第22話 幕開きそうで開かない~



「ルビー・マリアノ・・・! 私はお前との婚約を破棄する・・・!!」

「・・・・何ですって?」



「えぇ~、ナニコレ、どゆことー」

「何という男でしょう…!」

「ルビー様ッ…!!」



フロアで叫び倒すキラキライケメンの男。

まぁつまりは、ルビーの婚約者のジェード殿下。

その隣にはいつもの如くミカちゃんが張り付いていた。


今このフロア、空気のピリピリ感、まじやばい。





時間は遡って小一時間前─────




「だ、誰・・・、なんだ、その男は・・・」

「あっ、デンカ~! さすがデンカ。高そうな服~」




アキナと舞踏会に入場した私達。


鮮やかなカラーを纏っているので一気に注目は集まった。

「なにあれ」「素敵かも」「いや、あれは…」

どんな感想であれ、堂々としてれば格好いいし!って事で気にせず美味しそうな食事に、二人で一目散。



「ちょーうまぁ~!」

「んふふ…!こんな楽しい舞踏会初めてだわ…!」



そんな話をしてたら、いつの間にか後ろに居たクロウ。

すんごく不安そうな顔でアキナをチラチラ見てるから、実はBLっちゃう感じ?と一瞬思った。



「ちょっとちょっとデンカ~、失礼じゃなーい? 男じゃなくて、お・ん・な・の・こっ!」

「はぁ・・・?」



もう!ちゃんとアキナにメイクまでしてんのに!

ってちょっとムカついたけど、いや、確かにアキナのポテンシャルが悪い。

だってメイクしたらしたで、K-POPアイドル…。

そりゃ無理もない…。



そんなんだから、女の子だよ!って言っても、全っ然、思考が追い付いていない様子のデンカ。

失礼かもだけど、デンカ、めっちゃかわいいな。



「いやぁああん…! もしかして…!第一王太子殿下のクロウ様ッ…!? きゃああぁああ…!やだぁ…!超イケメーーン・・・!!!」

「え? え??」



「近くで見ると惚れちゃうわぁ…! 平民棟Sデザイナー学科のアキナ・ココと申しますぅ~!握手して下さぁい…!」



突然このキャラは確かに反応困るかもだけど、いやもう、デンカ可愛いよ…!

「あ、あ、はい…」なんて言いながら素直に握手しちゃって…!

なにそれ!!

超かわいい!



「いやぁああん…!!あたしもう手ぇ洗えないわぁ~!!」

「え、いや、全然、洗ってくれ…。って、・・・え??」



「ぶふっ…! あっはっははっ・・・!」



困惑し続けるデンカに、ついに吹いてしまった。



「お、おい美優…!何が可笑しい…!」

「いやいやっ…!ごめんっ…!でもっ…!やばいやばい…!ちょーうける…!」

「もぉ~~、美優ったら笑いすぎよぉ~」

「ひぃ~!ひぃ~…! ごめんごめんっ…! だから言ったっしょ!正真正銘女の子だからっ!」

「んん…、まぁ、何となく、分かった…。」




「あら、珍しい組み合わせですわね!」

「何を話していらしたのですか?」



「ふふふ、」と聞き馴染みのある声に、思わず「おーー!」といつものノリで言ってしまった。

淑女らしからぬ!と言わんばかりに、ひそひそと昔のバブルってる感じの扇子で口元を隠す子達。


舞踏会って、本当に色んな人が来る。

全然知らない子も沢山いるし、なんか文化祭みたいな感じかなって勝手に思ってたけど、やっぱ違うね。

ルビーとかがよく言ってる「貴族ってそう言うものよ」ってゆーのも何となく分かってきた気がするかも。


あーあ。

面倒臭いなぁ、貴族って。


たまーに向こうの世界でも聞くけどね。

マンションで何処の階だの、どの地区に住んでるだの、ママ友だの、それこそ芸能界もそうか。


あ、貴族が面倒臭いんじゃないか。

面倒臭いの人間か!


うわー、この歳にして気付いちゃうとか!

どの世界も世知辛ぇ~!



