第20話 誰が言おうと乙女だし!
アキナに連絡してから3日後──。
放課後、学園内の庭園にて私達は待ち合わせをした。
庭園に咲く、バラは分かるんだけど他の花が分かんない!けどめっちゃ綺麗!
どこかの夢の国のようにきっと丁寧に手入れされてるんだろうなぁ…。あー思い出すんじゃなかった、行きた過ぎるんですけど! なんて頭の中で考えながら写真に収めていた。
それから15分ぐらい経って、アキナが「待った~~?」と駆け寄ってきた。
平民棟からだとこの庭園は遠いから仕方ない。
いつもの女の子走り(私より確実に可愛い走り…)でキャラ全開!と思ったけど、明らかに様子が悪い・・・。
「ど、どうした…? 顔色めっちゃ悪いけど…?」
「い、いや、別に、大丈夫よ…! ちょっと疲れただけ…」
ふふふ。と引きつった笑い方をする。
はっ…!
まさかっ…!
「もしかして、デンカ来た…?」
「あ、え、ま、まぁ、そう…、・・・うん、来たよ…」
様子が悪すぎて乙女口調と男口調が混ざりまくってる。
「まじかー。 いつ来た?」
「んーと、昨日の、放課後、かな。」
「ミカちゃんは? 女、女は居た?」
「女の子は、いいえ、居なかったわ…、イケメンばかりよ!そう!もう皆イケメン! とにかくもう、第二王子殿下が眩しくて・・・、近くで見るとやっぱり一番イケメンよねぇ・・・、流石、王族って感じ。平民棟にはあんな神々しいお方居ないもの!」
「あー、まー、ね~…?」
イケメンパワーで嫌なことも口調もちょっと忘れかけてるアキナ…。
そりゃあまぁ…、顔はねぇ・・・あいつら顔だけは良いかんね~。
「でもそいつらに嫌なこと言われたんでしょ?でもイケメンなら許す!ってやつ!?」
「はぁ~・・・そこなんだよ…。」
可愛らしく頬に手を添えて野太い声でボソッと呟く。
お前のキャラどっちだよ!ってこっちが迷うぐらいブレブレ!
乙女で固定してくれた方が楽なんですけど!
「美優、『ジェード殿下が面倒な事言いに行くかも、ごめん!』って言ってたじゃない?」
「うん、」
「どんなことかと思ったのよ。 まさか僕の作ったドレスをご覧になって、風紀が乱れる!とか言われるんじゃないかと少し怖かった。」
やっぱり、アキナも多少は気にしてるのか。
見られてなんぼ、着られてなんぼ!ってな感じのやつだしね。
「それで殿下が直接、ドレスを作って欲しいと仰られた時には、あぁ僕も認められたんだ!って、それはもう嬉しくて嬉しくて…! けれど、殿下は、生地の色とか、素材とか、形状とか、事細かに指示してこられたの…。」
「うわ~」
「で、挙げ句の果てには『こんな感じのドレスで』頼むって…、」
「何それ、サイテーじゃん」
「しかもこれに似せて作れと言われたドレスが、メゾン・ド・パリシアのドレスだったの…。 もし、その言われた通りに作ってしまったら、それって・・・」
「パクり…じゃんね?」
「でしょう? だから私困っちゃって・・・、」
アキナは大きなため息を付いた。
つーかデザイナーに、似せて作れって!どんだけの神経してんの!?
平民の洋服店が流行追うためにやるならまだしも、そこのブランドに入ろうとしているアキナにそんな事…。
まじで信っじらんない!
アキナは流行を作る側だっつの!
アキナに流行追わせてどーすんだよ!
頭まじでタピオカなんだ…!
逆にそこまで来ると羨ましいんですけど!?
