第101話 ムーンウォーカーだ
「いっぱい食べましたねぇ」
三人は食べ終えてカキ小屋を出てきた。出口を出れば、そこはもう駐輪場だ。
「タイヤは遠のいたけど、おいしかったから、いっか」
それでいいのか、光先輩。
「これで今シーズンのカキは終わり……いや、頑張ればもう一回」
結理先輩は本当にもう一回来そうではある。
「さて、次の目的地は二見ヶ浦なんだけどぉ」
出発の準備をしながら、光先輩が言う。
「この先のルートは二つ。玄海サイクリングロードで行くか、ほっそい歩道しか無くて車道も大して広くない曲がりくねった県道をそのまま進むか。愛紗ちゃん、どっちがいい?」
その二つの選択肢だと、選ぶのは玄海サイクリングロードしか無いように思える。
「あ、玄海サイクリングロードだと、食後の運動にちょうどいい坂が待ってるよ。どっちのルートを行っても、駐在所のトコからずっと登り坂だけど」
「県道を行きましょう」
愛紗は力強く即決した。光先輩の『ちょうどいい』が普通の人には丁度良くないのは、容易に想像出来る。
三人はカキ小屋を出発する。
カキ小屋の隣は砂浜になっており、ヤシの木の間に棒を通したブランコがいくつも有った。能古島のアイランドパークで見たようなブランコだ。
ここは店内で釣った魚を調理する釣船茶屋の本店。本店には釣りシステムが無いので活魚茶屋になっているが、バーベキューやカキ小屋が有る。
たった今、カキ小屋から出てきたばかり。さすがの結理先輩も……
「……行きたい」
――底なし沼?
他の二人は付き合いきれない。当然パス。
そのまま活魚茶屋を通り過ぎると、左側に銀色の大きな楕円形の物体が見えてきた。側面にはいくつかの窓が有る。
これはあれだ。間違いない。
「光先輩、事件です。宇宙人の侵略現場ですよ。本物のUFO、初めて見ました」
「コレをホンモノのUFOだと思う愛紗ちゃんが事件だよ。確かに地元の人にはUFOって言われてるけど」
「光先輩……実は宇宙人に魔改造されてるとか、無いですよね?」
「ねぇよ」
「光先輩、この指何本に見えますか?」
「見れるかぁ! ていうか、なんで脳震盪のチェックなんだよ」
この建物は建築家
葉祥栄が手がけた建物は少し変わったデザイン、目を引くデザインが多く、福岡市周辺住民の多くは博多大丸の向かいに有るガラス張りな天神南駅で、彼のデザインした建築物を見ている。
「良かったぁ……宇宙人はいなかったんだ」
「いや、竹取物語すら否定かよ」
竹取物語は日本最古の物語。かぐや姫というタイトルで有名だが、内容は光る竹の中にいた九センチの女の子が三ヶ月で成人になったり、その女の子が月の国から来たと言いだしたので兵二千人で守ろうとしたが天人無双だったり、天に一番近い所は駿河の国にあなる山の頂だったり、内容は結構アレだ。
「でも、かぐや姫って竹の中に小さい姿でいたんですよね? きっと宇宙から来たんじゃなくて、異世界から転生してきたんですよ」
「日本最古の物語が異世界転生モノって、ソレどうなの?」
話しながら進んでいると、
橋を渡れば、単体としては福岡市の一番西に有る小学校が左側に有る。福岡市の一番西は
この先が玄海サイクリングロードとの分かれ道で、自転車歩行者道を進むと玄海サイクリングロード。ややキツめの坂を登って下り、この先にある
三人は愛紗が選択したルートで、そのまま県道を進む。
小学校の先からは右の博多湾側がよく見えるようになり、今津の毘沙門山、能古島、志賀島が見える。
県道を走りながらなぜ玄海サイクリングロードが坂道を通すのかと思っていたが、玄海サイクリングロードと分かれた所で理由はすぐに分かる。
人一人で一杯の歩道。車道外側線から歩道の幅も狭い。かといって車道が広々という訳でもない。海の見えるのどかな風景だが、交通量が少ない訳でも無い。
これならずっと平坦だった玄海サイクリングロードは、坂があろうが県道を避けて自転車を走らせる訳だ。
「せまっ! こわっ!」
かと言って、迂回路の坂道を通りたいかというと……悩む。これならもうちょっと坂道を走られるよう、鍛えておくべきだった。
後悔しても遅い。
先の見通しが悪いカーブを曲がっていくと、遠くに住宅が建ち並ぶのが見えた。海には防波堤が有る。すぐに県道沿いも左右に住宅が建ち並ぶようになり、賑やかな雰囲気になった。この辺りから歩道も無くなり、路側帯へと変わる。
宮浦地区へと入った。
そのまま県道を進んでいくと、右側に二階建ての
ここから歩道が復活。その先には駐在所が有った。駐在所横の道は中央に縁石が有って二つに分けられた広い道路。これが玄海サイクリングロードなのだという。ここから坂は見えない。一体、どんな勾配の坂が有ったのだろう。
ここから歩道は自転車歩行者道へと変わり、県道は登り坂へと変わる。沿道も住宅が減り、畑の割合が増えてきた。
今まで体験してきた激坂と比べれば、全然緩い坂。しかし、終わりが見えない。
周囲は緑に溢れていた。見る余裕も無いが。
やがて建物も無くなって、緑しか無い状況へ。これ、もう山に向かっているんじゃないかと錯覚しそうである。県道は曲がりくねっていて、先がまったく予測出来ない。
それでも進むのは、また海が見えると信じているから。目的地は海沿い。このまま本格的な山には行かない。そう信じて坂道を登って行く。
やがて、少しずつ勾配が緩くなってきた。この感覚は何度も味わっている。
頂上だ。
ここからは下り坂。今までの苦労が吹き飛ぶ。
すぐに左側にはヤシやソテツが見えてきた。
海でも無いのに。
どうやらここは造園業者の土地らしい。
ヤシゾーンを過ぎると、回りは畑だらけ。
畑を過ぎると住宅が増えだし、県道も下り勾配が緩くなる。
こちらは
その漁港入口を過ぎると、自転車歩行者道が消えてしまう。
右側には、宮浦地区手前以来の海が見えた。
「はぁ……海っていいですね」
海の手前には広場があり、自販機やブランコ、なんだかよく分からないオブジェが見える。
愛紗はその中に未来を見付けた。
「あれってまさか……」
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