ACT08 覚醒
ぺたり、と一歩、床の上に裸足で踏み出した。
暗くじっとりとした、牢獄のような部屋だった。
背後には、もとは透明な円筒形をしていたのだろう機械のようなものが卵の殻を割ったように砕け散っていた。大木の根のように周囲に張り巡らされた金属の管はひしゃげ、折れ曲がり、繋がる装置は生気を失って沈黙している。
眺めながら、自分はそこから出てきたのだと、ぼんやりと思う。
「ふぎゃっ」
更に踏み出そうとしたら、目前の光景がゆらりと揺れてそのまま頽れた。
どうやら液体に濡れた床に足を滑らせたらしい。
(痛い)
そこでようやく、自分が何も来ていない裸身である事に気づく。
(痛み)
くまなく身体に触れ、そして口元に触れる。
(呼吸)
続けて、目を瞑り、左胸に手を当てる。
(まだ、無い)
目を開き、ゆっくりと立ち上がる。
(生きている)
疑問を抱く。
(どうして、生きている?)
最後の記憶では、自分は死んだはずだった。
だが身体には、あるべき傷が見当たらない。
周囲を見渡し、両手を広げ、空気を集めるように深呼吸をした。
不意に、何かを感じ取った。
暖かな温もり。
五感はそう告げている。
「おねえちゃん……」
口が、言葉を紡いだ。
まるで赤子が初めて意味のある言葉を発するように。
「おねえちゃん……」
噛み締めるように、再び呟く。
「おねえちゃん……」
はっきりとした発音で、呼び掛けるように言った。
見えていた。何も無いはずのそこに浮かぶ、一人の少女の姿が。
金髪碧瞳の赤いリボンを揺らして微笑む、今の自分よりも少し大人な、その少女。
「……おねえちゃん」
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