ACT65 破滅と絶望

「破滅へと進む時計は、もはや誰にも止められないとでも言うのか……?」

 学園都市スレイツェン。

 古城の上空に停泊する〝聖女の翼〟の艦橋。

 リューシンガは、空が落下していくその光景に息を呑んだ。

 と、がたん、とリューシンガの眼下で音がする。

 それにルーゼイも気付き、振り向いた。

 膝から崩れ落ちるクローディアだった。

「そんな……私では、無理だった……?」

 絶望に打ちひしがれるクローディアへリューシンガは駆け寄り、抱き締めた。

「クローディア。お前のせいなどではない。決して、お前のせいでは……」

 動揺に大きく目を開くクローディアは、闇の落ちていく空の軌跡をただ呆然と見ていた。

 今のクローディアにはそれが手に取るように分かる。

 例え自分がその力を最大限に使ったところでどうにもならないということを。

 既に〝揺り篭〟は修復が出来ない程に傷つき、壊れていたのだ。仮に二人の聖女が力を合わせたところで劣化する速度と規模には追いつけない。

「私には出来なかった。何故。私の力が足りないからだ。力が足りないから、また人が死んでしまった。もっと力があれば。そうだ。私は力が欲しい。力があれば世界を、皆を幸せにできる。そう、力が。力さえあれば」

 リューシンガに抱き締められたクローディアは、抑揚の無い声で言葉を紡ぐ。

「クローディア……?」

「私は力を欲する。私の及ばない力が幸せを壊す。人を殺す。私は求める。更なる力を。未来を切り拓く力を。聖女をも超越した秩序無き力を。その力を以て、私はこの世界を是正する。あるべき姿を取り戻す為に、私は今ある姿を捨てる。私は聖女ならざる者となる」

 虚空を見つめるクローディアの真紅の瞳から光が失せた。

 リューシンガの手を振りほどき、すっと立ち上がる。

 その周囲には肉眼で捉えることが出来る程に集束された聖典術の黒い波動が蠢いていた。

 やがてそれはクローディアの着ている純白のドレスを漆黒に染め上げ、クローディア自身までもを取り込んでいく。

「なんだ、これは……ディア!?」

 触れようとしたリューシンガの右手が、波動によって突き返される。

 と、艦橋が大きく揺らいだ。

 力を失うかのように駆動音を窄めていくと〝聖女の翼〟は古城の広場へと落下を始めた。

「何だ、何が起こっている!?」

 ルーゼイが乗員に向けて叫ぶ。

「飛翔機関が火を失いました、出力ゼロ!」

「原因は!?」

「聖典術が使えません!」

「出力を非常用の圧縮蒸気に切り替えろ!」

「駄目です、間に合いません。墜落します!」

「くそ……総員、何かに掴まれ。衝撃に備えろ!」

「ディア。何をする気だ」

 手摺に掴まりながら、リューシンガはクローディアを見る。

 落下に動じずその場に立ち尽くすクローディアは、小さな声で言った。

「――

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