第3話 第三次世界大戦はおきていた。


西暦2221年7月17日火曜日 


AM11:25 皇居某執務室




この惑星の今後を決めるとも言える重要な会合で僕は、今まさに・・



超個人的な理由から半年間練ってきた新技術のプレゼンテーションを半分ほどに短縮し無理やり早く終わらせようとしている。



僕は、あざとく声高らかに言う。



「とにかく、今後は、グラビトン粒子の解明を当研究所の急務とする。」


「以上!機密事項につき、ご質問の方は、ご遠慮いただきたい。」



実は、グラビトンの解析は、終わってんだけどね。



まあ、話が専門的過ぎて官の奴らには、理解不能だろう・・


執務室が、多少ざわめくも、案の定、誰も質問してこない・・はずだった。




「ねえ、ねえ、アキオっ氏ぃ。このあと、わての部屋で遊んでいかへんかい?」




わかってない奴が一人いた。




「ごめん、タケル。今日は、やめておくよ。」


最高権力者の誘いもあっさり断わり、僕は、一刻も早く高松屋に・・




「じゃあ、お昼ご飯だけでも一緒に食べようよ。親友じゃないかぁ」




こいつは、第284代「帝」(みかど)のタケル。第三次世界大戦に、まさかの勝利を遂げた日本帝国の現エンペラー。現在惑星地球の最高権力者と言える存在だ。




「しかたないな。じゃあ、お昼だけだぞっ、あと帝(おまえ)の奢りな。」




「わーい。アキオ氏ぃ~ありがとう。また何か、面白い話してよ~」




まあ、母さんと初音との約束まであと3時間くらいはあるから、タケルと飯食って帰っても十分先に、高松屋の古銭屋に寄れるな、うひひ。


アレのこと考えるだけでワクワクしてくるわ。






★★






第三次世界大戦



今、思い返せば、かの第三次世界大戦は、国家同士の戦争では無かった事が、誰にでもハッキリと理解する事ができる。だが、当時の人類からは、それはもうほとんど見る事も感じる事も出来なかったと言うのだ。



未だ、にわかに信じがたい。だが、実際に当時の国民らは、集団で錯覚の中にいたらしい。しかも、その数が、数十億人だったなんて言われてもしっくりこない・・



そう、かの大戦は、情報戦だったんだそうな。



それは、1970年代の後半くらいから始まっていたらしい。それまでの戦争を仕掛けてきた闇の勢力VSほんのわずかな、自己に目覚めている人間との戦いだったらしい。



西暦2000年あたりまでは、圧倒的に闇の勢力が優勢だったと記録されている。



ほとんどの人類が、この世界が有限だと信じ込まされ、あらゆる支配システムの中に組み込まれていたと言うのだから驚き以外にない。



その中で、最も強力だったのは、金融と言う詐称システムだったらしいのだが、これについては、いつ聞いてあきれるレベルだ。



この超単純な詐欺に、当時ほとんどの人類が騙されていたと言うのだ。



紙切れに数字を書くだけで、その力を使える、ごくごく少数の支配者。



その数字が書かれた紙切れと労働が交換だと信じる圧倒的大多数のその他。



また、支配者である闇の勢力は、在りもしないテロをでっち上げたり、自然災害や疫病に見せかけた兵器を使い、当時の人々の心の中に恐怖を蔓延させて集団のバイブレーションを低く固定する事に成功していたらしいのだ。目に見えない恐怖で思考を停止させる。



バカみたいだが、これが上手くいっていたらしい。



と言う訳で・・かくかくしかじかこうこうだったのだ・・つづく





「続きは、また今度なっ」



「へぇ~すっごーい。滅茶苦茶ぬぃー面白ーい。」



「それは、良かった。」



「そんでアキオ氏、このお話いつ考えたの?」



「おいおい、タケル・・帝よ・・お前は、仮にも今現在この惑星のTOPなんだぞ、少しは勉強しろよ。バカものめ」



「まあいい。時間だ、帰るわ。じゃあまたね。」



「あ~。音羽さんと初音ちゃんによろしくな~。」



ルームの同期とは言え・・


帝に、食事の後片付けをさせるのは、僕くらいだろう・・





★★★





反重力のマイカーでぶっ飛んで約40分。


僕は、母さんたちとの約束の1時間以上前に大阪の高松屋に着いた。


早速、古銭屋に向かう。


速足で向かう。




「はあ、はあ。昭和時代の100円硬貨下さい!レプリカではないやつを」



「おお、貴方様は、運が良いですな。」


「ずーっとコレ無かったんですが・・ついさっき売りに来られたお客様がおられまして・・しかし、本物のこれだと私ども初めてでして値段を決めかねておりまして・・仕方なく、ここで、一カ月間のオークションに出されました。」