「一応ね? 私の作りたいドレスは脚を出したいのですが、って確認したの。」
「あ、そーなんだ?で? 何て?」
「ん~…、『美香にはそんなドレス似合うわけ無いだろう!?』って、・・・そんな、ドレスって、・・・・ね。」
アキナの新しい試みを見もせず否定して…。
んで、デンカの周りの男も「言うとおりに作れば良い!」とか言ってんだろーな。もう予想できるし。
私が言われた訳じゃないし、私が作るわけでもないけど、なんか悔しくて、励ましたくて、
「言っとくけどアキナのドレスは誰にも真似できない素敵なドレスだかんね!」
って、もしかしたら無責任かもしんないけど、そう言った。
そしたら、
「ふふっ、ありがとう。 流石アタシが選んだモデルね…!」なんて無理して笑った…。
「つぅ~~かぁ~~。 ミカちゃんこそ、そーゆードレスが似合うっての!」
花壇の縁に腰掛けながら「けっ!」みたいな感じでそう言った。
「そうなの?」
「そうだよー。 ミカちゃん見たことある?」
「うーん、遠くから囲まれてるのしか拝見したことないから・・・、でも、可愛らしい…、女の子~!ってっ感じの雰囲気だったような…。」
「あれ全部作ってっから! 中身は超悪女だし。気付かないのは馬鹿な男だけ!」
「ふ~ん・・・、それなら、何だか、アイディアが湧いてくるわね・・・」
私の横に腰掛けると、ぶつぶつと独り言をいいながら鞄から少し大きめの手帳を取り出し、何やらスケッチしてる。
そぉ~っと覗くと、どうやらドレスのデザイン帳みたいだ。
ん~・・・ラフ画すぎて私にはどこがどうなってんだか…。
「もうっ!覗き見はダメよっ!」
気付かれて、めっ!と人差し指を立てて可愛らしく叱られた。
けど、乙女な行動に自分でハッとして「ごほん。」とリセット。
いやいや、もう隠さなくても大丈夫だってぇ~。
「あーあ、でもこんなにアイディア出しても第二王子殿下のご要望じゃ無いから作れないんだっけ…」
ぱたん─、とデザイン帳を閉じて自分の股に置いた。
「勝手に作っちゃえば? 結局最後に着るのはミカちゃんだし~。意外と気に入るんじゃない?」
「まぁ、それも一理アリだけど…、僕は、一応庶民だから、ね。 ギリギリを攻めてみるよ。 あ、でも安心してっ!美優のドレスは何となく決まってるからっ♪」
パチン☆とウィンクするアキナに「あはは…、そーなんだ?」と少し苦笑い。
まじで私がモデルで良いのかと何度も思うけど…、うん、まぁ、正直に言うと…、体型維持すんのがね…、ちょっと…、最近ね、うん、がんばる…。
アキナはデザイン帳を仕舞いながら、また女の子のように喋りだした。
「でね~、今回は王族主催でしょう?あ、因みにアタシも行くわよ♪ ダンスもするだろうから踊って揺れる感じな生地にしたいのよ~、それで色はね~、美優がたぶん一番似合いそうなオレンジでぇ~~・・・」
それな…。
結局それ…!
貴族棟のランチめっちゃ美味しいから、つい食べちゃう…!
デザートもめっっちゃ美味しいし!?
しかもお金が掛んない・・・!
そりゃ食べちゃうし!仕方なくね!?
「んもう待ちきれないわっ!早く作りたくってウズウズしちゃう!アタシ達庶民オススメのカフェに早速いきましょっ!」
可愛く私の肩にぽすっと手を添えられ「へっ?」と間の抜けた声が出てしまった。
私が体型の事を気にしてる間になんか説明してたけど、ごめん!全然聞いてなかった!
ま、それを話すためにオススメカフェに連れてってくれるらしいし??
ちょー!楽しみ~!
ハッ!でも待って待って…!!
その前に重要なコトっ…!!
