第10話 残党狩り
2039年9月22日ワシントンDC上空十万メートル
「あたし、ちょっと先に行って無双してくるわ」
そう言った純菜は、僕の機体から離れて降りていった。
「はーい、光帝陛下。純菜無双頑張ってね。」
純菜は、かわいくウインクで返す。
これから何百何千の人を殺すか分からない・・
正気じゃ無いのは解っている。
しかし、これが、いつもの手順だった・・
「誰の手も汚させない」
彼女の口癖だ
純菜無双・・その言葉通り、北米ヘルミナチィ最大基地ロッケンフェラービルの地下施設は、1時間を待たずに、たった一人の女の子に制圧された。
■■
2039年12月22日
今回の作戦は、秘密結社EUヘルミナチィの残存兵力を殲滅させること・・
通称:トカゲの本体切り作戦
純菜曰く、地中海の海底基地に、これまで地表の世界を牛耳ってきたヘルミナチィの王様がいる最大級の施設があるらしい。ここを叩けば、もう、何人たりとも日本帝国にテロを仕掛けてくる気力もなくすだろう・・とのことだ。
もちろん、彼女は、日本帝国の光帝であるのだが、光帝自身が日本帝国の最強兵器でもあった。戦闘用ドローンは、反重力飛行になり大型化され、JUNAによって設計された二足歩行ロボットのJ-BOT戦闘タイプも既に何万体も量産されている。
戦力的にも、無人の機体で攻めれば十分に今回の作戦も勝利出来たはず。
だが、桜木純菜が光帝に就いてからすべての物理的兵力は、全世界の安全維持の為に各地へ派兵された。これにより、地球上すべての民族間の争いは無くなった。
「もう、誰にも人殺しはさせないよ。」
「はいよ、じゃあ純菜さん。やっちゃってください!」
「じゃあ、中に入るね」
海底1500mに建造された鋼鉄の施設の上に立った純菜は、一旦光の粒子になって施設の小さな窓からすうっと忍び込んだ。
僕たち数名のラボメンは、戦いを記録すべく大型のモニター画面に集中している。
大型モニタは、何枚もあり純菜の視点を128K画質で映し出す。
「あ、いたわ。」
目の前から、身長2メータくらいの若いレプタリアン(爬虫類型)が襲ってくる。
いや、違う。
近くまで走って来たこいつは、純菜の頭をやさしく「なでなで」して、ひょいと抱っこした。そして、そのまま施設の奥へと進んでいった。道中、たくさんの人間やレプタリアンに出合うも皆、抱っこされている純菜に愛想よく接するのだった。
「なあ、恭介。こいつら悪い奴らじゃないんかな?」
ラボメンの一人で帝国の広報を担当しているサトシ(中野聡)が聞いてきた。
「わかんないけど。敵意は・・無さそうに見えるな」
どんどん、そいつは、純菜を抱っこしたまんま、更に奥に進んで行く・・エスカレーターを下ると景色は一変した。豪華で、広々とした空間に3mクラスの凶暴そうなレプタリアンがたくさんいる。
そして、いよいよ。
いかにもラスボスがいるような大扉の前まで来てしまった。
「さあ、始まるわよ」
純菜が、僕らに合図した。
取次がおわり。
扉が開く。
□□
指令室?に入った。
5mクラスのドラコ4体の奥に、それよりも一回り大きなアルファドラゴニスを確認。たぶん、ここのボスだろう。
「あなたが、カイサルね」
「そうだ。ローマ時代からここで、お前たちを食料にしてきた。その仕返しか?しかし早いな。もう・・ここまで来れるのか・・お前は、いったい何者なんだ?」
「何故、我々は負けた?何に負けた?それくらい最後に教えてくれ・・」
「いいわ。素直に負けを認める事の出来る勇気に免じて教えてあげるわ・・」
「あなた達は、光(愛)に・・、敗北したのよ。」
「そうか。じゃあ殺せ。」
「そうしないと済まないのは分かってるわ。負けを認め反省して命乞いをする者は、両手を上げなさい!そしたら、拘束して再教育してあげるわ。」
「そんな、爬虫類人はおらん・・」
「いるかもよ」
純菜の背後から光のファンネルが現れる。
「さあ、手を上げなさい!」
「ロックオン完了。人間127名とレプタリアン3名の降伏を確認したわ」
「なあにい。裏切り者は、わしが殺して・・」
