第7話 ヤった話は慣れてないっぽいー

 

「ぉお、今日もお美しい」

「まるでこの世の天使のよう」

「私め、貴女様に似合うと思いこちらのドレスをご用意致しましたのでどうぞ御召しになってください」

「私めはこちらのダイヤのネックレスを…!」

「私は遥々遠方の国から取り寄せた甘味を…!!」


「きゃ~~!みんなありがとう!うれしぃ~~!」



 あ"ー、はいはい始まってる始まってる。

 毎日のように繰り広げられるコスプレジジー共による貢ぎ合戦。

 で、あれでしょ?お決まりの、



「みか最近ピンクにハマっててぇ~、ピンクのドレスとか~バッグとかぁ~欲しいかなっ?」



 更におねだり煽り!

 つーかそんなポンポン買ってよく金持ってんな。

 そんなこいつら給料良いワケ??


 あ"ーーーウザイウザイ。

 どーーせあたしはオッサン部屋の要らない副産物ですよーーーっだ!


 一応出される食事や設備は同じだが、個人への対応ったら酷いもんだ。

 まるで私は居ないみたいな感じ。

 朝からのウザイやり取りに嫌気が差して私の学校に行く時間がどんどん早くなる。


 あんな遅刻ばっかしてたのになー。

 まっ、良いことだけどさー。



 ガラガラっと教室の扉を開けると、いっつも居るんだよなー。この無口の黒髪美形男。

 なんかワケ分かんねー本読んでっし。



「よう。あんたいっつも何時に来てるワケ?早くね?」


 まだ誰も来てないので、前の席の机に腰掛け話しかけてみた。


「7時には居る」

「はっや!何してんの?ちゃんと寝てんの?」

「君に心配されるほど不健康ではないよ」


 チラリと瞳同士がぶつかった。


「すんげーーきれーな目ぇしてんね!めっちゃ青っ!なにそれ!?リアル!?自前!!?やべー!」

「ぷっ・・・」


 グッと堪えるように笑ったソイツ。


「へっ?何か変な事言った?」

「いやっ…すまない。相手を褒めといて自己完結する奴は初めて見たもんだから…」

「???ふーん、何かよく分かんねーけどありがと」

「いや、君の事を褒めたわけでは、」



 ──カラカラ、


「おー!マリンおはよ~!」

「あら、おはようございます。お早いですわね?」

「いや、聞いてよぉ~~、」



(・・・褒めたわけではないけれど…面白い奴だな…)


┼┼┼┼┼┼┼┼┼


 そして次の日。

 また次の日も教室に行けばソイツしか居ないので毎朝会話するのが日課になっていった。



 名前はクロウと言うらしい。カラスかよってツッコんだらまた笑ってた。

 なんか存在も謎なタイプ。

「めっちゃ顔整ってね!?モテんでしょ?」って聞くとあっさり肯定。それでまた笑うの。

「あんたのツボが分かんねーんだけど!?」って聞くとゲラゲラ笑うの。超謎!

 短い時間でしか会話しないけど、ルビー達3人以外で呼び捨てで呼んでくれるようになった貴重な友達!




「まった変な所で笑ってんよ、何なの??どこがツボ??」

「いやいや、美優は本当に…くくっ…はっはっは…!」



「あらあら、お邪魔でした?」


 いつの間にやら登校してたルビーは、公爵令嬢とは思えないニヤニヤ笑みで私達を眺めていた。


「おールビーおはよ~。 こいつの笑うツボが謎過ぎてさぁ~…」

「こら美優、殿下にこいつなんて失礼ですよっ」

「でんか・・・?家電のこと…?」

「はい…?」


「くっくっく・・・!」


「いえ、殿下は殿下です…。」

「は…?でんか・・・って何…?」


「くくくッ・・・!!」


「いやいや、第一王子ですよ…?未来の王ですよ…?もしかして…」

「え"ーーーーー!!!おっ前!!王子かよっ!!!」


「あーーはっはっはっは・・・!!」


「知らなかったのですね…」

「言えし!!何だよ!!」



 いつだったか、確かに第一王子は同い年っつってたっけ…!

 しかもこのクラスって身分高い奴らしか居ないんだっけ…?

 今まで気付かない私、どんだけ馬鹿!?



「はぁ~~…美優は本当に面白い女だな…」

「はぁ、全く美優ったら…」



「皆さんおはようございます」

「おはようございます、珍しいですわね?」



 そう教室に入ってきたのはマリンとペリドット。

「お二人とも聞いてくださる?」と早速私の失態を話始めるルビー。

 まぁ、ビックリするぐらいドン引きされた。



「しかし殿下がこんなに笑っている姿を見るのは何年振りでしょう?」とルビー。


「そうなの?」

「そりゃあな、未来の王だという奴にずけずけと話し掛けてくる奴なんてそうは居ないだろ」

「ずけずけって…! あ"ー、マジかー、王子かよー、どーりで何か気取ってんなーと思ったわー」

「ま、まぁ…」

「美優っ…!」

「もう美優ったら…」


 呆れるルビーに、はっと気付いちゃった私!


