第5話 2040年からの使者
「今は、何も考えないで」
「空間が不安定になるから・・しっかり意識を保ちなさい!」
パッシッ
思い切りほっぺを叩かれた僕は、その痛みで今起こっている現実に否応なくフォーカスさせられた。まわりの景色が、ぐるぐる回ってるような・・
「な、何なんだ・・ここは・・空中に浮かんでるのか・・」
コカインの幻覚なのか?
「ああ、あああ!」
下を見ると、そこには、上向きに倒れている自分の姿があった。
幽体離脱?
し、死んだのか?
ああ、嫌だ。
初音?
音羽かあさん、
もう、逢えないの。
「嫌だ、、嫌だあああああああー」
意識がはっきりするにつれ、この異常な状況が、はっきりと見えてきて余計にパニックになる。こんな形で死ぬなんて、愛する二人の事を考えると胸が締めつけられる。
「ああああぁああ!嫌だ、うあああああー」
「初音とかあさんに逢いたい・・」
☆☆☆
どれくらい泣いたか分からない・・とにかく気が済むまで泣いたかな・・
でも、今。
泣き疲れ、途方に暮れる僕の肩を見知らぬ誰かが両手で抱きしめてくれている。
誰かな?
神様かな?
あったかい・・安心する・・
「大丈夫よ。あたしのこと見て」
「良~く、知ってるでしょ」
顔を起こしてその人を見る・・
「いや、誰ですか?知りません・・
・・・違う、彼女はっ、ッハ、、で、でもちがう」
「ここ(潜在意識)で会うのは、初めてかな?」
せ、せんざい いしき・・
「あああ、君は、僕の・・・」
「そうね。大切な人だったでしょう。うふふ」
そう、確かこの愛らしい娘は、純菜(じゅんな)だ。
相変わらず、かわえぇなあ、、って、あれっ
「なんだこれ、僕は、この人の事が好きだ。」
よく考えると、純菜は、僕の彼女じゃないか。しかも、婚約してる、
「君の名は、桜木純菜、ぼ、僕の彼女・・だよね。」
「やっと、思い出してくれたわね。嬉しいー」
「ああ、向こうでの事思い出した。少し落ち着いたよ。純菜」
「え、でも、母さんや、初っ、あれ、あぁ頭がぁああああっぐっは」
「今は、とにかく別次元の事は考えないで。しっかり、あたしの顔を見て!」
「はあ、はあ、はあ。」
「オペレーション・コカコーラ。は?」
「そっちも思い出したよ。なら、ここは、集合潜在意識の中だね」
「せいかーい。じゃあ、もう、元の次元と並行次元を分けて考えられる?」
「えーっと。あああ、ちょっとパニックになりそうだけど・・うん、たぶん大丈夫だ。はあ、はあ、」
「じゃあ、あなたの名前は?」
「あ、青き・・じゃない・・きりた・・に・桐谷恭介」
「あなたの使命は?」
「重力子の解析データの収集・・既に達成しています。」
「生年月日は?」
「2020年3月24日」
「年齢は?」
「40歳かな、ん・・200くらいかな?へへ、分からないや」
「あなたの本当の体は、まだ20歳よ。」
「え、、う、噓だ。もっと長くダイブしてるはず。」
「実はね、未来世界にダイブした場合の時間の進行速度は、現実世界の約100倍速だってこと、あなたが旅立ってからもずっと分らなかったの・・」
「確かに、あなたが、あそこでの身体にウォークインしてから20年ほど過ぎちゃったね。それで、いきなりコレを知らされるんだから、、辛いでしょうね。」
「これは、私たちのミス。ごめんなさい」
「でも、おかげで、恭介の本体は、ダイブしてから、まだ2カ月半しか経ってないのよ、当初は、グラビトン(重力子)の解析には、少なくとも数年は、想定してたわ」
「もう、向こうに帰れるんだよ」
「恭介は、帰って、あたしと、予定通り結婚するんだよ。」
「あのさ・・純菜。僕の向こうの家族は、どうなるんだ?」
「えーとね。それ・・なんだけれど・・」
「・・・・・・」
「はっきり言ってよ。君の事だ、当然全部知っているよね。」
「わかった。じゃあ、はっきり言うわね」
「あなたは、今から2040年で眠ってる自分の体に戻るの」
「そして、グラビトン(重力子)の研究成果を帝国の研究所に持ち帰る。」
「そしたら、フォトニクスAIのあたし(JUNA)が、劇的にアップデートされるはず。」
「後は、どうなるか分からないわ・・」
「あなたが、20年暮らしていた、この世界に自由に行き来できるようになるかも知れないし」
「もしかしたら、世界線が分岐して、ここの世界自体が無かった事になるかも」
「・・・・・・・・」
そ、そんなのって・・
残酷すぎる。
★☆★
「お母さーん、いま、大阪病院から電話があって・・」
「お兄ちゃんの意識が、戻らないんだって言われたよ。」
★☆★
「お兄様は、体のどこにも異常はありません・・ただ・・」
「魂が、どこかに行ってしまっているようです。」
「先生ぇ、お兄ちゃん、いつ帰って来るのかなぁ」
「お母さん~。うち、お兄ちゃんいなかったら・・いやだよう」
お母さんは、ずっと黙って泣いている。
「では、少し危険ですが、魂を追跡してみますか?」
「先生、お願いします。うちのお兄ちゃんを見つけて下さい」
「いや、追跡は、お兄様を良く知るあなた方が、やるのですよ。いいですか?」
「はい。うち、お兄ちゃんの為ならなんでもやります。」
わかりました。では、服を全部脱いで・・・
つづく
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