第88話 The 禁区 of Speed
「ここって、糸島が見えるんですか?」
三人は案内図の所まで戻ってきていた。次に行く場所を探している。
愛紗が指差していたのは、案内図中央下段に位置する入口の上に有る場所。
シートを広げた人が居るので広場のようだ。周囲に桜が何本か有り、その上の方は開けているように見える。その向こうは海が広がっており、その先には陸が描かれて『糸島』と書いてある。
「糸島っていっても、糸島市じゃなくて糸島半島だよ。コッチ側全部福岡市だし」
糸島半島は福岡県の西側端に有る半島。博多湾と接している部分は福岡市になるが、それ以外の西側は糸島市になる。
「でも糸島半島見えたかなぁ……。志賀島や西戸崎が見えるのは知ってるけど」
光は過去の記憶を呼び起こす。しかし、いくら辿っても糸島半島が見えた記憶はなかった。
「だったら、今から確かめに行けばいいじゃないですか」
「……それもそうだね」
光は愛紗がヘンなトコロで行動派だと思いつつ、自分も気になったので確かめることにした。
場所は案内図の上の方、方角で言えば西になる。
案内図は入口付近に有り、そこから真っ直ぐ奥へ行く。
大きな葉も無い木が何本も見える。この木は良く知っている感じがした。
「この木……見た事ある気がする……」
「サクラかな?」
そう言えば、あの案内図にも描かれていた。春になれば、この辺りも淡いピンク色で染まるのだろう。春になったら、春を実感する為にまた来たい。
「さくらもち……食べたい」
結理先輩は花より団子、かな?
枝だけのさくらの森を抜けると、糸島半島が姿を現した。
「うわぁ…………山!」
海の向こうに糸島半島が見えるが、予想に反して稜線が連なっていた。南側の佐賀県との県境は
「まぁ、山って言っても低山ばかりだけどね。
「光先輩、その話長くなりますか?」
光先輩は歴史を語り出すと止まらなくなる。愛紗はその前に光先輩を止めた。
「えー、筑前は面白いんだよ? 龍造寺――」
「あ、光先輩、あそこすごーく長い白いのが」
愛紗は話題を変えて話を止めるのを試みた。左側の方に白いのが見えたので、そっちに話題を切り替えようとする。
「あれって、砂浜ですか?」
「あの長さは……長浜海岸だね。後ろは松原だけど、そこに元寇防塁があってぇ……」
しまった! 博多湾の海岸はこの罠が有ったんだ。
元寇防塁は文永の役の後に博多湾に沿って築かれた石積の防壁。各国が分担して短期間で広範囲に作り上げた。弘安の役では上陸を防ぐのに役立っている。
「この辺りのは左の
光先輩は指を左から右に動かして説明した。
「え? 海水浴場グルグル回るんですか?」
「そうそう、周回コースになってて……って、誰が競輪やモータースポーツの話をした! オーバルじゃない! で、海水浴場から北の方の――」
再び指を動かして話始める。
どうやら話題を変える事に成功したようだ。良かった。
「あの辺りが海釣り公園かな?」
光先輩が指差しているが、よく分からない。思えば、海釣り公園の名前は知ってても、どういう所か知らない。建物がどんな形かも知らない。
「前も話したけど、レンタル竿も有るし仕掛けも売ってるから、手ぶらで行けるよ」
「なお……」
結理先輩が話に混じってきた。
「その先に店内で釣った魚を調理する事で有名な釣船茶屋の本店が有る……本店は釣りが出来ないけどバーベキューが有って、食材付コースも有って手ぶらで行ける」
「手ぶらが好きなんですか? あの辺りの人」
「「分かんない……」」
光先輩と結理先輩の意見が一致した。
手ぶらは魅力的だが、バーベキューは自転車で行って食べるにはちょっとヘビーすぎるかな?
「で」
光先輩の指が再び動く。
「一番右が旧
昔はこの辺りから
「あの地区はいりこが有名……だったけど、漁獲量減少で生産量が減ったから、近年は牡蠣推し」
「牡蠣! 美味しそう」
結理先輩が言うんだ。美味しいに違いない。
「牡蠣と言えば糸島が有名だけど……福岡市も牡蠣小屋が有る」
「牡蠣食べたい気分になってきました……でも」
改めて糸島半島を見る。 遠くても海岸近くを車が動いているのが分かる。
「どう見ても道路が海沿いですね。走ると寒そう」
「まぁ、海沿いはだいたい風があって寒いね。生の松原抜けたトコロとか、完全に海の横だし。海釣り公園辺りもすぐ海だね……でも、あの辺りだと海は東側だね。北風とかどうなるんだろう」
光はそう思ったが、防風林の役目を果たす松原の存在が、風の影響があるコトを感じさせる。
「でも……暖かくなるまで待つと牡蠣のシーズンが終わる」
牡蠣小屋の営業は大体三月か四月で終わる。営業開始は例年十月ぐらいだ。
「うぅー……悩む」
「それは別の日に考えればいいよ。今日は能古島に来てるんだから」
「そうでした。今日は牡蠣じゃなかったですね」
「ちなみに……牡蠣小屋も手ぶらで大丈夫」
やっぱりみんな手ぶらが好きなのかな?
そう思う愛紗であった。
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