ACT70 リッカの戦い
『我は与える〝赫いし轟き〟』
言うが早いか、リッカは二人に向けて閃光と爆音を浴びせた。
怯んだ隙にリューシンガの右手目掛けて聖典刀を手放させようと飛び蹴りを食らわせる。
だがリューシンガは耐えた。
更に身を翻すと、今度はルーゼイがそこへ向けて〝穿ちし閃耀〟を放つ。
躱すリッカ。
だが光の矢のひとつが左肩を貫いた。
熱い痛みが全身に伝播。
唇を噛み締めつつ体勢を立て直すリッカに、今度はリューシンガの刃が振りかかった。
『我は与える〝流れし大気〟』
衝撃波を紡ぎ、吹き飛ばすことで対応できたが、回り込んできたルーゼイの刃が即座に急襲。
頭上を掠める。リッカの鼻筋を冷たい汗が流れた。
「なんだかこうしていると、思い出しちゃうよね……聖女戦争をさ」
リッカが物言わぬ二人に向けて言う。
その顔付きは当然、剣捌きにすらリッカはリューシンガに一人の男の姿を重ねてしまう。
百年前のデザンティス。己が操る〝魔の軍勢〟を容赦なく斬り捨てて飛び込んできた一人の騎士。凛とした出で立ちに白銀色の髪を靡かせ、青灰色の瞳で睨みながら刃を向ける青年。慄きの表情一つ見せない冷徹で端正な顔立ちは、今こうして対峙しているリューシンガに何処か似ている――それがリッカの、紅き魔女ジゼリカティスの見たグラウシュード・アクナロイドという騎士の姿だった。
だが結果として彼はリッカを救った。そしてリッカの罪すら背負い、全てを未来に託して自らを悪としたままこの世を去った。
彼の生き写したるリューシンガ・クロリヴァーン。ならば今度は救ってやらねばなるまい。それが今の自分に出来る、最愛の姉が愛したあの男への最大の恩返しであるのなら。
「決着をつけようかリューシンガ……いいえ、グラウシュード」
リッカはすぅっと息を吸った。そして両手の拳を握りしめて構える。
その覚悟を知ったかのようにリューシンガとルーゼイもまた、一度その場に留まって聖典刀を握り直すかのような仕草をした。同時に〝耀けし刃〟を発動し、光の刃を聖典刀に纏わせる。
先に動いたのはリューシンガ。大きく振り上げた聖典刀を真っ直ぐにリッカへと振り下ろす。
しかしリッカはそのリューシンガの剣を無視して真横を駆け抜け、あろうことかルーゼイへと襲い掛かった。
咄嗟に〝穿ちし閃耀〟を紡ぐルーゼイ。
だが一瞬にして彼我の距離を詰め、懐へと飛び込んだリッカの方が早かった。
ルーゼイの手を蹴り上げ、とうとう聖典刀をその手から奪ったのだ。
更に立て続けに顎へ向けて拳を叩き込む。衝撃で跳ね飛んだルーゼイが地面へと縫い付けられた。
しかし背後、即座にリューシンガが強襲。
リッカは咄嗟に床に転がったルーゼイの聖典刀を拾い上げる。
『我は与える〝耀けし刃〟』
刃を刃で受け止め、火花を散らす二つの刃が広間に金属の悲鳴を轟かせる。
床に腰をつけるリッカが、次第に押し負け始めた。
光を纏うリューシンガの刃が喉元にまで差し掛かる。いくら聖女であったとしても、その刃に首を刎ねられてしまえば死は免れられない。
ここまでなのか――リッカはそれを覚悟した。
しかし、唐突にリューシンガはその刃の光を収め、力を失ったかのように倒れた。
状況が把握できなかったリッカだが、倒れるリューシンガの肩越しに立つルーゼイの姿を見て納得した。
「……いつぞやの借りは返しましたよ、クロリヴァーン隊長」
息を荒らげながら、拳をさするルーゼイが言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます