ACT07 学園の伝統
セシルが快く入室を許可すると、ひとりの幼い少女が不安な表情を浮かべながら入ってきた。
此処は高等部校舎の医務室だ。だがその少女は高等部の紺色のブレザーではなく、初等部の眩しい黄色のセーラー服の制服を身に纏っている。クローディアは直ぐに少女が自分の授業を受けていた教え子のノエルであることに気付いた。
不意に壁に掛けられた時計に目をやる。
まだ十四時だ。
「あの……クローディア・クロリヴァーン先生が此処に居るって聞いたんですけど……」
緊張に声を震わせながら少女――ノエルは言う。
「どうしたのノエル。勉強会なら中央図書館で十七時からって言った筈だけど?」
「ディア先生!」
クローディアの姿を見つけ、ノエルは駆け寄る。
「あのね、ディア先生にしか出来ない相談があって……あのね、その……」
「相談?」
クローディアの問いに今にも泣き出してしまいそうなノエルはこくりと頷く。そしてセシルを横目にベッドに腰掛けるクローディアの肩に手を置き、耳元で囁いた。
そのノエルの素振りを見てセシルは「はいはい、内緒話ね」と溜め息を吐きつつ両耳を塞いだ。
「……あのね、パトリスとクライヴが〝絶対に入っちゃいけない〟って言われているのに、幽霊を探しに行くんだって学園の古いお城に入っていくのを見ちゃったの。それでね、やっぱり私は良くないって思ったから、誰かに言わなきゃって思って、でも他の先生じゃ怖いと思って、だからディア先生に相談しようって考えたの」
緊張と不安に表情を歪めるノエルに対し、クローディアは話を聞いてくすくすと笑った。
「そうね。それは確かに叱らなきゃ駄目よね。わかったわ、直ぐに行きましょう」
「何よ二人でこっそり、私には教えてくれないの?」
蚊帳の外に追い遣られていたセシルが不満そうに言う。
「ノエルが内緒にしたいって言うので。でも、この学園に長く居られるセシル先生ならこう言えばわかりますよね。いわゆる〝学園の伝統〟ってやつですよ」
「なるほど〝学園の伝統〟ね。だとしたら、ディアちゃんにとっては勝手知ったるってところかしらね?」
「そうですね。そんなところです」
クローディアとセシルのやり取りに、ノエルは首を傾げた。
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