変わってヨキの側からの独白。ここの情報量が好きです。いろいろ解釈の余地が増えるというか、その気になればある種の残酷さのような、なにか人と神との違いのようなものまで読み取れる。総じて、優しく幸せなお話、神による救いの物語でありながら、人ならざるものの強さを描いた神話でもありました。ヨキさん好き!