03 ENDmarker.

 ノートを拾って、空の画を開いてみた。


 何も、書かれていない。


 次の頁。


 何か、書いてある。


 読む前に、いちど。


 空を見た。


 ぎりぎり、小雨。


 彼女は、降る前に、帰れるだろうか。


 傘は、持ってきているだろうか。


 自分は、折り畳みがあるので大丈夫だった。


 渡すべきだった。いま、走れば。間に合うかもしれない。


 ノートに書いてあることを。


 読んだ。


『ありがとうございました。あなたといる放課後が、好きでした。私の、宝物です』


 伝えたいのは、それだけだったのだろうか。まだ、続いている。


『このノートごと持ち帰ってしまおうと思ったけど、あなたの画を私が独占するのは、違うと思ったので、やめます』


 持って行っても、よかったのに。完成した画なんて。


『わたしは、明日から、外国に行きます。唄のレッスンが、認められました』


 明日から。


 外国に。聞いたことのある国名の、聞いたことのある学校の名が、書かれている。


『昨日、急に決まったので、伝える時間がなくて、ごめんなさい。いままで』


 その先が、ない。


 かわりに、ノートのその部分が。


 湿っている。


 泣いていた。


 彼女は。


 立ち上がった。


 追いかけないと。


 精神と身体の境目あたりが、震える。


 彼女に。


 会わないと。


 教室を飛び出した。


 彼女が出ていってから。


 どれぐらい経った。


 階段を滑り降りて、靴を履いて。


 外へ出た。


 雨。


 どしゃ降りになっている。


 彼女は、いない。


 雨のなかに。


 ひとり。


 傘も、持ってきていない。

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