雲の中の龍

 僕は暖かなベッドの中にいた、まだ薄暗い朝の光がカーテンからこぼれるなか夢うつつに在ってゴウゴウと風の音がし木が揺れ葉が鈴の様に鳴っていた。



「そう言えば台風がかすめるんだっけ?」



 2階にある僕の部屋は木の枝が窓の目前まで迫っていたが枝で網戸を破らない様に僕はこまめに窓を開けては手の届く若い枝を折り続けていた、前に枝が網戸を破る被害を出して以来そうしているのだ。



「ちゃんとねむっとか無いとあとが辛いんだよな……」



 だか流石に古い家が強風できしむ様では不安も募り、いやいやながら二度寝を諦めて起きる事にする、この辺りは大丈夫だと思ってたのに……。



「ご飯何にしようかな?」



 僕は台所で生ぬるい水道水を湯呑みにそそぎ口をすすいだあと冷蔵庫の冷たい水を湯呑み半分ほど飲んだ。



 ガラリン!



「今の何の音??」



 聞きなれない音に気持ちの悪さと不安感を覚える。



「応接間の方かな?」



 僕はのそのそと応接間へ向かう。



「頼むからガラスとか割れてないでね」



 しかし僕のささやかな願いは叶わなかった様だ。



「お客人、入るなら玄関からお願いいたします」



 応接間の窓はバラリンと割れており窓とソファの間には少し胴の金色の鯉が横たわり口をパクパク開けていた。



「好きでここにるとでも?」



 鯉は僕に話しかける、只の鯉では無さそうだ。



「いえいえ、こんな立派なの方が何もすきこのんでこんなボロ屋にお訪ねいただけるとは思っておりません」



 龍はパクパクと口を開けては閉じ恨めしそうに僕を見つめた。



「嫌みにしか聞こえんぞ」



「まだお若いのでしょう?これから立派に成られるのです」



 この龍はまだ滝を登ったばかりの若い龍で台風のなか上手く飛べず我が家に墜ちたようだった。



「怪我は無さそうですね、飛べますか?」



「ああ、だがここは狭い、外まで運んではくれまいか?」



 僕は飛ぶのが苦手そうなこの龍にまたガラスを割られてはたまらないと思い、まずは玄関までの道のりのと玄関の扉を開放し、少し重いその胴の金色の龍をそっと抱き抱え外へと運んだ、台風の風はまだ少し残っていたがこのくらいならば大丈夫だと思えた、僕のシャツは体へと張り付き裾をバタバタさせている。



「ガラスすまんかったな、何時かこの詫びはさせて貰う」



「いえいえそんな事、またお越しのさいはぜひ玄関から」



 フンッ!



 龍は鼻を鳴らし少し笑ったあと、その短い体を練り振り返りもせず低い雲の中へと飛び去って行った。



「少し流されてるけど……まあ何とかなりそうかな」



 僕は応接間のガラスを片付けたあとガラス屋に電話した。



「ああ龍ですね、この辺りではたまにあるんですよ」



 ガラス屋いわく田舎の家ではたまに龍が墜ちて来るらしい。

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