第3話 魔法少女☆ディアーナ
「お父さん」
ノックもせずに書斎のドアを開けて入ってきたのは、幸次の娘、美衣だ。幸次は現在、書斎にあるデクストップパソコンの
「ん、なんだ? あと、ノックして入りなさい」
「あ、お父さんてさ」
マイペースなのか知らないが、ノックの件をスルーして美衣は話を続ける。マイペースなのは親譲りなのではあるが、それは幸次も気づいていない。
「今ちょっとかわいいよね」
「……そうだな。自分でもそう思うくらいだからな。だからといって、娘にそれ言われても微妙な気分にしかならないが」
幸次は今、かなりの美少女である。上下ジャージ姿でハードディスク内の他人に見られたら、のっぴきならない状況になりかねない画像コレクションの痕跡を消そうとしていても、背中の中ほどまで伸びる、薄い金の髪はさらさらと輝き、小さな顔は白く肌にシミひとつない。中身は44歳のおっさんでも、だ。
「でさ、魔法使えるよね。魔法」
幸次は今、魔
「ってことはさ! 美少女で、魔法使えるってことはさ!」
「んんー!?」
「魔法少女だよね! それ!」
幸次はぽかんと、深緑の瞳を持つ大きな目を見張り……
「まじょっ子、というやつか」
「古いね。さすがお父さんだよ」
昭和世代の幸次は
「む、しかし似たようなものだろう」
「でねっでねっ」
美衣は手に持っていた派手な……幸次はトリコロールだなぁ……と思いながら眺めていたそれを差し出す。まさか。
「それ着てみてよ!」
実に中学生っぽい気がするが……ウチの娘、もっとこう……恋人作ったりとか、そんなの無いのだろうか……と、そこまで考えたところで、カッと体が熱くなる。想像しただけで仮想の彼氏に殺意が芽生える。いかん、この体になる前は、血圧にも気を付けていたではないか。気をつけねば。うん、いいのだ。娘はこれで良いのだ。
「うむ、よかろう。これを着ればいいのだな」
幸次はのそのそと服を脱ぐ。白い滑らかな肌が露わになる。美衣が「ひゃー」と声をあげる。
もぞもぞ、もぞもぞもぞもぞ……
「美衣、後ろのボタン留めてくれんか」「うん」
「よし、こんな感じか」
「うわ、ミニスカート姿、初めて見たけど……脚、綺麗なのね」
「お、おう。もういいかな?」
「ううーん、かわいいんだけど、ちょっと思ったのと違うような……?」
どうしろと。
「変身シーンが欲しいな! こう……もぞもぞしなくても着替えられない?」
「無茶言うなよ……服をどっか位相の違う空間に仕舞っておいて、そこから自分の体とポーズに合わせて転送させないとできんだろう。間違えて体の一部と衣装が重なってみろ。大変だぞ」
「重なったらどうなるの?」
「そりゃ、痛いだろうな」
「それくらい我慢したらいいじゃん……魔法少女だし」
向こうの世界でもそんな無茶振りする奴いなかったぞ。と思いながら、何かいい方法はあるだろうかと考える。
「バラバラにした衣装を体に合わせて縫い合わせるとか」
「あ、パーツごとにカチッとはまる感じだね! それ良い演出だと思うよ!」
演出ではないが。
「よし」
いったん衣装を脱ぎ、裁断していく。シュッ! シュッ!
「うわぁ、それ、魔法?」
「風の魔術だな。カマイタチみたいなものだ」シュッ!シュッ!
「たまねぎ切っても涙出なさそうだね」
「そうだな。みじん切りもいけるぞ」シュッ!シュッ!
「お父さん、どんどん便利になっていくね」
「あてにされても困るが。こんなもんかこれを消しといて……と。ではいくぞ」
「うん!」
空間転移で衣装を取り出し、各部へ移動! まずは右腕から。移動したら、裁断面を復元させる。繊維の一本一本に回復術を掛ける!うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
チクチクチクチク……
チクチクチクチクチクチクチク……
「お父さん」
「うん」
「この間がたまらないね」
「……うむ。こう下着姿を披露しているというのもどうかと思うな」
「だね」
「ちょっと見た目の細工でもしようか」
「キラキラさせたり? 良い演出だと思うよ!」
演出ではないが。
「ではいくぞ!」 光魔術発動!
虹色の光が体を覆う! ここで空間転移と復元魔術! うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!
ぴかーーーーー!!!!チクチクチクチクチク!
「すごい! すごいよお父さん!」
「ふう、どうかな。美衣」
今度はうまくできたと思うが。
「なんかさ」
「うん?」
「BGM無いと盛り上がらないね」
「そうか」
「なんかないの?そういうの」
「風魔術で行けるけどな……お父さん、そういうの苦手なんだ」
「苦手な魔法、あるんだ」
「いや……」
幸次は沈痛な表情を浮かべ、ぼそりと
「お父さん……音痴だから」
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