第15話 犯人

 いつものコギなら日曜の夜にはお腹が落ち着くのに、今回はまるでだめでした。


 というか、日曜の夜には散歩も行けなくなりました。

 ケージの中で丸まり、時折動き出したと思ったらひどい下痢です。


 土曜の夜はフードを食べたものの、その後嘔吐。以降、食べなくなりました。


 水様便のため、お尻が真っ赤にただれます。

 当初は赤ちゃんのおしりふきで拭いていたものの、らちがあきません。シャワー浴に切り替え、あまりにも赤みがひどいときは、ワセリンを塗りました。


 とても外に出せる状態ではないので、月曜日以降もコギを家の中に残して出勤。

 昼休みに帰宅し、汚れたペットシートを交換し、コギをシャワー浴させ、また仕事場に戻ることを繰り返しました。


 いつか治るんじゃないか。今日こそお腹が落ち着くんじゃないか、と思いましたがダメでした。


 金曜日に動物病院に行き、事情を説明して診察台に乗せました。

 体重は一キロ減。


 点滴を打たれ、陰洗して塗り薬を肛門に塗布。血液検査をした結果、白血球の増加のみが認められました。臓器に異常はありません。


「……うーん……。下痢止めと嘔吐止めを出しておくので様子を見て。嘔吐が続いたらすぐ来て」

 そう言われて病院を出ました。


 その後も体調は良くなったり悪くなったりを繰り返しました。


 あまりにも食べないときは、点滴をしてもらいに病院へ。


 我が家の庭に、コギが出られなくなって数週間が経ちました。


 その間、ペットシートがぎゅうぎゅうに詰まった大量のゴミ袋を出し、毎日昼休みに帰宅する私を見て、近所の人が「大丈夫?」と声をかけてくれました。


 私はコギの様子を伝え、「もうすぐしたら大丈夫だと思います」と伝えました。

 実際は大丈夫なんかではありませんでした。


 ケージから出てこないコギ。散歩を嫌がるコギ。シャワー浴がうっとうしくて唸るコギ。食べたいのに食べられなくて不機嫌なコギ。風呂場からケージまで移動する、たったそれだけなのに途中でもよおし、カーペットは毎日のように汚れ、洗濯機に放り込みました。


 そんなある日。

 ふと、カメラのことを思い出しました。


 コギの世話に追われていて、あの土曜日のカメラの画像を確認していなかったのです。


 ただ。

 いままでも、近所の人しか映っていませんでした。

 あまり期待せずに見たのですが。


 ひとりだけ。

 なぜこのひとがここにいるのだ、という人物が映っていました。


 散歩中にたまに会うと声をかけてくれる人です。


 ものすごくコギがなついていて、『犬を飼っておられるのですか?』と尋ねると、『いいや。でも好きなんだ』と、こたえた人です。


『犬は犬好きがわかるんだな』と本人は笑って言っていましたが……。


 そんなことあるものか。

 こいつだ、と私は確信しました。


 腹が立って腹が立って、怒鳴り込んでやろうかと考え、画像を何度も確認しましたが決定的瞬間は映っていません。


 その後、近所の人が我が家を訪問します。

 そして理解しました。

 


 結論から言いますと。

 うちのコギに勝手に食べ物を与えていたのは、散歩中にあう人と、近所の複数人でした。


 ひとりではなかったのです。


 見知らぬ誰かでもありませんでした。

 みんな、私が知っている人たちでした。

 カメラはちゃんと最初から映していたのです。

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