第7話 どっちの世界を・・


「おかあさん!うち、迷子のお兄ちゃんの魂、絶対にみつけにいくよ。」



そう言いって、うちは、Tシャツをばんざいしてまくり上げて放り投げた。


すぐに下も脱いだ。


うちの覚悟を示すんだよ。



うちの下着姿に目のやり場に困る先生。でも、下向きながらもチラチラこっち見てくるのは、なんなんだろうね。



「ねっ、いいでしょ。ねえ、おかあさ~ん!」



「先生、これは、この子がやっても大丈夫なんでしょうか?」



「もちろんです。何ならお母様もご一緒に、探しに行きますか?」



「ああ、いえ。わたしは、ここで初音を見守ります。」



「分かりました。じゃあ、初音さんは、下着も全部脱いだらこのジェル状の液体の中に、頭までしっかりと浸かっちゃって下さい。初めだけちょっと苦しいですが、この液体の中では、普通に息ができますからね。ああ、私は、あっち向いてますから・・」



そう言われた、うちは、何も考えず、素っ裸になって、青い杏仁豆腐みたいな液体が入ってるベットに跳び込んでしまった。



「けほ、けほ、うぐぅ・・うっ」


「コ~。  コ~。  コ~。」


な、なにこれ?うちの寝息が聞こえてるの?




「正解です。既に変性意識状態ですね。」


「初音ちゃん、大丈夫なの?」


先生と、おかあさんの声が聞こえてきた。



「意識接続を思念体に切り替えました。そのまま起き上がって下さい」


先生の指示に、従ってベットから立ち上がった。



「きゃああ。せんせー、こっち、みないでよ~。こらぁー」


立ち上がれたのは、良いんだけれど・・うち・・すっぽんぽんじゃん。



「いえいえ、初音さん。私どもから初音さんの姿は見えてませんからね」


「初音ちゃん。どこにいるの?」



どうやら、あっちからは、うちの姿は見えないようだね。



ぎゃはは。うちは透明にんげーん。


ためしに、先生の顔に、またがってみたっ。きゃっきゃ。どうだ!



「ふふ、何も起きない。あれ?」


気のせいかなぁ、いま、おかあさんが「ぷ」って笑ったような・・


気のせいだね。まぁ、いいや。



「それでは、お兄様を探して下さい・・」



「ええ~どうやって~」



「お兄様が、おられそうな場所を思い浮かべてそこに行くとねんじたら・・」



「いってっきっま~す。」


「きゃっ。きゃあああああ」



「はあ。ろくに説明も聞かずお行きになりましたね。」



「しかし、心配いりません。本人が、ここに帰ると念じれば、直ぐに戻ってこれますから・・いざとなれば、この緊急停止ボタンでも強制帰還させられますし・・」



「お母様どうぞご心配なさらずに・・」



「・・・・・はい。」






★★☆






~すべての準備は、完了した~


~後は、志願者を待つのみだ~






西暦2039年某日 


徳川大学第三研究室 神速PC研究会ラボ




「適合者は、2名・・桐谷恭介・桜木純菜」



「尚、桐谷恭介は、DMフライヤーにも適合」




「直ぐにとは、言わん・・いや、わいからは、何一つも言う事は有れへん・・お前らが付き合ってんのも知ってる。嫌やったら、時間かかるけんど他から募集する。」


「じゃけんど、このまんまやったら・・日本は、確実に終わるで・・」



そう言って、ミーティングを終わらせようとしたのは、フォトニクスサーキットの設計者であり、当ラボの室長、三島祐樹先輩だった。



彼の「超光無物有神理論」は、光の波長と粒子を同時にとらえる事に成功していた。



「やってみたら、結構単純な仕組みやったんや」


これを言う彼は、紛れもない天才科学者であり、風変わりな哲学者でもあった。



「スペックでたで・・理論値やけど、これ(フォトンCPU)が動いたら円周率は、5分ほどで割り切れると思う。ヒトゲノムの解析は、2日ほどで全ての解析終了や」



ラボのメンバーは、11名。一人一人が各分野のスペシャリスト・・って言うか、超オタクと言った方が、当てはまる気ちがいサイエンティストの集団。



その、誰もが三島先輩の発表したフォトンコンピュータのスペックに驚愕した。



「FRBとか日銀から何の形跡も無しにお金移動できるぞ!」



「それどころか、メディアも軍隊も政治も簡単に動かせるじゃん」



みんなの夢が、滅茶苦茶ふくらむ。



僕と純菜は、お互い話し合い、何度もつかみ合いの喧嘩をしたあげく・・


純菜が、光演算の集積回路になる事を決めた。



脳の提供だ。


もちろん、死を意味する。




その意味の通り、僕の大好きだった純菜は、2039年3月12日死去となる。


脳の無い純菜の遺体を火葬・埋葬した後・・


僕は、えもしれぬ虚無感に苛まれ、しばらく自宅の部屋に引きこもった。



「純菜ぁ。純菜、純菜・・・純菜、純菜、純菜、純菜、純菜、純菜ぁああああ」


純菜の死も悔やまずに、フォトンコンピューターでどんどん世界を手にして行くラボの連中を見ていると殺意さえ覚えた。



力を見せつけ・・他国を次々に平伏させていく・・


何も知らない、何の力もない日本政府は、ただ日々増え行く領土に驚愕した。




「どうでも良い・・」


僕は、廃人さながらで、酒に溺れ、TVから流れるそれを眺めていた。



数日後・・ついに・・


全世界LIVEで日本国首相に就任した三島祐樹先輩が声明を出した。




「世界のみなさん、こんにちは。」


「現時点をもちまして、日本国は、全世界に対しまして宣戦布告いたします。」


「もう、お分かりのように日本に勝てる国家はありません」



「現時刻より12時間以内に降伏してください。」



「さもなければ、軍事拠点及び首都のインフラを無力化させていただきます。」



「降伏の早い国から順に有利な条件での併合を致す所存ですので・・」



「降伏は、お早めに!」





西暦2039年8月15日


この極めて質の悪い脅しに全世界が平伏した。


この日、なんと全世界196か国すべてが、一時的にせよ日本領となったのだ。



なにはともあれ・・


この日、世界で初めてのワンワールドが、達成されたのである。





つづく

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