無人島の海水浴場
ぼくは夏休みにお母さんと海に行った。
小さな観光船で行く無人島の海水浴場だ。
「いいな~~♪」
瀬戸内海の静かな海を進む観光船の
お母さんは静かに窓に流れる海を見つめ、既に膨らんだ浮き輪を膝の上にのせていた。
「お腹減って無い?」
「減って無い!」
「でも食べて置かないと力でないでしょ?」
「食べる!」
小さな無人島へ着いたあとすぐ砂浜に出て泳ごうとするぼくを止めてお母さんは海の家でラーメンを買ってくれた。
「お母さん、海すき?」
お母さんはずっと海を見ている。
「お母さん、海は好きじゃ無いわ」
「ふーん」
ぼくはラーメンを食べながらあまりお母さんの言葉を気にしなかった、それよりももう海で遊んでいる他の子達の事が気になっていた。
「海入る♪」
「浮き輪っ……浮き輪持って行きなさい!」
海に駆けて行こうとしたぼくにお母さんは慌てて浮き輪を渡した。
「浮き輪♪」
ぼくはお母さんから日に当たりあっつくなった大きな浮き輪を受け取り、さらに熱い砂の上を走った。
「ビニール臭い♪♪♪」
浮き輪は楽しい、フラフープ見たいに回せるし、輪っかを立てて入るとバタ足でどんどん進める、プカプカ浮いて沈まない頼りがいの固まりだ。
………
お母さん?
浮き輪があって良かった、ぼくは砂浜から岩場の方に流されていた、砂浜のみんながどんどん遠ざかる。
「………バタバタしても戻んない」
岩場はどんどん高くなり崖の様に上がれない場所になっていた。
ぼくは心臓がドキドキした。
「……お母さん」
ぼくは人の居ないその場所でそう呟いた。
「あっちに行きたいんだろ」
ぼくの浮き輪が強く引かれる、あの観光船の舳先にいたお兄ちゃんだ。
お兄ちゃんはぼくを引いて砂浜へと戻ろうとする、浮き輪が伸びるくらい強い力で後ろに引かれるのが分かる。
「フナムシ!」
「ああ、そうだね」
ぼくもお兄ちゃんも強く強く後ろに引かれるがゆっくりゆっくり砂浜へと戻って行けた、2人とも恐かった筈だが不思議と慌てず岩場のすき間に居るフナムシに目が行くほど落ち着いていて体は本能的に適切に動いた。
「ドキドキした!」
「ドキドキしたね……」
お母さんがペコペコしてる、お兄ちゃんはぼくに手を振りあまり気にしてないように見える。
ぼくはそのあと砂浜に打ち上げられていたクラゲを木の枝でつついて遊んだ。
「刺さった!」
クラゲに枝がプツリと刺さる。
今日はもう泳がせて貰えない。
「海また来る?」
ぼくはもう、海に連れてって貰えない気がして帰りの船でお母さんに聞いた。
「……………」
お母さんは黙っている。
「プールならいい?」
「……………」
お母さんはぼくの頭をなでるけど「いいよ」とは言ってくれなかった、ぼくはお母さんを安心させようと話を続ける。
「お母さん、プールは大丈夫だよ、だってプールにはお父さん居ないし引っぱらないよ」
お母さんが凄い顔でぼくを見る。
「ぼくもあそこに座りたいな~~♪」
観光船の舳先にはまたあのお兄ちゃんが座っている、ぼくはそのあとずっと海に連れてって貰えなくなった。
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