第3話 青いノート

彼はデートの時に青いノートを持って来た。

そこに思った事を書くという。


また今日もいつもの場所でデートだ。


くらげを2人で眺める…。

片方の手はガラスに触れ、もう片方の手が少し触れ合った瞬間…

自然と絡まるように繋がれる。


脈拍が上がる…その様子をこの子達に見られない様に、水槽からパッと目を反らす。


しばらく手を繋いで、色々な魚たちを眺めているとまた彼がノートを取り出した。私の手が寂しくなる。


「いい小説書けそう?」

「このまま千波と居れば、きっと書ける。」

 

どういう意味なのだろう?

私は好きだからずっと一緒に居たい。

彼の気持ちは分からない…あのくらげの様にふわふわと水を漂っている様だ。



彼は海も好きで、この場所もネタが降ってくると言っていた。


海に沈むオレンジ色の太陽を眺めながら…

彼はまたノートに夢中だ。


私は悔しくて鉛筆をもった彼の手を自ら遮った。


「ごめん…。」

と彼はノートを閉じ、ぎゅうっと手を握り返す。


「今度海に泳ぎに来ようか?」

「うん。」


海を眺めながら静かな時間が過ぎる。

小さな波音と私の心音が聞こえるだけ...。

彼の心音は分からない。


「千波、ずっと一緒に居よう。」


私より、少しだけ太い腕が私を包みこむ。

私の胸はキュンキュンする。

2人は静かに唇を重ねる...。


彼は愛の言葉は言わないが、私への愛のしぐさで愛情が充分伝わった。

その優しい笑顔、

優しい手、指先、温かい身体。

その広く優しい海にずっと包まれていたい。


ずっとそうして居たかった...。



彼は美しい生物の前でノートを開く。


「もう完成した?」

と青いノートを覗き込もうとすると...


「わぁ!」

と恥ずかしそうに閉じる。顔が珍しく真っ赤になっている...。


「もう少し待って!完成したらちゃんと見せるから。」


彼はまた愛しそうにくらげを見つめる。

そのまま水槽に吸い込まれて...彼らの様にふわふわと水に溶けてしまいそうに見えた。


「海渡くん!」


私は必死に彼の腕を掴んだ。


「どうしたの?」


「私から離れて行かないで...。」


「離れないよ。ずっと一緒だ。」















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