第6話 ひとこぶコギ

 それはまだ、コギを家に迎えて一年経つか経たないかの頃。


 土曜日だったことは覚えています。

 ふと、庭にいるコギを呼び、ボール遊びをしようと思ったとき。


 私の側に駆け寄ったコギの異変に気づきました。


 目が。

 目が。眼球が。

 ゼリーみたいにぶよぶよしていたんです。

 斜めから見たり、正面から見たり。様々な角度からみても、ゼリーみたい。


 慌ててかかりつけの獣医に連絡をすると、「土曜日も診察してますから、来て下さい」とのこと。


 コギを車に乗せ、病院に。


 診察の結果。

「ああ、この浮腫は、アレルギーですね。バッタとか、カマキリとか食べちゃったんじゃないかな」

 とのこと。

 当時は夏で、確かに庭には各種虫が出没しており、コギがそれらを追っているのはみていました。


「点滴をしたら大丈夫だから。これは治る。平気平気」

 何度も獣医さんに言われ、看護師さんにも「大丈夫ですよ」と言われても、私は号泣。


 というのも。

 先代犬を病気で亡くして間もなかった頃で。

(というか、先代犬を亡くした喪失感から、コギを飼ったので)

 今回も、私が病気の兆候を見逃した結果、死んでしまうんじゃないか、とか。

 あんなに元気だったのに、いきなりいなくなっちゃうんじゃないか、とか。

 いろいろ考えて、涙が止まらず。


「これは治る。大丈夫」

 獣医さんは何回もそう言ってくれて。

 そして、点滴をしてくれたのですが。


 ……その、点滴が……。


 なんというか、人間だと、落ちる量を決めて内容量を身体に落としていくと思うんですが……。


 この獣医さん。

 針を刺すなり、輸液パックを、ぎゅ―――っと、絞りに絞る。

 見る間に、コギの背中に、こぶが。


 その姿たるや、ひとこぶコギ。


「……え? あの……。この、こぶ……」

 涙も止まり、オロオロと尋ねると、獣医さんはにっこり笑いました。


「皮下に溜まっているだけだから。時間とともに、ゆっくりと吸収されます。はい、お疲れ様、お大事に」


 結果的に獣医さんの言うとおり、こぶは吸収され、浮腫は治まりました。

 先代犬のとき、この病院で手術してもらったこともあるんですが……。「〇日〇時に迎えにきてください」って言われただけで、点滴の様子とかみたことなかったので、驚きました。犬って、こんなかんじなんだ……。


 コギは、その日のうちに、回復。「病院、行ったねー」という顔で、のんびりまったり。


 その後。

 私は毎年、バッタとカマキリをみつけると、虫取り網で捕獲し、庭から追い出しております。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る