第13話 金曜日のあいつ
次に変だな、と思ったのは定期的にお腹を壊し始めたからです。
もともとアレルギーもあるし、胃腸も弱いコギ。
フードを変えたらてきめんに下痢嘔吐をします。
なので、『なんか変なモノ食べたのかな』と思いつつも、このときの『変なモノ』とは、庭にいる虫のことでした。
こちらのエッセイでも書きましたが、時折カマキリやバッタを食べてアレルギーを起こすことがあったのです。バイアイ(両目の色が違う)は身体が弱いといわれますが、歴代ワンコのなかでも一番手がかかります。
だけど、ふと気づきました。
お腹を壊すのは、決まって金曜日なのです。
そして、土日にかけて回復し、月曜日にはいつも通りになります。
まさかと思うけど、本当に誰かなにかやってるのか、と。
だんだん看護師さんの言葉が現実味を帯びてきました。
うちのコギは、私よりも近所付き合いが上手です。
散歩中、「あら。コギくん、元気?」と声をかけてもらえますし、お隣のお嬢さんは修学旅行から帰った直後「ただいま」とあいさつに来てくれました。小学校に登校する子どもたちも毎朝眺めているようです。
ボーダーコリーちゃんのように、完全屋内飼育もできますが、我が家に来たときから日中は外で過ごし、私の知らない人間関係を築いてきたコギを、そこから引き離すのも酷だと考えました。
コギにはコギなりのルーティーンがあり、生活があります。
当たり前ですが、犬に人間の事情や言葉は通じません。
コギからすれば、ある日いきなり終日家に閉じ込められるのです。
なんとなく、それは避けたかった。コギのストレスになるからです。
勝手に食べ物を与える人も、悪気はないんだろう、と思っていました。
飼育用の動物をなつかせるのは簡単です。餌をやればいいのですから。
きっとコギと仲良くなりたくて安易に食べ物を与えているんだろう。
その人は、その後、コギが体調を崩しているなどきっと知らない。
そこで、私は張り紙をいたるところに掲示することにしました。
・コギがアレルギー持ちであること。
・特定のフードしか食べられないこと。
・食べつけないものを食べると、血便、血尿、嘔吐に苦しむこと。
それらを書き、「えさをあたえないでください」とお願いしました。
ひょっとしたら外国人や子どもがやっているかも、と、できるだけひらがなも多用しました。
もう壁だの郵便受けの下だの、自転車置き場だのに貼り付けたおかげで、うちのコギに無断で餌を与えている人がいる、ということだけは近所中に知れ渡ったようです。
「よく見ておいてあげるね」
そう言ってくれる人も出てきました。
これで騒動もおさまるだろう。
ほっとしたのもつかの間です。
帰宅した私は、庭に嘔吐した形跡をみつけます。
嘔吐物は未消化だったため、「コギがなにを食べたか」がはっきりとわかりました。
うちが購入しているフードではありません。別のフードです。
やっぱり誰かが勝手にペットフードをやっているのです。
コギはその日一日嘔吐し、数日下痢に悩みました。
張り紙には効果が無いと感じ、私は「金曜日のみ」コギを屋内に入れておくことにしました。
コギの体調変化や嘔吐の状況を考えあわせ、金曜日にそいつはやって来るようですから。
そうして、平和な2週間が過ぎたのですが。
ある日の土曜日。
庭に出ると、嘔吐をした形跡があります。
またあのペットフードです。
そうです。
そいつは、金曜日にコギがいないとわかるや、日にちを土曜日に変えたのです。
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