白い花
「魔女ー来たよーー!」
ぼくはよく魔女の家に遊びにいった、魔女の家は古い古い日本家屋で少し山を登った森の奥にあった。
「よく来たな丁度良い頃合いだったんだ」
「頃合い?」
ぼくの家は少し魔女の家から離れた所に在ったがよく「えっちらほいっと」山道を登り魔女の家を訪ねていた。
「ほら小僧シートもって手伝いな」
ぼくは大きめのレジャーシートを持つと魔女は椅子を片手で浮かし持ちを裏庭へと案内する。
「桜?」
「梅の木さ、元はだけどね」
そこには枝が真っ白に華やいだまだ小さな梅の木があった。
「元は?」
「そうさ、よく見てみな♪」
魔女が悪戯な笑みを浮かべぼくの耳元で囁いたあと花に見えたそれを指差した。
「ようやくこの魔法が成功したよ」
「ジーーーーーー」
パクン!
「子供はすごいね、躊躇もせずに摘まんで食べたよ……」
「味がしない」
魔女はガッカリした顔で見上げるぼくにやれやれとばかり言う。
「当たり前さね、ポップコーンは後で味を付けるんだよ」
「そうなの?」
ぼくは小さな木の枝に咲いた大粒のポップコーンを一摘まみし食べた、魔女は魔法でポップコーンの木を作っていたのだ。
「そうだよ、そうじゃなければ色んな味に出来やしないじゃ無いか」
「色んな味のポップコーンの木を作れば良いのに」
魔女は人の苦労も知らずとばかり顔に手を当て首を横に振った。
「さあ、良いからシート敷きな! 収穫だよ!」
「オケ!」
ぼくは嬉しそうに敬礼した。
「敷けたよ魔女! どーすんの?!」
ぼくはポップコーンの木の幹の回りにレジャーシートを敷き詰めると魔女は二階の洋間から持ち出したという古い洋風のひじ掛け付きの椅子から立ち上がり、読んでいた文庫本を座面に置いた。
「じゃ始めるかね」
「あっ、ぼくの虫取網!」
去年の夏に忘れていったぼくの虫取網を魔女はくるりと回すとその長い持ち手をポップコーンの木の幹に「トントン」と当てた。
「わっ! わっ! わっ!!」
ぼくは驚いた、突然ポップコーンの木が震えだしその枝に付いたポップコーンを振り落とし始めたのだ。
「わっ! わっ! わっ!! スゴい! いっぱい落ちてる!」
レジャーシートはポップコーンで真っ白に成り魔女は自慢げに胸を張る。
「よーーーーし! シートを織ってポップコーン集めるんだよ!」
「ハーーーーイ!!」
ぼくはレジャーシートを織りたたみながらポップコーンを集めた。
◇◆◇◆
「美味しいね魔女」
ぼくは裏庭に面した廊下のガラス戸を開け放ち暖かな木の廊下に魔女と隣同士に座りポップコーンを食べる。
「ああ、でもしくじったよ、バターを切らしてたとはね……」
「お塩だけでも美味しいよ魔女」
「そうかい?」
魔女は笑うとぼくの頭を「ワシワシ」と撫でてくれた。
「まあ、バター炒めのやつは小僧の母ちゃんにやってもらいな、フライパンは危ないからな」
「うん、お母さんに頼む♪」
ぼくと魔女はビニール袋の中に木から取ったポップコーンと塩を入れ、ぼくが振り振りして混ぜたポップコーンを魔女と一緒に「美味しい、美味しい」と言いながら食べた。
ホーーーーホケキョ!
ホーーーーホケキョ!
ホーーーーーーーーーホケキョ!
ぼくの頭の上でウグイスが塩無しのポップコーンを魔女から貰い食べている、ぼくの視線の先には枝にまだ小さな芽を残したポップコーンの木があった。
「もう少し待ったらポップコーン咲く?」
魔女はニンマリと微笑む。
「ああ、またおいで」
日常奇譚 山岡咲美 @sakumi
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