天に墜ちるは血の人形
だから何度も、何度もなんども言っておろうに。
*
ピチョン、ピチョンと。
赤い雫が無残に裂かれた衣服を伝って、荒れた床へとこぼれ落ちる。
チクタクと鳴る壊れた懐中時計は進んでは戻るを繰り返し、
赤い月光が差し込む廃れた教会にただ一人、
糸繰り人形のごとく少女を縛る包帯は無造作に放置され、衣服から覗く
「そうじゃなあ、今度はなにをしようかのぉ」
ユラユラと動く頭に次いで、結った長髪も猫の尻尾のように揺らぎ。
彼女の継ぎ目の見える関節が、キシキシと悲鳴に近い音で嘲笑う。
今の彼女は理解から遠のいた拒絶の
椿のごとく音もなく落ちた赤く染まる誰かの顔を、狂おしく愛し頬を撫でる少女は正しく認識していない。
好きだから。
愛しているから。
永遠に、世界が壊れ果てるその日まで一緒に居たいから。
あの人がどんな姿になったとしても、この想いは変わらない。
「一緒にゲームがしたいの。それとも遊びに行くのがいいかの。それとも、それとも……」
彼女には何が聞こえているのか、何が見えているのか。
辺りに咲く赤い彼岸の花にもそれは分からず、理解を司る
愛する人の
太陽は嫌いだ、太陽が憎い。
太陽なんて滅んでしまえ――
春の陽気も、夏の輝かしさも。
実りの秋すら超えて、光の届かないあの人と眠る永久の冬になればいい。
「ああ、いいのう。紅音ちゃんは天才じゃからな。それは得意なのじゃ」
膝の上で髪を
微笑む彼女はまさに眠る想い人を見守る聖女で、火照る頬は肌の白さもあってより赤く染まる。
「のう、」
呟かれる名前は闇よりも深い、奈落の虚空へと飲み込まれる。
本当に声として成り立っていたのか、ノイズにもならない雑音にかき消された名前は再び囁かれることも無い。
赤い月光はステンドグラスを通り
暗く虚しい教会で想い人を抱える少女はたった一人。
兎の穴のように、終わらない閉じた時間を
「何度でも、なんどでも言うのじゃよ」
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