カイサルは、威圧しながらまわりを見渡す。
その瞬間、純菜から光の触手が一斉に伸びる。
小規模の町ほどある施設の全てを貫く。
光の速さで3000人以上の命を奪った。
痛みすら感じなかっただろう。
「生存者は、人間127名とレプタリアン3名。恭介、大型のドローンを送って拘束・確保してね」
「了解!でも、純菜。人間は、ほとんど降伏したね。」
「彼らは、死んだ方が楽なのが分かってないのよ。」
「嘘をついて逃げとおせると思っているの・・」
「純菜さんに、嘘は通じないのにねっ」
□■
危険は無いとの事なので、僕も事後処のため海底基地に入った。
純菜の触手に焼かれた者は、大型のドラゴですら跡形も残っていない。
生き残った人間の大半は、脅されて働かされていたと訴えた。
中には、本当に脅されていた人間もいたのだが、実際に脅されて働いていたものは、127名の内のたったの13名だけだった。
「カ、カイサルに、言う事を聞かなければ、娘を食うと言われて・・」
「ふーん、嘘がお上手ね。」
「わあああ。本当なんです。怖かったんです~」
涙ながらに、そう訴える人間を突き放す純菜。
「あたしの目は、目の前の人間の罪と徳の演算すら可能なのよ。あなたの、サイコメトニクス(心理測定)の結果は、435PPよ。よくここまで落ちられたわね・・」
「死刑よ。」
「ぞんなあああ、ゆるじてぐださいぃ。死にだぐないでずう。わだしが何したって言うんでずかぁ?何罪なんだああ!」
「共喰い罪により、市中引廻しの上、磔獄門。」
「へ・・」
「なんなら、お前のあたまン中の映像で見せようか?」
「・・・・・・・ぐうう」
そう、フォトニクスコンピューターからしてみれば、人間の脳なんて記憶媒体でしかない。だから見える・・ラボの皆も、そう考えていたのだが、純菜に言わせると、この銀河の全てを記録しているサーバみたいな所と接続するから何でも分かるらしい。
流石のT大ラボメンでも、そこまで理解できる者は誰もいなかった。
レプタリアンの方は、若者3人。その中の一人は、純菜を抱っこして運んでくれていた人だ。彼もあの時、降伏して生き残っていたそうだ。
純菜に言わせると、彼らこそ「賢者」なんだって。僕も良く分からないんだけれどギャラクティック・ユニオンの職員で最近協力関係を結んだらしいんだが・・
これ以上は、未熟な今の僕らには、まだまだ理解でき難い事情だな。
■■
2040年某日
「恭介。γ世界線の極細部に、重力子を解明する世界を見つけたの」
「ん?君が何を言ってんのか分からないよ」
「簡単に、言うとね。可能性の次元の中に、重力子を解明して捉える可能性のある場所を見つけたのよ。光サーキットフル回転で探したんだからぁ。ねえ、お願い。」
「は!?で・・何を?」
「だからー。ディメンション・フライヤーの力を私に貸して!」
「そう言えば、三島も僕にそんな事言ってたな・・」
「これは、恭介にしか出来ない凄い仕事なのよ」
と、他でもない純菜さんに言われたのでなんの不安も無く早速出発する僕。
例の施設の思念ダイブ用ベッドから異次元へと向かう。
もちろん、純菜も一緒に来てくれた。
「わーい。なにこれ?」
「思念体。アストラルボディでこれからアル世界へ向かうわ」
「そこは、私たちの世界から見たら、約200年後の未来の一つなんだけれど・・」
「未来の一つって?」
「めんどくさいから、説明は省くわ。行ったら分かるから・・オペレーションのすべては、あなたのアストラル体に刻んだから、恭介は行くだけで良いのよ」
「まあ、お前がそう言うんなら。わかった。」
「ありがとう」
そう言った純菜は、涙ぐんだ。
「見えてきたね。ココなの?」
「そうよ。見えるでしょあの人の中に入るのよ」
「あれが、僕?」
「そう・・よ。数年間逢えなくなるけど・・入ってしまえば・・」
「え、純菜は?」
「行って。私には、次元を超えるスペックは無いの。さよなら・・」
「はうっ」
「わあああああああ・・・・」
つづく
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