「あれ!そう言えばマリンとペリドットは婚約者居ないの!」



マリン、ペリドット、アキナが、ドレスの事で「きゃっきゃうふふ」しながら話しているのを渋そうな顔で見つめるデンカ。

まぁ、デンカは婚約者が居ないの知ってるけど、そう言えば二人のそんな話聞いたこと無かったな。

てゆーか男の影も見えない。

特にペリドットとかペリドットとか。



「まぁ!私はビジネスを共に盛り上げる優秀な殿方が居ないからですわ!そもそも恋よりビジネス!!」

「あぁ~、やっぱり。」

「やっぱりって何ですのよっ!」

「んー、マリンは?」

「ちょっと!美優ったらっ!」


「私はぁ…、ん~・・・、まだ、いいですわ」



そっ、と誰かを思い出すようにマリンは目を泳がした。



「あっれえーーー????  なになに? 好きな人??居るんだ??居るんでしょ???隠してもムダだし!」

「えっ…!えぇ~~~??」

「なっ、マリンさん!?裏切るおつもりっ…!?」

「きゃあ!なになに!?コイバナっ!?」

「ん~~~、ルビー様の婚約が、一段落したら、お話ししますわ」

「えーー!!ちょー気になるーー!!」

「全く、女というのは・・・、」



「あら、皆さん揃って楽しそうですわね。私も交ぜて下さいな」



「「ルビー!」」「「ルビー様!」」「いやん、いつ見ても素敵っ!」



燃えるような赤いドレスに、身を包んだルビー。

身に付ける宝石は、ルビーの瞳の色。

深く深く輝いて、何から何まで、『これがルビー・マリアノ』と自分自身で表現しているみたいだ。

そう、まるでルビーそのものが、炎のように周囲を照らすほど…。



「びっくりなんだけどさ!マリンが好きな人居るっぽいんだよね!」

「そうなんですの!? まぁ!驚きですわ! で、どんな方なの?」

「それがルビーの婚約が一段落して・・・・・・、って、あれ・・・」



そう言えばもう一人のデンカが居ない。


最初から気が付いていたのか、アキナ以外気まずい雰囲気・・・。



「・・・・、もう一人の、デンカは…?」

「さぁ?」



テーブルに美しく並べられたシャンパンであろうものを、上品にコクリと飲んで、「ふう」とため息。



「弟が、また何かしたのか…」

「・・・昼頃、突然、『一緒に入場出来なくなった。申し訳無いが先に行っててくれ』と…。うふふ 、信じられます? 私、ひとりで入場したんですのよ?」

「そんな…、」

「ルビー様になんてこと!と言うか女性になんてこと!!」

「はぁ…、全く・・・、」

「あ、勿論、クロウが謝ることではないので、ご心配なさらず。 あ!いえいえ、心配するならこの建物ですかね。怒りでうっかり燃やしてしまいそうですわ」

「え"・・・」

「ん~?ルビー??」



「うふふふふ」と微笑みながら、ガバガバ酒のんでるよ…?



一年に一度の王家主催のパーティー。

その王族、ジェード殿下の婚約者、ルビー。

婚約者、夫婦は揃って入場するのは王家側からのお願いであり、つまりは、決まりごと。

そもそも婚約者をエスコートするのは当然のこと。

なのに、そんな決まりごとを王族であるジェード殿下が、自ら破った。


婚約破棄すると決めてはいるが、まだ破棄はしていない。

なら何故、エスコートしなかった?

お腹痛いの?

病気??


それとも…??



「うふふふふ、これでジェード殿下が、もしも、もしも、美香さんと御入場なさったら、あーあ。私本当に淑女で居られるかしら?そっちの方が心配だわ」

「うわーー、めっちゃ怒ってるぅ~~」



そんなフラグを立ててしまったからか、何なのか。

まるでルビーが入場したのを確認したように、およそ10分後、そいつらはやって来た。



ざわざわ

ざわざわ



周囲のざわめきが収まらない。


そりゃそうだろう。


ルビーの婚約者であるジェード殿下が、他の女を連れてやって来たのだから。




「うわぁ~~~、アキナ…、流石だわ。 悔しいけどミカちゃんにぴったりのドレス…、ぐうわかよ、あれは。」

「うん。そこは素直にありがとう。全く、こんな時に美優ったら、肝が据わってるわね」

「うん。そこも素直にありがとう。」



ピンクと黒の小悪魔っぽいドレス。

丈は足首よりちょっと上で、スカートのボリュームが大きくってもう可愛い。

網タイツで足はちょっとだけ見え隠れして、ちょっとエロい。

さすがそこはアキナのポリシー捨てなかった。うん。さすが。


黒いリボンのついた靴はそんなに高くないヒール。

レースのロンググローブがミカちゃんっぽい。

首に細いリボンまで巻いちゃって、まさにお人形。



「あ~~、あれはパラソルとか持たせたいね。」

「いやん。良いわね。鍔の大きい帽子も似合うと思うのよ」

「いいね。」



「いや、こんな時にお前達ふたりは何の話をしているんだ」



「うふふふふ。ペリドットさん?枯草って直ぐ出せるかしら?」

「はぇっ…!?枯草ですか・・・!?」

「えぇ!火種にするの!」

「・・・! えぇえぇ!出せますよ!? 折角なら燃えた後に良い香りが残るものにしましょう!!」



「ちょっと待て…!?何をしようとしている!?」



「ねぇ、マリンさん?」

「はい!私は火消しでもしますか!?」

「うふふふふ。いいえ、水蒸気って作れるかしら?」

「!!! えぇ!はい!勿論ですっ!!」



「待て、落ち着いてくれ…!頼むから…」



「デンカ~~、こんな時はもう楽しむしかねぇ!」

「デンカは止めろ!名前で呼んでくれ…!」

「えっ、なに急に…、ちょっと照れる…」




私達の御戯れが目に入ったのか、ジェード殿下はカツカツとフロアを勢いよく鳴らし、私達に近付いてくる。

その後ろにはあからさまな感じで隠れながら付いてくるミカちゃん。


他の貴族達はその道を開け、それと同時にミカちゃんの取り巻き男子達が集まってくる。

勿論、会場の警備として配置されていた副団長も。




「全く、お兄様もいい加減目を覚ましてください。 こんな悪魔のような奴等と一緒にいると、貴方もいつか醜く染まり、過去の魔女と同じにオズ島へ島流しに遭いますよ。あぁ、そもそも、その魔法を賜った時点で似た者同士かもしれませんね。」

「・・・・、口を慎みなさい。私にはいいが、女性に対し失礼だ。」



えぇ~、兄弟仲さいあくぅ~、空気もさいあくぅ~。

そしてオズ島ってなにぃ~~。



一瞬にしてピリピリとした空気に変わる。


ルビーはクロウを庇うかのように一歩前へ出て、口を開いた。



「あら、ジェード殿下。ごきげんよう。 おかしいですわね、どうして美香さんと一緒にいらっしゃるのですか? 私、ひとりで入場したと言うのに・・・」

「ふんっ、それはこれから分かること。」





「ルビー・マリアノ・・・! 私はお前との婚約を破棄する・・・!!」

「・・・・何ですって?」




それは波乱の幕開けだった。



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