ACT40 夢の理由

 記憶を辿った時、クローディアの傍には常に兄のリューシンガが居た。

 彼にそれを強いる程にクローディアが幼少の頃からやんちゃで御転婆だったというのもある。

 だが、クローディアは自分がそうすることで兄がいつまでも自分の事を気にかけてくれることを知っていた。

(だからなのかもしれない)

 クローディアは思う。

 聖典術が使えるようになって、聖女の騎士なる。

 勿論、それは過去に自分の命を救ってくれた聖女の騎士アスキスに憧れてのことだ。だが、それとは異なってもうひとつ、他人に夢を語るにはあまりにも稚拙な理由が含まれていることも否定できなかった。

 クローディアは、兄を追い掛けていた。

 時を経るごとに立場が変わり、物理的な距離が離れていくことに比例して、心も離れていくような気がしてならなかった。それが怖くて進んで兄に近づこうと思ったのだ。兄と同じ道を歩きたかったのだ。そして、ずっと兄の傍に居たかったのだ。


「……迎えに来たよ、ディア」

 不意に、兄の声を聞いたような気がした。

 だが、姿は見えなかった。

 クローディアが辺りを幾ら見回したところで、暗い闇が何処までも続くだけだった。

(お兄様! 何処に居るの?)

「ディア。私がお前を導こう」

 リューシンガの声と共に、暗闇に一筋の光が差し込んだ。

 それは、夜空に輝く一番星のように眩しく煌めく。

 次第に光は大きくなり、暗闇だった空間を真っ白に染め上げた。

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