ACT57 世界の敵
《――全てはこの世界と、この世界に居る生命の恒久なる平穏の為。私は、我等に賛同してくれる者の多き事を切に願う》
空に浮かぶリューシンガの幻影がそう言い終えると、今度は玉座に座るクローディアの幻影が語り出した。
《私はクローディア。亡き二人の聖女様の遺志を継いだ、新たなる聖女です。皆様が今どんな気持ちで受け止めているのか、私には手に取るように分かります。俄かには信じられないかもしれません。ですが今リューシンガが述べた内容は全て事実です。その証拠をこれから私が皆様にお見せ致します》
空が夜のように暗くなる。
そして再び光を取り戻すと、空は別の世界を映し出した。
黒い地平線だけの大陸――デザンティス。
その空から、耳を劈くような轟音と共に巨大な岩石の群れが炎の雨となって大地に降り注いだ。
瞬く間に岩石は地表へと落下し、大地を抉る。
砂が巻き上げられ、そこで空は再び真っ暗となった。
その衝撃的な光景にランセオン中の人々が恐怖し、怯えた。
ヴェルでさえ、初めて目の当たりにしたそれに震えが止まらなかった。
《これが紅き魔女ジゼリカティスの齎した災厄〝降星雨〟です。聖女様による管理を戦争によって失ったこの世界は、崩壊の危機に瀕しています。これを食い止めるのが私、聖女クローディアの役目なのです。この世界を救う為に、私は聖典騎士団によって殺された蒼き聖女ウェンデレリア様と、紅き聖女ジゼリカティス様の遺志を受け継ぎました。ですからどうか恐れないでください。そして私達を信じてください――》
「世界が、崩壊する……?」
空を見上げるヴェルが呟く。
「そう。でもね、この世界が壊れ始めたのは、聖女戦争なんかよりもずっと昔。ボク達聖女は、この世界を管理しながら少しずつ修復を試みてきた。今迄だったらそれでよかったんだけれど、ボク達は気付いてしまった。この世界〝揺り篭〟には寿命があったんだ。そして聖女すら手に追えない世界の崩壊は、近いうちに訪れる。だからボクは考えた。行動起こした。……そして失敗した。その結果が魔女となったボクと、聖女戦争」
リッカが言う。
「ということは、紅き魔女は人間を恨んだのではなく、その逆だった……?」
「その通りだヴェル君。君の隣に居るそのリッカこそ、真に世界を愛した聖女様だ」
そう言って現れたのはアスキスだった。
「元気そうで何よりね〝世界の敵〟さん。この反乱もあなたの思惑通り?」
リッカは嘲笑して言う。
対するアスキスも不敵な笑みで返す。
「これで聖典騎士団は世界崩壊の切っ掛けを作った悪となった。そしてリューシンガの聖女騎士軍は新たなる聖女クローディアを頂いて世界救済を名目に正義となった。さてリッカ、それからヴェル君。早くしないと君達も世界の敵として狙われてしまうよ?」
言う内容とは裏腹に、アスキスは心底楽しんでいる様子だった。
「アスキス様、それにリッカ……あなた達は一体何を企んでいるんだ?」
ヴェルは狼狽えながら尋ねる。
「ボク達はただ、世界を救いたいだけだよ、ヴェルナクス」
「そうとも。そして君もまた歴史の当事者だ、ヴェル君」
「俺は、ただクローディアを……」
「そのクローディアこそ、世界救済の要となる運命の聖女なんだよ、ヴェル」
「そして本当に必要なのは、最初に世界を救う決断をした〝もう一人の聖女〟だ――」
言ってアスキスは、ウェストコートのポケットから蒼く輝く宝玉を取り出しリッカに見せた。
東の大陸を司る〝エクザギリアの心臓〟――蒼き聖女ウェンデレリアの宝玉だった。
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