第14話
王都から街道に出て徒歩二日くらいにある町で、事件と関連性のある盗賊団の拠点があるとの情報が入る。
盗賊と魔女の関連性がまだ分かっていないけれど、その盗賊から竜血を受け取ったという商人がいるのだ。
闇取引もする商人で、盗賊とも取引をしていた。しかし、騎士団が竜血の事件を捜査していることもあり、商人は自分の株を上げるために騎士団に竜血の情報を流したそうだ。
情報を引き出すのに手間取ったけれど、その商人は結果的に牢へと繋がることになった。
情報から盗賊の根城を見つけるまでにさらに時間を要し、今頃になって掃討作戦が決行されることになった。
「裏でいろいろなことがあったんですね」
「商人がなかなか口を割らなかったそうだ」
盗賊の根城である廃坑の前で、二人はなおも話す。
討伐作戦ということもあり、今回は鎧を身に着けていた。黒を基本色とした鎧は、見ようによっては不気味にも、美しくも見える。
「やっぱり竜血は偽物なんでしょうか」
以前持ち帰った竜血の成分は、まだ分かっていない。
総隊長の話では、城にいる魔女たちは、他の魔女と関わりを持つことを好まないそうだ。
保護された魔女は、人間の味方を代表するような存在だ。特に害のある魔女からは敵視されやすいのだ。
分析を送らせることで、時間稼ぎをしていると考える方が妥当だろう。
しかし逆に考えると、本物であれば時間稼ぎなどしている暇はない。本物の竜血であれば、流れた数から考えるとかなりの魔女が増えることになる。
つまり、偽物であると魔女たちは言外に伝えているようなものなのだ。
その薬が実際にどんな効果があるのか、詳細は分からない。分析結果がないのだから、直に体験しなければ不明なままだ。だが何か分からない赤い液体を、保証もなく飲みたい人間はいない。
罪人に飲ませる手もあったけれど、彼らが正直に飲んだ後の症状を話すとも限らないのだ。
動物では正確な結果が得られるかも分からない。
結果的に、魔女が分析結果を公表しなければ、竜血の偽物だと分かっていても何もできないのだ。
初めて話を聞いたときよりも、ややこしい事態になっている。今回の討伐で話が少しでも進むといいのだが。
「突入するとしますか」
リーヴァイのやる気のない号令で、黒騎士隊第二隊が廃坑の中へと入る。
ここは何十年も前に捨てられた廃坑だ。あちこち崩れている箇所もあり、大人数で入るには危険であり、狭すぎる。
黒騎士隊の中で今回の事件に最も詳しい第二隊が、その面倒事を押し付けられることになった。
ここに盗賊がいることは間違いない。廃坑の外で見張りをしていたごろつきが何人かいたからだ。
ごろつき相手に黒騎士が苦戦するはずもなく、すぐに無力化した。
あとは、この奥に竜血があるかどうかが問題である。
周囲に警戒しながら進むと、見回りの盗賊を何度か見つける。弓が得意な黒騎士に処理を任せてその場は切り抜けた。
誰かに見つかることも、大きな問題もないまま討伐計画は進む。
奥へ行くと、途中で坑道が崩れていた。側に横道を掘った穴があったため、そこを通ってさらに進む。
声を発すれば相手に気取られる可能性もあり、誰も私語をしない。ただ静かに進むだけだ。
そして、最奥と思われる場所には大きな扉があった。盗賊が作ったとは思えない程、立派で頑強なものだ。
隊長の合図で扉を開けると、奥には大きな空洞があった。
空洞が天然にできたものなのかどうかはよく分からない。
中心には天井がなく、太陽が丸見えになっている。光の下では林のように木々が生い茂っている。地上へ続く崖からは滝が流れ落ちていて、滝壺から林を囲むように小さな川が流れている。
鳥や蝶があちこちで飛んでいて、ここが廃坑から繋がった場所であることを忘れてしまいそうだ。
盗賊の拠点でなければ、魅入ってしまう光景である。
中へ入ろうと一歩踏み出すと、火球が投げられてその場を跳んで避ける。
「魔法か?」
