ACT69 行く手を阻む者

 壁を前にしてヴェルは今一度、聖典刀を握り直す。

 リッカもまた、訪れた逆境に冷ややかな笑みを送った。

「まさか、聖女騎士軍の頂点たるお二方が相手とはな……」

 古城の大広間。

 新たに設置されたオイルランプの光が点々とするその薄暗い空間に、それより先へと進ませまいと立っていたのは、リューシンガとルーゼイだった。

 二人の瞳はただ虚空を見つめるのみで、今までの騎士と同様に操られた存在であることがヴェルとリッカには解った。

 二人は、地下へと続く螺旋階段を前に、聖典刀を突き立てて構えている。まるで女王を護る騎士であるかのように。

 と、二人の目が同時にこちらを向いた、その瞬間――

 二人の白刃は、ヴェルの目前にあった。

 驚く間もなくヴェルの視線が上を向き、逆に自身の身体は床の上に倒れた。

《我は与える〝穿ちし閃耀〟》

 咄嗟にリッカが発動し、解き放つ。

 だが無数に飛来するそれを二人は退くことなく握る聖典刀で全て切り払った。

 その一瞬の出来事を理解できないまま、ヴェルはおもむろに体勢を整える。

「危なかったね、ヴェル」

「俺の足を払ったのはお前か、リッカ」

「でなきゃ首が飛んでたよ」

「今のは、一体……?」

「聖典術〝狭窄せし意識〟だよ。驚いたな、ボクと同じことが出来るのか。ヴェルは今一瞬だけ夢を見ていたんだ。前にボクがヴェルとクローディアを欺いたことがあったでしょ、あれと同じだよ」

「なら、どうすればいい?」

 斬りかかるルーゼイの刃を受け止めつつ、ヴェルは問う。

 その剣捌きは正気であるルーゼイと相違ない。

 今迄とは違う、実力を伴った操り人形であることをヴェルは瞬時に理解する。

「……ボクが二人を相手する」

 リューシンガの凄まじい剣閃の数々を辛うじて躱しつつ、リッカが返した。

「馬鹿言うな!」

「それしかないんだ! ごめんね、確かにヴェルの剣術や聖典術はこのボクから見ても天才だ。だけど彼等には敵わない。でもボクならどうあれ死ぬことは無い。それに今、クローディアを、おねえちゃんを救えるのはヴェルナクス、君だけなんだ!」

「リッカ、お前……」

「行ってあげて。言ったはずだよ、その役目はボクよりもヴェルの方がいいって!」

「わかった。俺はクローディアを救う。だからリッカ、お前も兄貴を、二人を救ってくれ。帰る時は皆一緒だからな!!」

 ヴェルは、ルーゼイの一瞬の隙を突いて〝流れし大気〟を発動。

 切っ先に風を収束させてルーゼイへと放つ。

 衝撃波を受けたルーゼイは聖典刀で受け止めようとするが、受け切れずに飛ばされて広間の壁へと叩き付けられた。

 その間にヴェルは地下へと続く螺旋階段へと走る。

 侵入者を捕捉して追跡しようとするリューシンガとルーゼイの前にリッカが立ち、行く手を阻んだ。

「君達の相手は、このボクだよ」

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