第7話 コギ、遊びに行く

 うちのコギは、日中、外にいます。


 庭ではなく、犬走り、というのでしょうか……。家の外周をぐるっと回っている小道を、普段は自由に動き回っています。


 暑かったら、南天の木陰へ。雨が降ったら、ウッドデッキの下に。訪問者が来たら、「わおーんっ! おんっ! おんっ!」と番犬の役目を果たしているようです。


 初めはリードでつないでいたのですが、絡まらせて身動きがとれなくなってしまうことが何度もあったため、柵を作って、犬走り部分から出られないようにしています。

(※ただし、おとなしい犬だと、こんな飼い方では、盗まれたりするそうで……。あくまで、これはうちの犬の話です)

 私が仕事に行くときに外に出し、帰宅後、散歩をしてから、お家に一緒に入ります。


 そんなうちのコギ。

 ときどき、代休をもらって平日に家にいると、外から声が聞こえることがあります。

「な、なんだ……」

 おそるおそるカーテンに隠れながら、のぞくと。

 近所の人が、コギの頭を撫でていたり、学生たちが自転車を止めてコギに話しかけていたりしていて驚いたことがあります。


 ……普段、うちの犬はなにをしておるのか。

 下手したら、私よりご近所付き合いがいいかもしれません。


 そんなコギの心の友は、というと。

 隣家のお嬢さんです。

 引っ越してきた当初から、興味津々で、私に隠れて(……まぁ、バレているのですが:苦笑)コギに会いに来ていました。


 そんなある日のこと。

 休日の朝です。

 コギを外に出し、さて、掃除機でもかけるか、と思っていた矢先に、固定電話が鳴りました。

 仕事の連絡はほとんど携帯にかかってくるので、「……え。なによ」と、不審におもいながらも、受話器をとります。


「もしもし?」

「あ。すいません。〇〇ですけど」

 名乗ったのは、隣家の奥さん。隣保りんぽ名簿を見て、電話をくださったようです。


「あれ!? 今日、なんか自治会行事がありましたっけ!?」 

 慌ててカレンダーを確認。私だけ、出席していなくて、電話がかかってきたのか、と思ったのですが、奥さんは愉快そうに笑いながらおっしゃいました。


「〇〇くん(うちのコギの名前)が、今、うちに遊びに来ちゃってるんです。お迎えをお願いします」


 びっくりして、受話器を置き、犬走りの柵を見やると、閉め忘れて開いています。

 どうやら、コギがそこから抜け出し、隣家のお嬢さんのところに遊びに行っている、ようでした。


「すいませんっ! すぐ迎えに行きますっ!」

 再び受話器を掴んで叫び、私はリードを持って家を駆けだしたのですが……。



 お嬢さん曰く。

 朝ごはんを食べようと、キッチンの椅子に座ったら、カチャカチャ、と庭に面している掃き出し窓から音がする。

 なんだろう、とカーテンを開けると。


「やあ! ぼくだよ!」

 満面の笑みのコギが、短い尾を振って後ろ足立ちに立っていたそうで……。

 前足で窓ガラスを掻き、お嬢さんを呼んでいたようです。


「す、すすすす、すいません、もう……っ」

 赤っ恥で謝罪したのですが、奥さんも、お嬢さんもにこにこ笑顔で応じてくれました。


「いつもは、私が〇〇くんに遊びに行ってたのに、今日は〇〇くんが来てくれて、すっごい嬉しかった!」

 特に、お嬢さんは大興奮でそう言ってくれました。


 今まで飼っていた犬で、雷の音とか打ち上げ花火の音に驚いて脱走した犬は何頭かいたのですが……。

 いずれも、隣町とか、随分と遠いところまで逃げてしまって、途方に暮れているところを保護。引き取りに行ったことがあったので……。


 こんな風に、人間の友達に遊びに行った犬は、初めてです……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る