「なになに?」


「最低落札価格は5万圓で即決価格が1500万圓ってか」



「相場は、いくらなんです?」



「あの時代の通貨は、とにかく紙幣も貨幣も徹底した廃棄命令が出ていましたので、本物は、超激レア。私も初めてお目にかかりました。江戸時代の小判より希少価値が有るのは間違いないですな。因みに、江戸時代の小判は、最低1000万圓はします。」




「じゃあ、1500万で。即決で落とします。よっしゃー!」




「・・・じゃあわたくし、1550万!」




「はっ、はあ?何言ってんのあんた。」




「わたくしも、古銭マニアでしてね。ふふふ」




「じゃあ、1600万では?」




「私は、1700万ですなぁ」




「うう。士族なめるなよ、1800万!」




「こっちも商人の血が騒ぎますぅ・・2000万圓でどないだ!」




「・・・・くそう。いま、預金残高1900万しかない」




もう泣くしかない。




「あの・・10円玉って有り」


「無いです。」




「50え・・」


「無いです。」




「では、2000万圓にて私目の即決ですな。うひゃひゃ」




とほほ。


何年もかけて準備してきたグラビニクス集積回路のプレゼンも手抜きして終わらせて、後回しにして超急いできたのに、古銭屋の支配人に負けるなんて・・これほど辛い事は無かった。



仕方がない。今度、タケルに帝(みかど)の権力を使ってもらって造圓局とか行けば何とかなるかもな、あいつに頼るのは、嫌だけど・・はあ。



僕は、さっきまで満タンだったワクワクを全て失い途方に暮れながら、母さんたちとの待ち合わせ場所である、美容クリニックに向かった。



「あ、お兄ちゃんきたよ。どうしたのかなぁ、元気ないね。」



「初音、母さん。ごめんね、遅くなっちゃって」



「それより早く、見て見て。お母さんこんなんになっちゃうの」



「んー。うわあ。いいね~。これなら良いんじゃない」


・・顔は、16歳ボディの今とあまり変わらないし、少し大人びたか?くらい。でも胸が大きくなった。Eカップだそうです。



「お兄ちゃん、うちの16歳は?」



「うむふむ。いいんじゃないかな。JKらしくて可愛いぞ。でも、胸は、あんまり変わってないね。ぷぷ、Aカップ、小さいままだったねー」



「う、うう。じゃあ、うちも思い切って20歳にするぅー」



二十歳のシミュレーションを見せてもらう初音。



「うわあ。大人の母さんもキレイだったけど・・初音のはたち・・やば!色っぽいし綺麗すぎる。長身で手足が長くって別人みたいけど、顔つきは、やっぱり初音だわ。ただし、悲しいかな。それでもバストは、Bカップなそうな。」



はっ、ちょと褒めてしもた。



「じゃあ、うちも二十歳で・・」



え~。それじゃあ、家族3人みんな二十歳になっちゃうのか。しかも、二人とも僕なんかよりずっと大人っぽくなってしまうんだね・・



嬉しいような、悲しいような、



「てか、やっぱりこのテルメア操作の料金は、僕が払うんだよね。」


「いくらなの?」



「えーとね、アキオ。あたしが4年と・・初音ちゃんが6年も本当に操作するんなら、この料金表によると1年の操作で100万圓だからね。合計1000万圓になるわ」



「僕、ルームを卒業してから数年間、大阪城のローンを払いながら必死で貯めた預金が残り1900万圓ちょっとしかないんだよ。」



「まあ、母さんの方は、良いとして初音は、初め決めた2年だけにしなさい、頼むよ」



「いやだ~。二十歳がいい~。お兄ちゃんお金出してよ~」



やっぱり、今日は厄日だわ・・




「あらあら。さっき出した5万圓からのオークションが、もう2000万圓で即決されてる~しかも既に、お金も振り込まれてるわ。やったあ、母さんうれしい」




!!もしかしてアレ?




「母さん、も、もしかして・・それって昔の100円玉じゃないの?」




「あら、アキオ良くわかったわね。何で知ってるの?」




「そ、そ、そ、それ。僕が、欲しかった奴だよおおお!!」




「あら、あら。おっきい声出して・・この子ったら・・」




「へっ?」




「それなら、母さん、家にいっぱい持ってるから、帰ったらいくらでもあげるわよ」




「へっ?」


「えへへへ~」




「よっしゃあ!それじゃあ、一家みんなで二十歳をやろうじゃないかぁ」




やっぱり、僕は、この世界で一番運が良い人間だったんだ。古銭屋の支配人には悪いけど。明日から更に、少しずつ100円玉をオークションで売っていこう。



母さんと、初音は、処置の為に今夜はクリニックに泊まるらしい。



一人家に帰った僕は、天守閣の展望風呂に浸かってもう、妄想が止まらなかった。




そして、明日は、仕事帰りに・・あの・・自販機に・・


むふふふ・・



その日、僕は眠りに落ちるまでずっと、薄ら笑いが止まらなかった。





つづく

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