大きさから見て、この火球は自然発生したものではないとすぐに分かる。
次に飛んできた火球はリーヴァイを狙っていていたけれど、彼に触れても魔法は消滅するだけで何の効果もなかった。
初めて目の前で魔法が無効化するところを見たけれど、痛くもかゆくもないのが少し羨ましかった。
魔女がいることが分かると、黒騎士たちの行動は速かった。
入り口で固まっていた黒い鎧の騎士たちは、散開すると他の盗賊へ向かうものと、魔女へ向かうものとで分かれた。
魔法の効果があまりない黒騎士が魔女討伐へ向かい、多少でも影響が出るものは盗賊たちを相手にした。
エセルバートは後者の担当だ。リーヴァイは無効化の体質を持っているため、魔女へと向かう。
瞬く間に場が騒がしくなる。
「まだ敵はいる、一気に攻め込むぞ!」
盗賊を斬ると襟首を掴んで投げ捨てながら、エセルバートは黒騎士たちに指示を出す。
正式な副官ではないとはいえ、彼の指示に誰も口を出さない。
彼の身体能力が桁外れであることと、指揮能力が認められているからだ。
それに、この場にいる盗賊を何度も斬っては投げ、斬っては投げを実際にして見せているのだから、文句を言う輩はいない。
逆に、盗賊たちにとって、黒騎士の進行は恐ろしいものに見えているに違いない。
顔を青くして戦意喪失しているごろつきが何人もいる。
あらかた盗賊を片付け終わったのを確認すると、魔女担当の方へ支援に向かう。
あちらも苦戦しているとはあまり思っていない。
この空洞に入ったときにちらりと横目で確認したのだが、男の魔女がいた。盗賊の頭のようだったが、黒騎士たちを見て恐怖で顔を引きつらせていた。
案の定、リーヴァイの足元には、魔女が拘束された状態で放置されている。
「遅かったな」
「競争してるわけじゃないんですけど」
背後に広がる林を見ると、既に他の黒騎士が調査しているようだった。
木々に埋もれて外からは分からなかったが、林の中には木箱が隠されていた。中から赤い液体が入った瓶がいくつも見つかる。
「この箱の中身はどうしたんだ?」
盗賊の頭に問うても黙ったままだ。
「どうしますか?」
エセルバートの問いにリーヴァイは頷く。
「牢で拷問にでもかければぺろっと吐くだろ」
何人かの盗賊が言葉に反応して身体を強張らせていた。しかし、それでも誰も口を割らない。しばらく待っても反応がないことを確認すると、リーヴァイは諦めの溜め息と吐く。
すぐに移動するための準備を第二隊に指示した。
箱とともに盗賊を連れて王城へ戻ると、総隊長から直接労われた。
「細かい調査はこちらに任せてくれ」
今後の詳しい話をした後、リーヴァイとエセルバートは事務室から出る。
「これで一件落着か」
「なんだか呆気なかった気がしますね」
大きな仕事が一つ終わって、肩から力が抜ける。まだ盗賊たちの尋問が終わっていないため、解決はしていない。けれど、第二隊が討伐に行っている間に、別の黒騎士隊が竜血を流していたのはあの盗賊団だという情報を得たのだ。
市場に流れていた偽の竜血の販売元をたどると、盗賊との関連性を疑うものが多かったのである。
そういうこともあり、市場は調査のためしばらく中止される。朝の巡回もなくなるということだ。
「久しぶりに休暇がとれそうだな。どこかに行くか?」
「酒は嫌ですからね」
今のところ、リーヴァイとエセルバートが外で会うときに行く場所は、食堂や酒場が多い。
「俺の家に来るか? 親父が会いたがっていた」
「……いや、さすがにまだ早いんじゃ」
「考えておいてくれ」
嬉しそうに笑う男に苦笑で返す。
こんなふうにのんびり話すのは久しぶりである。今までどれだけ気を緩めても、完全に警戒を解くことができなかった。
正式な恋人となってから初めての休暇である。どこへ行くにしても、リーヴァイとともにいられるのなら楽しめるはずだ。
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