「え?え?つーかつーか…!あんたら元婚約者!?」


「まぁ、そうですけど」

「まぁ、そうだけど」


「お互い親が決めてた事だからな…」

「そうですわね、思い出なんてありませんもの…」

「あ、そうなの…?つまんねーな」


「お前何を期待していたんだ…」

「この世界の男女関係ってさー、マジクリアつーかさー、何か純粋だよねー」

「「そう…、なんですの…??」」


 と、興味ありげなのはマリンとペリドット。


「うーん、そうだと思う…。ちょっと気分悪いかもしんないけどさ、ミカちゃんみたいな女一杯いるし、あんな男だって一杯いるし、」


「ミカ…って、あれだろ?ジェードに引っ付いてる」

「え、えぇ…」


 ミカの名前を出すだけで複雑そうな顔をするルビー。



「正直さ、うちらの歳でルビーみたいに純粋に誰かを愛せる人ってさ、あんま居ないつーか。しかも身体の関係とかもナシにでしょ?」

「なっ、美優ったら何をっ…!」


 キャ!と顔を隠す女子ズとびっくり顔の王子。


「いや、マジでマジで。あたしの世界じゃ14でセックスとか当たり前だから」


「セッ・・・!?」

「美優ったら!」

「きゃあ!」

「やだぁ…!」


 ぼわっと一気にのぼせる女子ズと目玉が飛び出した王子。

 え?そんなおかしな事言った??



「あ、当たり前って…! お、お前もッ…なんだ…?そのっ…」


 今にも爆発しそうな王子達。

 え?私もセックスしたのかって言いたいわけ??



「やだ~、あたしはヤってねぇし!! 向こうじゃなかなか貴重な純粋娘だし!これでも処女!!」

「な、なんだ…そうか・・・」


「まぁクロウったら、ホッとしちゃって」

「別にホッとなんてしてないぞ…!?」

「そうだよルビー、何でクロウがホッとするわけ?」


 けらけら笑ったのはどうやら私だけのようだ。

 何でー!?



「これはお互い時間が掛かりますわね」

「本当ですわ…」

「ねぇ。」



「う"お"ほっん 、何だ、それで、美優は向こうでこ、こ、こ婚約者は居なかったのかっ…?」


 ボッボッボッと火が出始めた王子。

 何故お前はそんなに顔が赤い!


「いやいや、向こうだと婚約者とか、そーゆー大それた感じじゃないつーか、もっとラフな関係つーの?婚約者一歩手前のまぁ、彼氏とか、恋人とかって言うんだけど、それは居た。けど、」

「「「「けど…?」」」」



 いや、食い気味…!

 コイバナに飢えてんの!?

 そんな話とか皆しないのか…?



「居たけど、この世界来る3時間前に別れたんだよねー」

「別れた…?」

「関係が終わったって事ですの?」

「そう。」

「それはまた、どうして…?」


「んーー」あんまり言いたくないなー。と思ったが中々の興味津々ぶりが凄い。

 まぁ、傷心してた身だし??こーゆーの話した方が楽になるし??クッソみてーな男だったし??


「んー、元彼がさ、あたしの身体目当てだったっつーか。」

「「「「へっ…!!?」」」」

「まぁ、こんな見た目だし??すぐヤれると思ったんでしょ?」


「何ですの…?そんな殿方がいらっしゃるの…?」

「結婚してもいないのに…??」


「まぁ、よくある話だよ。あたしがヤらねーからって、他の女 家に呼んでセックスしてたんだよね。しかもあたしのデート断ってソレだよ!?」


「酷い男だな…」

「最低ですわね…!」

「許せませんわッ!」


「っしょ!? しかもさ、その女あたしの仲良くしてた後輩だよ!??ありえなくね???」


「何て下劣!!」

「その女も女だな…」


「しかもしかも、元彼の浮気責めたら「お前のせいだ」つって逆ギレされてさ…!!めっちゃ腕掴まれてさ…!見て!アザ残ってんの…!!」


「下劣の極みですわッ…!!」

「何ておぞましい…!」

「女性に手を上げるなど…」

「信じられません!!」

「えぇ…!?天音様ってば男にそんな事を…!?」

「女性に暴力だなんてな。」

「信じられませんわよね…」

「そうですわよ、あり得ませんわ!」

「なぁ?」

「そうですわ、そうですわ!」

「まぁ、エレナ様!聞いて!酷いんですのよ?天音様が恋人に浮気され、暴力まで…」

「えぇ…!?そうなんですの…!?」



 え?え?

 お前ら誰だし…!!

 何か知らねーやつら加わってね!?

 つーか、いつから聞いてた!!?



 授業前で、とっくにクラス全員が揃っていることに気付かずどうやら話を聞かれていたらしい。

 さすがコイバナに飢えてる奴らめ…!噂話のスピードが早すぎるっ…!!



 1日が終わる頃には学年全体にもう話が広まっていたのだった…。



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