【第1章―学園都市スレイツェン―】

ACT01 デザンティス・クロニクル

 むかしむかし――


 世界には、まだ二つの国がありました。

 そして。

 世界には、まだ二人の聖女様がおりました。

 

 東の大陸の国「エクザギリア」には〝蒼き聖女〟ウェンデレリア様がおりました。

 西の大陸の国「デザンティス」には〝紅き聖女〟ジゼリカティス様がおりました。

 世界は、この二人の聖女様によって永遠の平和と安寧が約束されておりました。

 

 しかし、あるときのこと。

 夜空の星々が炎の球となって二つの国に降り注ぎ、沢山の人々の命を奪いました。

 蒼き聖女のウェンデレリア様は、直ちに自らの操る聖なる力〝聖典術〟を使ってエクザギリアを護りました。

 ですが紅き聖女ジゼリカティスは、デザンティスを護るどころか進んで滅ぼしていきました。

 そう、この炎を纏って落ちる流星を呼び寄せたのは、誰でもない紅き聖女ジゼリカティスだったのです。


「紅き聖女よ。貴女は、何故このような哀しみを世界に振りまくのですか」

 そのジゼリカティスの行いに、ウェンデレリア様は尋ねました。 

「我は、我を脅かすその全てを赦さない」

 問いに答えたジゼリカティスは、最早かつての美しい聖女ではありませんでした。

 ジゼリカティスは世界の全てを我が物にしようと企み、更なる力を求めて聖女の役目すらも忘れた、力そのものに溺れるおどろおどろしい〝紅き魔女〟へと変わり果ててしまったのです。


 ウェンデレリア様は、デザンティスに生き残っている人々を助けるべく彼等をエクザギリアへと招き入れました。そして身体や心に傷を負った人々を聖典術で癒し、助けられなかった人々の死を悼み、民と共に厚く弔いました。

「このままでは、世界は紅き魔女ジゼリカティスに滅ぼされてしまう」

 ウェンデレリア様は、辛い決断をしなければなりませんでした。

 ジゼリカティスの呼び寄せた炎の流星は、やがて世界を完全に壊してしまう――

 それを止めて世界を救うには、かつて共に世界を見守り、命を育み、そして今は魔女となったジゼリカティスを倒さなければならなかったのです。

「ならば、私が世界を救わなければならない」

 ウェンデレリア様は、世界を救う為に紅き魔女ジゼリカティスを倒すことを誓いました。そして共に戦ってくれる勇者を募りました。これには多くの者が名乗りを上げました。

 集った勇敢な戦士達には、ウェンデレリア様によって〝聖典騎士団〟の名が与えられ、彼等には紅き魔女ジゼリカティスを討つ力としてウェンデレリア様から聖女の力である聖典術が授けられました。

 そうして蒼き聖女ウェンデレリア様と、聖典騎士団の騎士達は、炎の流星〝降星雨〟の降りしきる西の国デザンティスへと海を越えて渡りました。


 訪れたデザンティスは、もはや栄華を極めたことを忘却の彼方へ追い遣られた、黒い砂だけが大陸を覆い尽くす死の大地となっていました。その大陸の中心で、ジセリカティスは禍々しい力を抱きながらウェンデレリア様と聖典騎士団を待ち構えていたのです。

 戦いが始まりました。

 数多の戦士がジゼリカティスの邪悪で強大な力や、彼女の操る魔の軍勢の前に敗れていきました。

 

 やがて。

 三年にも及んだ戦いの末、遂にその時はやってきました。

 勇敢な一人の騎士が、自らの命と引き換えにジゼリカティスを討ったのです。

 世界を脅かす紅き魔女が倒されたことを知り、人々は喜びに湧き上がりました。


 ですが、失ったものもありました。

 世界を救うべく立ち上がり、デザンティスで散った数多くの戦士達。

 そして降星雨によって全てが焼き尽くされ、草木すら生えない荒れ果てた大地となってしまった西の国デザンティスと、そこに平穏に暮らしていた幾千万もの命――その掛け替えのない存在を、世界は永久に失ってしまったのです。

 

 デザンティスでの惨劇と散った命の遺志をエクザギリアの民は受け継ぎ、決して忘れることの無いようにと物語を綴りました。それがこの〝デザンティス物語クロニクル〟なのです。


 世界を救った蒼き聖女ウェンデレリア様。

 そして世界を救った英雄達、聖典騎士団。

 聖典騎士団とエクザギリアの民は蒼き聖女様を想い、蒼き聖女様はエクザギリアに住まう民を想い、それぞれの暮らしが未来永劫に亘って平和で穏やかであることを互いに祈りながら、今も共にたったひとつとなった大陸で命を育み続けているのです――

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