「アキナっ…! 顔色やべーから…!メイクしよっ…!?」
いつかのルビーみたいに疲れが顔に出まくってるし…!と思ってアキナの両肩をガシッと掴みそう言うと、一瞬「えっ!」と嬉しそうな顔をするも直ぐに「いやいや・・・」と引きつった。
「な、何言ってるの…僕、男だよ…? そんな、メイクなんて…、」
さっ、と肩に置いた手を下ろされ、私の股に両手が戻ってきた。
「えぇ…?でも心は女の子っしょ…?」
「えっ、」
「あ、メイクとかしないタイプの方…?」
「へ…、」
「あたしらまだ知り合って日が浅いかんね? まだ素を晒すのはしてくれないのかもだけど、別に無理に隠さなくても良いし! つーかモデルとかの前に もう友達じゃん?じゃなきゃこんな風に会わないし? だから、友達なんだから、もっと何でも言ってよ!」
「いや、待って、えっと、追い付かないんだけど…、え?」
「・・・ん?」
戻された両手はまだアキナに握られている。
困ったような焦ったような表情で見つめてきて、さすが男の子といったとこなのか、握られた力が強くなってきた。
すると、すこし、ほんの少しだけ潤んだ瞳でアキナはこう言った。
「分かんないんだけど・・・、ぼ、僕は、女の子でも、良いってこと…?」
「は? え、別に良くね? 逆になんでダメなの?」
ぶわっ─!とアキナの涼しげな目から雫がポタポタと溢れてくる。
「え!?え!?なに!?どーした!?あたしなんか泣かしちゃった!!?」
「ううん…!違うの…! そんな事、言ってくれた人初めてで…!」
「え?」
これまたアキナにお似合いのワンポイントの刺繍が可愛らしいパステルブルーのハンカチを取り出して、止まらない涙を拭いながら話し始めた。
「小さい頃ね、お人形を着せ替えて遊んでる近所の女の子達を見てね、どうしても混ざりたくって『仲間に入れて!』って言ったの。」
「うん、」
「『いいよー!』って言ってくれたんだけど、『男の子だからこっちあげるね!』って渡されたのは男のお人形だった。 でも女の子達と一緒に遊べてアタシは満足だったの。 で、それから何度か一緒に遊んでて、そしてある日母親に見付かって・・・」
「駄目って言われた?」
「…そう。」
「『男の子なんだから、女の子の遊びばっかりしちゃ駄目でしょう!?あっちで男の子達と遊んで来なさい!』って。それから着せ替え遊びはしなくなっちゃった。母親に怒られるからね…。それでなくても昔から女の子が持つような可愛いものを欲しがってたみたいだから…」
ハンカチを丁寧に仕舞って、にこりとしながら立ち上がり振り返ったアキナは、悲しそうに眉が下がっている。
「愛してはくれてるんだけどね…! 男の子が欲しかったみたい…! 女の子のお人形で着せ替え遊び、してみたかったなぁ・・・、結局出来なかったけどね…!」
「行きましょ?」と言うアキナに、こくりと頷いて横に並んで歩き出した。
「お母さんの気持ちは、まだ、あたしには分かんないけど・・・、でも、あたしは、アキナのしたいように生きれば良いと思う。」
「ほんとう?」
「うん、だって、才能あるし…!着せ替え遊びだって…! 今まさにやってんじゃん!人形なんかより ずっとずっと素敵なことじゃん!?」
「そう、よね…!」
「女の子達をアキナのドレスで可愛くしよ?? そしたらきっとさ、アキナがありのままで楽しくやってたら、きっとお母さんだっていつか認めてくれるんじゃない?」
アキナの顔を覗き込んで、に!っと笑って見せたら釣られて笑ってくれた。
「うん…、そうねっ…! 何だかもう吹っ切れたわッ…! これからは乙女全開で行くわよ!覚悟しなさいっ!!」
「どんと来ーーい!!」
「「あははは・・・!!」」
私達はまるで女の子同士のように腕組みしながら笑い合った。
「あっ!メイクは!??しなくて良いの!?」
「ん~~~~!して欲しいっ…!!」
「じゃ!あそこ座って…!」
ちょうど良くあったベンチにアキナを座らせて、グリーンのシャドウを使ったほんの10分位の簡単なメイク。
だけど、鏡を見せたときのあのアキナの表情・・・
私は一生忘れないんだろうな。ってそんな風に思うぐらいの笑顔だった。
因みにオススメのカフェは、サービスで付いてくる猫の形のクッキーがえぐいほど可愛いお店だった!
つーかサービスのクッキー凝りすぎ!
でも満足!!これもう通い決定で!
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