第8話 移動、自由自在

 よく猫ちゃんが、前足でドアノブを開けたりするようですが。


 うちのコギは、隙間を見つけると、そこに長い鼻先を突っ込み、横に振るようにして扉を開けます。


 毎朝、私の後ろを、てとてと歩いて、洗面所についてくるのですが……。

 洗面所で私が顔を洗ったり、メイクをしている間、なにをしているか、というと。


 ぴたり、と足元に寄り添っているわけです。

 これが、冬だとあったかいのですが……。

 夏場はもう、嫌がらせ以外のなにものでもないわけです。


 なので、洗面所に通じる引き戸を、ぴたり、と閉めて入ってこれないようにするのですが。


 がっしゃがっしゃ、がっしゃがっしゃと前足で戸をひっかき、少しでも隙間が出来ようものなら、ぐいぐいとっがい鼻先を突っ込んで。


 ぶん、と横に振る。


「開いた!」

 にまっ、と笑って近寄ってくるので、「……暑いねん」と思いながらも、迎え入れたりしています。


 もうひとつ、夏場に洗面所に入ってきてほしくない理由に。

 私の長手袋保護があります。


 あれです。

 日焼け防止に、手につける、あの長い手袋。


 なんかもう。

 大好きなんです、うちのコギ。


 珍しくおとなしいなぁ。足元にも来ないなぁ、と思ったら……。

 ソファの陰に隠れて、「うぐう、ふぐう」と言いながら、私の長手袋を口いっぱいに頬張り、噛みついています。


 もう、おとなしくしていたら、絶対、これ。


 百パーセント、長手袋をおもちゃにしているといっても、過言ではない。

 慌ててコギの口に指を突っ込み、引き出したところで。

 よだれで、でろでろ。なんなら、牙のせいで、穴も開いている。

 何度叱っても、やめない。 

 バッグの中とかに入れていても、探り出す。麻薬探知犬か。

 いくつも、破られたので、最近では百均でしか買わなくなりました。


 で。

 その長手袋を、洗濯しようと洗面所の脱衣かごに入れていると……。


 匂いでわかるのか、「あ!!! ある!!」とばかりに、探り始めます。普段はしないんですよ、こんなこと。長手袋があるときだけなんです。


「こらっ! やめんかっ!」

 メイクをしながら、コギを追い払い、長手袋を保護する、という。

 様々なタスクをこなさなければならないため。


 夏場はできるだけ、コギに洗面所に来てほしくないんだよなぁ……。

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